就労継続支援を知る

今さら聞けない令和3年報酬改定 就労継続支援A型編

就労継続支援A型の評価方法が改定され、各事業所は岐路に立たされています。
この記事では、これまでの「平均労働時間」のみの評価から5項目の総合評価への改定によって生じる変化や改定の詳細な内容、これからの事業所運営で必要となるポイントを解説します。

労働時間からスコア方式へ

令和3年、就労継続支援A型の報酬が大幅に改定され事業所に大きなインパクトを与えました。これまでA型事業所の報酬基準は時間報酬型。利用者の平均労働時間によってのみ報酬が決まっていました。1日の労働時間が長ければそれだけ報酬も高かったのです。

しかし今回の改定では労働時間型からスコア方式へ変わりました。具体的にはベースとなる労働時間に加え、「生産活動」「多様な働き方」「支援力向上」「地域連携活動」の4つの評価項目が追加されました。

引用:厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」より

引用:厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」より

上記の表のように、スコア方式では平均労働時間を含む5つの項目の合計で事業所の運営状況が総合的に評価されます。それぞれの分野で高いスコアが出るとそれだけ高い報酬が得られます。スコアの最高点は200点。評価はスコア合計60点未満から170点以上の7段階にわかれていて、事業所は最高ランクである170点以上を目指します。

スコア評価の公表義務

労働時間のみの評価からスコア方式になったのは大きな変化ですが、小さな変化を挙げると、事業所ごとにスコアを公表する義務ができたことです。A型事業所は少なくとも年に1回、運営状況を自ら評価し、インターネットなどで公表しなければいけません。

もし、スコア方式での評価結果を発表しなかった場合、所定単位の15%が減算されてしまいます。たとえば1日の単位が最高評価の724単位であった場合でも615単位の扱いになってしまい、報酬が大幅に下がってしまうのです。

今回のような、就労継続支援A型事業所の評価方法に対するこれほど大きな改定が下った背景にはどういった経緯があるのでしょうか。

就労継続支援A型の内情はブラックボックス?

令和2年の厚生労働省のデータによると、就労継続支援A型の事業所数は4000近くに上ります。

A型事業所の評価指標は最初は労働時間だけでした。利用者のために質の高いサービスを提供している事業所であっても、反対に支援や利用者の就労環境が不十分な事業所であったとしても、同じ「平均労働時間」という指標でくくれば評価は同じです。

しかし数年前に少し風向きが変わりました。国が全国のA型事業所に対して、利用者への給料はきちんと事業収益から支払うよう省令が改正され、訓練等給付費からの給与支払いが原則禁止になったのです。

A型事業所は一般企業のように事業計画を立てて運営されます。収益が見込めないと判断されるとA型事業所開設にあたり役所が指定を出してくれません。省令の改正があったあと、事業収益が見込めずB型事業所移行に舵を切った事業所もあります。

とはいえ、その段階でも実情がどうであれ各事業所の評価は労働時間の一点のみ。今回の改定では、不十分な運営を行ってきた事業所は評価されず、適切な運営をしてきた事業所が正当な評価を得られるようになった印象を受けます。

実際、スコア方式で評価対象になる数字は前年度と前々年度の評価データです。

令和3年度は新型コロナウイルス(COVID-19)が猛威をふるいイレギュラーな状況なので、スコア方式の項目によっては前年度である令和2年度の評価は使わず前年度を令和元年とし、前々年度を平成30年をして評価するといったさかのぼった措置もあります。

しかしいずれにしても、「スコア方式に変わったから新しく取り組む」という付け焼き刃のような運営では今年度の評価は変わりません。

今頑張っている事業所かどうかよりも、今まで頑張っていた事業所が評価されます。より高い報酬をもらえる事業所は前年度、前々年度、あるいはそれ以前から真摯に誠実に質の高いサービスを提供してきた事業所なのです。

スコア方式のメリット

スコア方式になったことで今まで適切に運営をしてきた事業所が正当な評価を受けられるようになりました。それ以外にも評価の方法が変更になったことで生じるメリットがあります。

利用者のメリット

A型事業所は全国に4000近くありますが、質はまちまちのため、どの事業所を選べばいいのかわからないこともあるでしょう。

スコア方式の場合、事業所は評価点数を公表する義務があるので、どの分野に強くどの分野に弱いのかが数値でわかります。利用者のためにサービスを提供している事業所を選ぶうえで、ある程度可視化された評価はわかりやすい基準になります。

事業所のメリット

スコア評価を公表すると、どこのA型事業所が頑張っているのかわかります。これは利用者だけでなく同業者からも同様です。他の事業所と比べた相対的な評価も掴めるでしょう。

既に事業所を運営している場合、事業所の現在地が客観的にわかります。苦手な部分と得意な部分がわかれば、5つの項目の内どのカテゴリーに力を入れると事業所が伸びるかが明確になりました。

200点満点を求めるのはもちろんですが、できていない分野が明確になるのであれば、年度目標という形で計画が立てられます。やみくもに努力するのではなく評価に基づいた大きな目標値を設定できます。

スコア方式は利用者にとっても事業所にとってもメリットが大きいのです。

生き残るのは本来の支援をしている事業所

先ほど述べたように、数年前に国が全国のA型事業所に対して、給料は事業収益から支払うよう命令が下ったため、今残っているA型事業所はある程度健全に事業を運営してきたところだと思います。

そして今年、労働時間型からスコア方式に変わったことで、この傾向は更に加速するでしょう。なぜなら今回の改正では事業所の質的な部分を重視しているからです。

評価が7段階にわかれる設定になり、今まで真摯に適切に取り組んできた事業所が評価される環境ができました。今回の改正でふるい落とされる事業所も出てくる可能性があります。生き残るのは本来の支援を行っている事業所です。

本来の支援とは

A型事業所の本来の支援とは何かという問題は、とても難しいところです。A型は雇用契約を結ばないB型事業所とは違い利用者を雇用します。A型と一般就労の時給はそれほど変わりませんし、都道府県によってA型を一般就労と考えるのか、一般就労を目指すための通過点と捉えるのかにも違いがあります。

一応、国はA型もB型もスキルを身につけて一般就労を目指すための訓練場として位置づけていますが、A型事業所から一般就労へ移行している割合は少ないように思います。

このように、行政や地域、現場によってA型事業所の立ち位置には差異があります。それでも共通している本来の支援があるとすると、利用者のことを考え、かつ生産活動を重視している質の高い事業所といえるかもしれません。

これから求められるのは量より質

基本的なことをより真摯に

今回、これまでの労働時間のみの評価からスコア方式に改定されましたが、だからといって斬新で真新しい取り組みを始める必要はありません。

スコアの合計200点中、労働時間の点数は80点、生産活動は40点で合計120点にも及びます。制度が始まって間もないのであくまで肌感覚ですが、7段階評価の中間である合計スコア105点が取れるとB型事業所よりは収益があるといっていいのではないでしょうか。逆に100点以下の場合はB型に届きません。

たとえば7段階評価の一番下の60スコア未満の場合、1日の報酬は300単位ほどです。仮に利用者の定員が20人だとすると、利用者が毎日来たとしても1日の収益は6万円、月に20日間運営した場合でも月の収益は120万円です。サービス管理者などの人件費を考えるとこの金額での運営はかなり厳しいでしょう。

平均労働時間の評価から5項目の総合評価への改定は、言い換えると量より質の改定です。これまで地道に真摯に事業所を運営してきた事業所とそうでない事業所の差が如実に現れてきます。

質の高い運営をしてきた事業所は適切に評価され、そうではない事業所は淘汰されるでしょう。

これから事業参入を考えている方へ

もし、これから事業参入を検討している方や、既に運営をしていてうまくいっていない事業所があるとしたら、最初に力を入れるべきは「労働時間」と「生産活動」の2点でしょう。合計で120点を占めるこの2つのカテゴリーは就労継続支援A型の基本です。

特に労働時間は80点にも及びます。労働時間を確保するのは事業所の本来の役割としてもとても大切です。

A型事業所の運営は残念ながら玉石混淆です。一般企業が運営母体で、従業員は本社から出向してくる専門知識のない普通の職員というケースも少なくありません。

正直なところ、彼らが利用者の生活面をサポートする生活支援者や職業訓練に従事する職業支援者として適切な支援を提供できているのか不安です。

これまでのA型事業所は労働時間は確保できていたとしても、質の問題が大きかったように思います。

他の事業所に差をつける+αのポイント

「労働時間」と「生産活動」を確保すること。それが事業を続けるために最初に押さえておきたいポイントです。とはいえこれらはA型事業所の基本ですので、適切に運営している事業所であれば大きな差は生まれないと思います。

プラスαの違いが出てくるとしたら「多様な働き方」と「支援力向上」かもしれません。

事業所は毎年スコアを公表する義務があるため、利用する側からすると選びやすいですし透明性があります。これからの事業所は「短時間労働は可能なのか」「事業所で資格は取得できるのか」など多様な働き方の有無も見られるかもしれません。

多様な働き方のスコアが高ければ、利用者が働くうえで福利厚生が整っていると判断できますし、支援力向上のスコアが高ければ支援者の専門性の質がわかります。

A型事業所がどのような福利厚生を考えていくのか、従業員に対してどのような研修を行い、利用者を支援するための体制づくりを計画し実行するのか。このあたりがプラスαのポイントになるでしょう。

おわりに

スコア方式の導入により、事業所間の格差は大きくなっていくでしょう。量より質の改定がなされたことで、A型事業所が福祉的な人材を更に欲しがるかもしれません。

労働時間と生産活動がスコア方式の点数の大半を占めるので、ある意味では一般企業のような成果主義が求められています。持続できるA型事業所づくりのために、意識を変えて運営に取り組む必要があるでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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