就労継続支援を知る

就労継続支援事業所経営に潜むリスクたち

就労継続支援事業所経営のリスクには、実際に働いていないと気づかないリスクがあります。そこでこの記事では、事業所を運営しているからこそわかる就労継続支援事業所経営の隠れたリスクをご紹介します。気をつけるポイントを知り、不安を解消しましょう。

事業所経営に潜む主なリスク

安直な開設で引き起こされる定員割れのリスク

就労継続支援事業所経営でまずリスクとなるのは利用者集めと作業内容です。

現在、B型事業所の数は13000以上に上ります。単純に都道府県数で割っても1県あたり270以上。数の多さは利用者集めの大変さとイコールです。これだけB型事業所がひしめきあっていると、おそらく全ての事業所の利用定員が埋まっているわけではないでしょう。

B型事業所はA型に比べ開所にあたり比較的簡単に行政から指定を受けられます。ですが利用者集めや事業所内で行う作業を見つけるのはとても困難です。また、B型の利用者に支払う工賃(給料)の全国平均は15000円ほどです。

最低賃金以上を払う必要のあるA型よりは楽とはいえ、それでも全国平均の15000円を利用者にお支払いするとなると、それなりの収益が必要です。また、利用者がいなくても配置基準で定められている職員配置に人件費の支払い義務は生じるため、利用者獲得の見込みがあればよいのですが、よほど資金に恵まれていない限り早々に立ち行かなくなってしまうでしょう。

次にA型事業所です。A型はB型より数が少なく4000程度ではあるものの、これまでのA型は安直に開設をしていた事業所が多かったように思います。生産活動に力を入れず、利用者への給料は事業収益から支払わなくてもいいと判断し、しっかり計画を練り上げることなく参入したところもあるかもしれません。

A型事業所は国が定める最低賃金以上の額を利用者に払うきまりがあり、B型に比べ支出額が多く、更にそのお金は事業収益から支給するよう改定があったため収益の確保は必須です。

どちらの形態にも共通しているのは、事業所開設でまず集客の問題に直面すること。そしてただ定員を埋めるだけでなく、経営者は事業所内で収益を上げるための作業を見つけて利用者に提供しないといけない、ということです。

就労継続支援事業所は以前にも増して質の高さが求められるようになっていて、追いつくことが難しい事業所はふるいにかけられます。

定員割れのリスクや安直な開設を避けるには、利用者を成長させるコンセプトが必要です。「利用者が事業所に来て、ただ楽しく過ごす」だけでは生き残れません。この方法は短期的には集客に繋がることはあってもその後就労継続支援としての方向性を見失い必ずつまずきます。

就労継続支援として目的を持った運営ができていない事業所が「来て楽しい」事業所から方向転換すれば、それに満足していた利用者は当然、離れていってしまうのです。

障害種別によって生じる異なるリスク

障害種別も経営者が気をつけるべきポイントです。たとえばA型事業所では精神に疾患を抱えている利用者の割合が年々増加していますが、身体・知的に比べて週当たりの就労時間は短いのが実情です。

精神障害のかたは労働力の提供が断続的で波がある場合が多いため、残念ながらコンスタントに生産性を保つという点では戦力として読みづらい部分があります。では利用者の確保と生産性の向上という難題を抱えている就労継続支援事業所は精神障害のかたの受け入れをしないのか、あるいは割合を減らすのかというとそうではありません。

開所してから状況に応じて舵を切る対応力はもちろん大切ですが、経営のリスクを避けるために必要なのは開所前に事業所の指針を明確にすることです。開所の段階で、「知的障害」「身体障害」「精神障害」のどの障害種別を軸に運営していくのかを考えるのです。

平均就労時間の長い身体障害者であっても、動きの幅が限られるという傾向を持っています。静と動でいうところの静です。一方で知的障害のかたは行動の幅が大きく静と動の動に当たります。

異なる2つの障害種別のかたがいると、事業所内に静と動が発生し思いもよらない動きでぶつかってしまうリスクが生まれます。経営者は利用者が利用者に与えてしまうリスクも検討しないといけません。

また、急に大きな声を出す個性を表現することもあります。ほかの利用者は突発的な声が苦手かもしれません。あるいは調子を崩すと私のことを理解してほしいと、職員が話を聞く機会もあるでしょう。相談対応は数十分にわたる時もあり、その時間はほかの利用者へサービスを提供できなくなります。

そのほかにもトイレなどでハード面の工夫や介助が必要な場合もあります。多様性やセクシャリティもあるので一概には言えませんが、利用者と同性の職員が介護に当たる機会が多いでしょうし、その際は利用者に合わせて職員配置を考える必要があり、ソフト面の問題があります。

事業所の構造に余裕がないのに車イスの利用者が多いと幅を取ってしまい怪我につながる場合もあります。

開所前のコンセプトの明確化がリスクを抑える

今述べたソフト面とハード面のリスクは、開所にあたり事業所として何に特化するのか、どの障害種別を軸に経営を行うのかをしっかり検討していれば避けられます。

やはり事業所の特色を何にするのか、どういうかたをターゲットにするのかを最初に考える必要があるでしょう。身体障害のかたをメインに考えるのであれば、「身体障害者が働きやすいB型事業所です」という発信は受け手にとってとてもわかりやすい情報です。

ターゲットと作業内容を一致させるのも重要です。事業所として畑仕事をメインの作業にしようと決めたとしたら、動きの幅が広くはない身体障害者と畑仕事は相性が良くありません。どんな障害特性を持ったかたを主軸にして、そのかた達が力を発揮しやすい業務は何かを考える。開所前にそこを突き詰めるのが肝要です。

一般就労移行に伴うリスク

令和3年度のA型・B型事業所の報酬改定からもわかるように、国は就労継続支援事業所から一般就労への移行を推し進めています。

今さら聞けない令和3年度報酬改定 就労継続支援A型編

今さら聞けない令和3年度報酬改定 就労継続支援B型編

一般就労の流れは年々加速しているため、事業所の定員維持のために一般就労へ移行できる能力がある人を囲い込んでいる事業所は、外部から「この利用者はどうして就職できていないのか?」と疑問を持たれるかもしれません。

また、B型事業所を初めて利用するかたで今までに一度も一般就労で働いた経験がない人の場合、B型を利用する前に「一般就労が本当に難しいのか」アセスメントを取る必要があります。

B型事業所の利用は期間が定められていないため、一旦アセスメントを経てしまえば利用者は何年も事業所を利用できます。もしかしたら今まではそれでも問題はなかったのかもしれません。ですがこれから先は、何年にもわたりB型事業所を利用しているかたについて、一般就労できない理由を改めて聞かれたときに正しく答えられるかが求められます。

そのためには就職が困難な理由や就職を達成するための課題などを具体的に説明できるよう定期的なアセスメントが必要です。これからの就労継続支援事業はいっそう質が求められるでしょう。利用者が一般就労を希望しているのであればそれを叶える努力をする。A型・B型はそれを示さないと本来の目的に沿ったサービスを提供できていないと、行政からの指導のリスクは避けられません。

そのほかのリスク

1.虐待のリスク

そのほかに経営者が気をつけたいのは虐待のリスクです。決して安易に大丈夫とは言えませんが、社内で委員会を立ち上げる規定ができ虐待防止に取り組むことが必須事項となりました。実行しなければ減算になり、最悪の場合は指定取り消しとなるため、以前に比べ虐待防止の仕組みづくりが徹底されています。

2.新型コロナウイルスのリスク

B型事業所はA型事業所に比べ数が多いため行政からの指摘事項が全体的に多かったように思います。そのため事業所を運営するうえで気をつけるポイントや、修正することが多く、だからこそ徐々に改善され今日の適切な経営につながっていると推測します。

それでも新型コロナウイルスのような感染症は経験したことがありません。A型・B型に関わらず事業所内で感染者が出てしまうと一定期間、事業所を閉鎖しないといけません。経営そのものが不可能になってしまうことも十分に予想されます。

利用者が通所してくる就労継続支援事業はどうしてもリスクが高いので、非常時でもリスクマネジメントを徹底するよう計画を立て、機能しているかを検証してみてもいいでしょう。

3.法改正に伴うリスク

障害福祉サービスは3年に1度、法改正があります。厚生労働省のHPで法改正に向けての話し合いの記録を確認できたり、改正後も猶予期間を設けていたりはしますが、法改正は年度末に発表があるため準備は困難です。

しかし、事業所にとって理不尽で不適切な法改正がなされるわけではありません。できることを粛々と体現し、要点を押さえて運営できている事業所であれば十分に対応できるでしょう。

職員採用のリスク

経験者採用のポイント

実際に就労継続支援事業所で働いてもらう職員をどう決めるかは繊細な問題です。求人は相当な数がでているので、就職先を探している人にとっては場所を選ばなければ比較的楽な就職が可能でしょう。

ですが個人的な考えを述べると、たとえばサービス管理責任者として働いた経験を持つ就職希望者と、資格は持っていても実戦経験のない希望者とでは印象がかなり異なります。経験があるほうが、経営者にとっては喜ばしいのです。もし、新規で事業所を立ち上げるなら経験がある人を集めたいと思うのが本音でしょう。雇おうとしている職員に、困ったときに相談に乗ってもらえる事業所の垣根を超えた仲間のような横のつながりがあるかも大事です。

新卒採用について

就労継続支援事業の仕事は、肌感覚では職種によってはずっと続けられる終身雇用に近い印象です。長く働く職員が多いため、新卒採用もまた事業内容によって変わるでしょう。最近は変化があり、保育士の資格を持つかたが最初の就職先に福祉事業所を希望するケースや、資格取得の過程で障害者施設へ実習に来ることが多くなってきました。

それらの事情を踏まえ、新卒採用で色々な資格や幅広い知識を持つかたの雇用を視野に入れている事業所もあります。事業所によっては放課後デイサービスがあるため、知的障害に関する知識を持つ療育の勉強をした保育士は力を発揮できます。

とはいえ、即戦力になるかどうかはわかりません。組織として十分な人材を既に確保できている場合に、育成を兼ねて雇う形になると思います。

新規事業立ち上げの注意点

新卒採用と同様に、事業拡大には準備と人的な余裕が必要です。

今ある事業所の人数が配置基準と同じ数では事業拡大のような挑戦は困難でしょう。経営的投資の観点から育成目的で人員を増やすか、給与を増やして今いる職員になんとか頑張ってもらうか判断しなければいけません。

過去に組織にとって有用な人を紹介することでインセンティブを支給する手法を取る企業もありましたが、いずれにしても自転車操業ではなくある程度の余裕が新規事業には欠かせないでしょう。

事業収益のリスク

障害者が作る商品は安く売られる傾向があります。「障害者が作っている製品です」という売文句で安く販売している場合も多く、買う側にも「かわいそうだから買ってあげる」側面がなくはないと思います。福祉とビジネスのバランスを考えたときに、そのやり方は持続可能なのか疑問が湧きます。

私はクオリティの高い商品を生産しているのであれば正しく評価し、適切な値段で販売していいと思います。一般企業が生産した商品と遜色のない質で作ったのであれば、利用者の頑張りや労働力をないがしろにしたり、なかったことにしたりする安い価格にしなくていいでしょう。

ただ、まだまだ福祉イコール安物という偏見を持っている人はいて、特に組織とのやりとりになったときに、「福祉事業所が作った商品だから安くしてよ」という視点で交渉してくるところもあります。そこで「NO」と言えるかが大切です。

また、福祉事業所自体が商品の価値を低く見積もってしまう風潮もあります。
たとえば福祉事業所が野菜の販売所の一部を借りて販売していたとして、きゅうりを一般の農家が3本入りで販売しているなか、同じクオリティと金額にもかかわらず5、6本入りで販売し、ほかの生産者から苦情が来ることがあります。

業界的に弱く扱われる場面があるのが事実だとしても、事業所自体がその流れに加担することなく、質の高い商品は適正価格に引き上げるべきでしょう。

おわりに

この記事では、就労継続支援事業所経営に潜むリスクをご紹介しました。職員採用や生産した商品の価格設定など気をつけるべきポイントは様々ですが、それらのなかでも肝となるのはやはり利用者集めと作業づくりです。

開所前にどういう方向性で経営するのかを練り、コンセプトの明確化を徹底することで、開所後のリスクは大幅に軽減できるでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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