就労継続支援を改善

平均工賃額を左右する「目標工賃達成指導員」の実情と導入のポイント

令和3年度の報酬改定で、就労継続支援B型の平均工賃額の重要性は増しました。この記事では、参入を検討している人や、開設して間もないかた向けに、平均工賃向上を目的とする「目標工賃達成指導員」の実情や導入のタイミングなど仔細な情報を提供します。

目標工賃達成指導員の概要については『就労継続支援B型の工賃向上に欠かせない「目標工賃達成指導員」』をご覧ください。

目標工賃達成指導員配置加算の現状と採用に適した指導員の傾向

目標工賃達成指導員の業務内容

目標工賃達成指導員は、目標工賃を達成するために配置される専門スタッフで、就労継続支援B型事業所のみ算定可能な職業です。主な業務内容は「受注している作業の単価向上のための交渉」「新しい作業の受注営業」「作業能力アップに関する支援」「作業工程の見直し」などです。

就労継続支援B型は3年に1度「工賃向上計画」を作成します。工賃向上計画とは、利用者に支払う工賃を上げるための計画を3年単位で策定する計画書のことです。

工賃向上計画と目標工賃達成指導員は密接にリンクしています。まだ目標工賃達成指導員がいない場合はどのような取り組みを行うかプランを立て、作成した工賃向上計画を踏まえ、目的に見合った目標工賃達成指導員を採用します。

もし目標工賃達成指導員がすでに配置されているのであれば、指導員に中心になって工賃向上計画を作成してもらうのが本来の主旨です。

現在活躍している目標工賃達成指導員は営業のプロより手厚い支援要員

目標工賃達成指導員になるための資格や取得してもらいたい資格はありません。求められるのは資格より仕事受注のスキルです。

しかし現状、本来であれば目標工賃達成指導員に求められる、仕事の受注につながる営業面や経営的手法に特化したスキルを持つかたを雇っている事業所は少なく、利用者への手厚い支援体制を支える職員としての役割を担う場合がほとんどです。

以前は目標工賃達成指導員の加算を得るためには、工賃向上計画の作成以外にも前年度の工賃実績が都道府県等に届け出た工賃の目標額以上であることや、前年度の工賃実績が地域の最低賃金の2分の1以上など、いくつかの条件を満たす必要がありました。ですが少し前に法改正があり、手厚い支援に比重を置く加算体制となったのです。

現在は、工賃向上計画の作成と実際の配置だけで済むという意味でとても取り入れやすい加算となりました。営業のプロを雇い工賃を上げなくても加算自体は取得しやすいのです。加えて、目標工賃達成指導員の加算額の大きさも、すでに指導員を配置している事業所の多くが手厚い支援体制の強化を選択していることに関係しています。

(画像=引用:厚生労働省HP 第13回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料(資料3)より)

事業所の定員が20名の場合、1日につき1人あたり890円ほど、全体で1日1万7〜8千円ほど上乗せされます。利用日数が月に20〜25日であれば目標工賃達成指導員配置加算だけで月に40万円前後が入ってきます。

これだけの加算金額と条件の緩和を勘案すると、営業のプロを雇い無理やり仕事を獲得しなくても、利用者に対する手厚い支援に力を注ぐことが可能です。現在目標工賃達成指導員を導入している事業所の多くは既に安定的な収益のある事業所です。

安定して利益を上げている事業所は、営業のプロを雇うより加算を使って手厚い支援体制の強化目的で職員を1人配置するメリットのほうが大きいでしょう。

資金力で目標工賃達成指導員の傾向が変わる

どのようなタイプの目標工賃達成指導員を雇うかは事業所やその母体に安定的な収益があるかでわかれます。スタートラインの状況によって、支援体制を手厚くさせるかたを雇うか、仕事受注のスキルに特化したかたを雇うのかが変わるのです。

母体や別事業などで最初から安定した利益がある事業所であれば手厚い支援体制の強化でいいでしょう。また、あえて初めから営業のスキルをもつ目標工賃達成指導員を配置して短期間で利用者を獲得する選択も可能です。

それほど資金を持たず作業のない事業所は、営業のスキルを持つタイプの目標工賃達成指導員の採用一択です。しかし単独で始める場合、しばらくの間は目標工賃達成指導員を配置する余裕はなく、就労継続支援B型事業所開設に必要最低限の人員構成で精一杯でしょう。

理由はやはり資金力です。B型事業所を開設するとき、定員20名の事業所で利用者1人につき2万円の工賃を払うのであれば月に40万円必要です。通常の人件費の割合を考慮すると毎月100万円近くの利益を生み出さないといけませんし、それはなかなか難しいでしょう。

医療・福祉業界はシステム上、売上がすぐに入るわけではありません。月の実績は翌々月の収益に反映されます。たとえば今月20名の利用者が20日来たとしても、収入を得られるのは2ヶ月後です。

ということは、新規に立ち上げた場合、最初の2ヶ月間は無収入です。資金確保や運営上の体力は必要でしょう。単体での立ち上げは軌道に乗るまでの体力を考えた経営が必須です。

本来であれば、売上に力を発揮してくれる目標工賃達成指導員がいると安心して経営に専念できるのですが、そのためにはさらに多くの資金が必要です。利用者を獲得するために工賃額を上げるのも一つの手段ではあるものの、この場合も同様に資金がないと不可能です。

また、新規の立ち上げで定員に対し充足率100%はまずありえません。福祉の世界は徐々に利用者が集まる傾向が非常に強いのです。

B型事業所は開業時に必ず配置しなければいけない職員がいます。「この時点で定員が確実に埋まる」という見通しが立てば目標工賃達成指導員を初めから採用する選択は可能です。しかし、しばらくは定員に届かない状態が続くため、単体で立ち上げる事業所はやはり必要最低限の構成での運営で手一杯でしょう。

目標工賃達成指導員を導入するタイミングは利用者10名前後から

人件費によるものの、利用者が少ないうちに営業のプロや手厚い支援体制人員を配置しても運営は逼迫します。職員1人分ほどの余力や配置できる見通しがたっていれば導入できますが、利用者が少ない状態ではマイナスになってしまいます。

目標工賃達成指導員配置加算を検討する目安は、定員20名の事業所であれば利用者が10名前後になってからです。

施設長(サービス管理責任者と兼任可能) 常勤者1人以上
職業指導員 10:1(利用者数:職員数)以上
生活支援員 10:1(利用者数:職員数)以上

上記の通り、就労継続支援B型を開設するには最低3人は常勤職員を配置しなければいけません。利用者が2〜3名しかいなくても同様です。職員の日当が1万円であれば利用者が10人来てやっと赤字にならない程度かもしれません。したがって、利用者10人前後が目標工賃達成指導員配置加算を検討するひとつの目安でしょう。

新規開設に必要な目標工賃達成指導員は営業のプロ

実際の事業所開設にあたり、母体の大小や導入時期に関わらず経営者が困るのは何を作業にするかです。福祉は作業を生み出す異業種との交流や関わりが少ない業種です。

すでに目標工賃達成指導員を導入している事業所の多くは、支援体制が整った状態で更に手厚い支援のための人材を配置していますが、新規に事業を立ち上げる場合は、大きな母体や別の収入源、またはよほどの資金力に恵まれていない限り営業に特化した人材が必要でしょう。

色々な企業を回って作業を獲得するノウハウは福祉業界だけではなかなか身に付けられないスキルだと感じます。仕事の受注に長けている営業力に優れた指導員であれば、利用者の作業が充実します。事業所を運営するうえで、毎日できる作業があるのはとてもありがたいことです。

また、事業所利用者の特性の把握やどのような作業であれば可能であるかなど、事業所の実情も踏まえて仕事を見つけてくる、バランス感覚に優れた人であればより理想的です。

そのさい、目標工賃達成指導員を常勤にするのか非常勤にするのかは一長一短あります。常勤職員採用は人件費が多くかかるものの、目標工賃達成指導員の業務にのみ集中できる環境であればうまくいくと思います。

そのぶん業務はすべてその人に集中するため、責任はとても大きくなります。一方、非常勤が多いと責務は分散できます。常勤か非常勤かについては事業所の方向性によって大きく変わるでしょう。

ほかの仕事との兼務

生活支援員と職業指導員との兼務は条件付きで可能

生活支援員と職業指導員との兼務は基本的にできませんが、時間を区切る形であれば解釈上可能です。福祉業界では、仕事を兼任できるように時間を区切って勤務表を組み立てることが少なくありません。

しかし、時間を区切った兼任ができるのは利用者の定員が20名を超える大きな事業所でないと無理でしょう。定員20名以下だとそれぞれの業務に手一杯で、時間を区切って目標工賃達成指導員と生活支援員などを実質的に兼務させるのは難しいと思います。

定員数が20名を超える事業所の場合は配置しなければならない職員数も増えるため、生活支援員や職業指導員が数名います。

目標工賃達成指導員 1人以上(常勤換算方法※)
生活支援員、職業指導員 7.5:1以上(利用者数:職員数)
目標工賃達成指導員、生活支援員、職業指導員 6:1以上(利用者数:職員数)

※ 常勤換算とは、職員をフルタイム勤務に換算した場合に事業所で働いている平均職員数です。正社員やパートなど雇用形態は問いません。

上図のように、目標工賃達成指導員の加算を得るには条件があります。まず、「利用者」と「生活支援員・職業指導員」の比率が7.5:1以上であること。それを達成するためには、職員は2.5人くらい配置しないといけません。都合よく0.5人になる人がいなければ3人雇って、実質6:1に近い状況になるかもしれません。

次に「利用者」と「目標工賃達成指導員・生活支援員・職業指導員」の比率を6:1にする必要があります。たとえば目標工賃達成指導員が常勤換算数で1.2人いれば利用者と職員の比率が6:1になる場合、職業指導員や生活支援員が3人いれば端数の0.5は何にでも使えるので、それを足して兼務する方法は可能かもしれません。

経営者を目標工賃達成指導員に

目標工賃達成指導員と経営的な判断には密接な関わりがあります。たとえば営業や仕事を探しに行くこと、計画の作成は目標工賃達成指導員の有無にかかわらず、実質、経営者が担っています。

そのため、経営者を目標工賃達成指導員として組み入れ加算を取ることは可能です。B型事業所に携わっている個人の意見として、加算を取らない理由はありません。

目標工賃達成指導員の新たな可能性

一般企業からの出向

福祉業界内からの目標工賃達成指導員の採用以外に、事業所と一般企業が契約をして業務委託をする方法があります。

事業所では直接雇用せずとも企業から出向してもらう職員を目標工賃達成指導員としてカウントすることは可能ですので、勤務表上は「常勤数1」と換算できます。出向元の企業は何らかの生産活動を行っているので、障害のあるかたができる作業を優先的に斡旋してくれるかもしれません。

事業所側から外部の目標工賃達成指導員を探しに行くのではなく、企業側からのオファーで目標工賃達成指導員を受け入れることで、事業所は加算が取れ、企業側も人手の足りていない業務を福祉事業所に担ってもらえます。

企業の仕事を請け負えるだけのハード面の整備や投資を行い、環境さえ整えば双方向のメリットがあります。ある分野に強みを持つ企業の業務を担うB型事業所は十分ありえます。企業からの出向であれ、B型事業所で業務を請け負う形であれ面白い取組でしょう。そのような目標工賃達成指導員の活用方法はあるかもしれません。

福祉未経験者の採用

事業所と一般企業との契約はまだまだ経営者同士のつてが大きいと思います。ですが企業と個人であればマッチングは比較的容易です。行政主体での福祉に特化した企業ガイダンス、栄養士や保育士など福祉以外の新卒者の採用増加、転職サイトからの紹介など募集形態は多様化しています。

特に転職サイトのような仲介者がいると業界内で目標工賃達成指導員を募集するだけでは得られないような人材が期待できます。目標工賃達成指導員に関わらず福祉業界は事業内容・作業内容に合わせた他職種からの転職や採用が多い印象です。

たとえば事業所が飲食店を経営している場合、福祉の人材より飲食店経験者を採用するほうが安心です。また、飲食に関するスキルだけでなく福祉の知識や経験があるのは確かによろこばしいことですが、最近は色々な事業所が入社後の人材育成に力を入れる傾向にあり、福祉未経験でものちに福祉の資格を取るパターンが多々あります。

実際のところ、すでに福祉に従事している人より、別業種のかたを引き入れ福祉を学んでもらうほうが運営する側にとってはありがたいものです。名目上は目標工賃達成指導員として入るわけではなくとも、他職種から転職してきたかたがゆくゆくは目標工賃達成指導員に配置転換され活躍する可能性は高いでしょう。

おわりに

目標工賃達成指導員配置加算は就労継続支援事業所B型を運営するうえで非常に役立ちます。導入の時期や事業所の大きさや資金力によって変わる指導員のタイプ、一般企業からの出向や他職種からの導入の重要性を理解することでこれからの事業所経営に活かせるでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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