就労継続支援を改善

就労継続支援事業所利用者の安定した継続に向けての取り組み(後編)

就労継続支援事業所を継続してもらうためには信頼関係の構築とトラブル防止の工夫が必須です。2回にわけて利用者継続の方法を紹介する記事の後編では、利用者と職員のモチベーション維持の方法や、重要事項説明書を使った時間外の利用者対応を解説します。

※記事の前編はこちらをご覧ください→「就労継続支援事業所利用者の安定した継続に向けての取り組み(前編)」

就労継続支援事業所の利用継続のためのモチベーション作り

利用者継続のための取り組みには、利用者はもちろん職員のモチベーションの維持も欠かせません。利用者のためを思って行動しても上手く行かない場合があったり、多忙などで余裕のない状態であったりしても常に安定した態度で利用者と接する必要があります。

利用者が原因で起きるトラブルや職員のスキル不足が引き起こすトラブルなど上手く行かない問題が山程あるなかで、感情的に怒らず適切な支援方法で対応できるよう研修や自己啓発の促進、職員も相談できる環境などの工夫が大事でしょう。

ここからは利用者に事業所を長く続けてもらうための職員のモチベーションと、利用者のモチベーション維持の方法をお伝えします。

職員のモチベーションの維持の方法

1.一般就労という目的の共有
まず大事なのは一般就労という目標を職員と利用者で共有することです。利用者の一般就労への挑戦に対して応援する姿勢を見せ、仮に一般就労が上手く行かなかったときでもまた挑戦したいときはいつでも事業所に帰ってきても大丈夫というスタンスが大切です。

一般就労ではなくとも本人が何らかの目標を持ち、「ここまでできたら次のステップを考えましょう」と具体的に事業所と話し合える目的の共有がポイントでしょう。

2.職員の成功体験
また、関わった利用者の成長の過程がわかると本当に嬉しくなると思います。かつての利用者で一般就労に移行したかたが頑張っている姿も励みになるでしょう。そのかたが勤めているお店に行って声をかけ喜びを分かち合えるのも大きなやりがいです。

利用者が叶えたかったゴールに向かって伴走し達成できると、利用者だけでなく職員の成功体験にもなります。

3.事業所経営の視点を持つ
それでも多忙などで万全ではない状態のときは、利用者と丁寧に関わるのが難しい場合もあるでしょう。そんなときは金銭面を考えてみるのもいいかもしれません。就労継続支援は福祉であると同時に、利用者が週により多く安定して通所できるとそのぶん事業所の収益に繋がる事業の側面もあります。

誰かの役に立っているという綺麗な面だけではなく、金銭面の考えかたも心の隅にあると余裕のないときでも利用者に対して丁寧に接しやすくなると思います。

もちろんやりすぎは注意ではあるものの、管理・監督する立場の人間だけでなく現場の職員が金銭面(事業所経営)の視点を持っていると、利用者を大切にする方向へ意識が働くと思います。

極論を言うと、職員が調子の悪いときになおざりに対応した利用者が事業所を離れてしまって、その結果として職員の給料を下げざるを得ないこともあり得ると思います。逆に、しっかり対応して利用者が長く継続してくれると職員の給料アップにつながる場合もあると思います。

福祉業界といえど、企業として競争の世界に参入した以上はすべての職員が事業所運営の意識を持つことも大事なのではないかと感じます。その意識があると、たとえばすべての利用者に1日1回は必ず声をかける取り組みをする事業所も出てくるでしょう。利用者との信頼関係を築くための安定したモチベーション維持のアプローチは色々あると思います。

利用者のモチベーション維持の方法

利用者のモチベーションには、規則正しく生活するという日々の生活改善で自身の健康を保つことや、工賃などがあると思います。

事業所に工賃規定があると目標設定が具体的になると思います。「〇〇の作業ができるようになると工賃が上がる」という仕組みがあれば、工賃が上がると同時に利用者が可能な作業量が増え質も高まるはずです。その結果、だんだん一般就労のレベルに近づいていくと感じます。

このような段階を踏めると利用者のモチベーションにつながると思います。定期的な面談で利用者に現時点での評価を伝え、「〇〇の部分ができるようになるともう少し工賃を上げられる」「□□までできると一般就労が見えてくる」と今後の目標を共有する。一般就労を見据えた工賃規定があるとモチベーションが上がると思います。

また、一般就労は困難であっても継続して利用してくれているかたの工賃を上げるのもひとつの手段です。「〇〇年以上継続して働いてくれている利用者の工賃は□□円」のように、勤続年数をみて工賃の高さを評価します。

あるいは仕事に対する姿勢を評価する方法も大切です。それぞれ個性があるなかで、仕事ができるかできないかに差が出るのは当然です。成果だけに注目すると、利用者の良さに気づかない質の悪い事業所になってしまう可能性があるので注意が必要です。

何年も同じ単純作業しかさせてもらえず事業所を離れたいと思ってしまう利用者も、工賃規定があると次のステップに進みやすく、そうすると同じ事業所内であっても作業内容はおのずと変わるはずです。

段階を踏んで一般就労に近づくという感覚は利用者のモチベーションになると思います。加えて評価制度や工賃規定があると、漠然とした頑張りから指標のある頑張りに変わります。

利用者支援と職員の負担のバランスの取りかた

重要事項説明書にルールを明文化し利用者に納得してもらう

信頼関係を築く大切さを考えたとき、時間外の対応の課題は切っても切り離せないと思います。たとえば夜中に「明日は行きたくありません」「話を聞いてほしい」などの相談があった場合に職員がどこまで支援する必要があるのかはとても難しいテーマです。

利用者にとっては時間外でも積極的に支援してくれる職員のほうが信頼感が生まれやすいと思いますが、特定の職員に集中してしまう環境は、対応した職員が処理できず潰れてしまうこともあり得ます。

事業所は、利用者に手渡す重要事項説明書に「相談は〇〇時〜〇〇時までです」と記載したほうがいいと感じます。重要事項説明書の変更はそれほど難しくありませんし、もし記載のない特殊な事例が発生した場合は重要事項説明書の内容をその都度変えていくべきだと思います。

重要事項説明書は利用者に対してのルールであると同時に職員が守るべきルールです。明文化された決まりがなければ職員も毅然とした対応ができないと思います。

トラブルは第三者機関に相談し問題を共有する

ただ、現場で働く職員にとっては、重要事項説明書に書いてあるから対応できない旨を利用者に伝えてもどれだけ納得してもらえるかわからないこともあると思います。特性によっては、前日に利用者と約束した内容が翌日には守られないケースは珍しくありません。

そういうときは、重要事項説明書に記載されている内容を守ってもらえていない現状と、今後も利用者から苦情が出る可能性があることを、行政や利用者が通院している病院などの関係機関にあらかじめ相談し第三者の意見を伺います。

関係機関と情報を共有することで、解決に向けた取り組みを多職種連携で対応できる時代です。

ケーススタディの場を設けて職員一人ひとりの負担を軽減する

矛盾するようですが、重要事項説明書に則って時間外の対応を制限するなどのルールを守ってもらうのは事業を運営するうえで仕方がない一方で、現場で利用者と接する以上は重要事項説明書を盾に突き放してしまうと信頼関係が簡単に崩れてしまいかねない不安もあると思います。

せっかく時間をかけて積み上げた信頼が崩れてしまうのではないかという不安と職員は闘っている気がします。利用者になかなか言い出せない葛藤はあるかもしれません。

そうならないためには、会議などでケーススタディの場を設けて職員全員で議論し今後どうするのかを決めてもいいかもしれません。たとえその場で結論がでなくとも「このような事例があったらどのようにすればいいか」と話すだけで心が楽になるかもしれません。

ほかの職員が知ってくれて理解してくれる場があればサポートも得られやすくなります。新しく来た職員も対応しやすくなるでしょう。いずれにしても、一人の職員や一つの事業所だけで抱え込まずに、色々な関係機関に相談し共有すると事業所が最終的に選択した判断は適切であると全員が認識しやすくなります。

その結果、利用者が少し不快な思いをしてしまったとしても関係機関へ相談し事業所内でしっかり話し合ったうえで決定した内容であるため、現場で働く職員の気も少しは楽なのではないかと思います。個人でなんとかしようと思うとどんどんきつくなっていくと思います。責任を分散するのはとてもいい方法でしょう。

おわりに

利用者継続の要諦を知るには、まず利用者が離れてしまう原因の把握が大切です。人間関係の悪化や障害特性の傾向など色々と原因はあるものの、最終的には職員との信頼関係の有無が大きな差を生みます。

また利用者の安定した継続のためには、職員のモチベーションの維持も不可欠です。誠意を持って利用者に対応する姿勢と同様に、職員が安心して働くために重要事項説明書などを活用したり関係機関に問題を共有したりする工夫が要るでしょう。

信頼は日頃の積み重ねがないと得られません。日々の業務のなかで利用者を大切にする姿勢を地道に体現し続けることが、利用者継続のポイントでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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