就労継続支援を改善

就労継続支援事業所が生き残るには?利用者確保につなげるための道標 

A型・B型ともに増加傾向が続いている就労継続支援。新規開設したものの十分な利用者確保ができず悩みを抱えている事業所は少なくありません。今回は、すぐには高い工賃やほかのサービスの併設が見込めない事業所が利用者を獲得するポイントを紹介します。

利用者確保は至難

令和2年度の厚生労働省のデータによると、就労継続支援A型(以下「A型」と表記)の数は4000近く、就労継続支援B型(以下「B型」と表記)は13000以上に上ります。

A型もB型も新規事業所の開設自体はそれほど大変ではないものの、これだけ数が多いと定員分を確保するのは非常に困難です。

A型の場合は利用者と雇用契約を結ぶためハローワークに登録ができます。またA型はB型に比べ数が少なく原則最低賃金以上を支払う必要があるため、適切に運営していればそれだけで利用を検討しているかたから人気が出ると思います。

利用者にとってB型よりA型のほうが魅力的で、希望者が多いのは間違いないでしょう。最低賃金以上の支払いはそれだけで大きな強みなのです。

ただし、A型は利用者への賃金を事業収益からしか支払えないデメリットもあります(詳しくは今さら聞けない令和3年報酬改定 就労継続支援A型編 | はたらくBASEをご覧ください)。

いずれにしても、就労継続支援事業は参入のしやすさに比べて利用者確保の難易度が高いという課題をいつも抱えているのです。

利用者獲得のための3つのアプローチ

利用者の確保は困難という前提を踏まえ、新規事業の開設を考えているかたや既に事業所を運営しているものの利用者獲得に繋がっていない事業所はどのようなアプローチが有効なのでしょうか。

①事業所の特色がわかるパンフレットを持参し相談支援事業所に挨拶へ

基本的に、A型・B型にかかわらず相談支援事業所の相談支援専門員(以下「相談支援員」と表記)や病院などのソーシャルワーカーに自分たちの事業所を知ってもらうことが大事です。

そのために事業所のパンフレットやリーフレットを持参し顔を覚えてもらう。それがスタートでしょう。

事業所を知ってもらうための材料は必須です。相談支援事業所には就労継続支援の利用を考えているかたが相談に来ます。たとえばデザインの作業を希望している利用者がいた場合、自分たちの事業所の作業内容と合致していれば相談支援員が紹介してくれると思います。

事業所の特色や活動内容をある程度網羅したパンフレットがあれば、相談支援員も案内しやすくなります。事業所が自社商品を生産していないのであれば一層、パンフレットやHPが利用者への非常に大きな情報提供になると思います。

②相談支援員との関係性の築きかた

パンフレットを持って相談支援事業所に赴き、しばらく事業所を運営して質の高い事業所であると周囲に認識されると、相談支援員から事業所に利用者案内の電話が多くかかってくる可能性はあります。

ただし、相談支援員が一人で担当する利用者の人数はとても多いため、相談支援員からの電話を待っているだけでは自分たちの事業所を利用するかたが増えないケースも十分ありえます。

したがって定期的に相談支援事業所に伺い、少しずつ関係性を築く営業は非常に大事だと感じます。

管理者とサービス管理責任者(以下「サビ管」と表記)が別であれば、どちらが営業しても構いません。一方で制度上のやりとりは主にサビ管が担うため、サビ管の顔も知ってもらう必要性はとても高いでしょう。

新規事業所を立ち上げたらまずパンフレットなどの資料を持参して相談支援事業所に赴き、そのあとも定期的に訪問すると徐々に関係が築けると思います。

③病院へ営業し事業所を知ってもらう

病院への訪問や営業も利用者獲得に欠かせない取り組みです。

障害福祉サービスの利用を検討しているかたが病院を退院するさいは、本人も相談支援員も住まいと就労継続支援のような日中の活動場所を決めて退院したい/退院してもらいたい傾向があります。

退院と同時に住まいと日中の活動場所の両方を探す相談支援員は多いため、退院後の住まいがないかたであればグループホームを併設している事業所は有利でしょう。

なぜなら色々な事業を展開している事業所であれば窓口が一本化されていて煩雑な手続きに悩まされずに済むので、利用者は安心できるからです。色々な場所に相談に行かずにひとつの企業や法人内ですべてが完結するのはやはり魅力です。

もし就労継続支援に参入したばかりでグループホームなどの併設が望めない事業所であれば、なおさら病院へ赴きソーシャルワーカーやケースワーカーと会う営業に力を入れたほうが良いと思います。

また、就労継続支援の管理者やサビ管は利用者の通院している病院の連携室へ定期的に訪問し、利用者の様子に異変を感じたときは情報提供をしたほうがいいでしょう。

「今こういう状態です。もしかしたら次の受診のさいに相談があるかもしれません」などと状況を伝えておくと信頼関係が生まれます。

病院への連絡は義務ではないものの、良いこともそうでないことも含めて定期的に連絡をするべきです。そのさいは電話連絡よりソーシャルワーカーやケースワーカーを訪問して伝えるほうが非常に有効だと感じます。

病院関係者と何度か会い関係を構築できていると、直接伺うことができずに電話連絡になったときもスムーズです。

利用者集めの厳しい実情と獲得のためのそのほかのポイント

就労継続支援のなかでもB型は特に利用者集めが大変で、定員に達していない事業所も多々あります。

事業所の強みとなる珍しい作業を始めたり、定期的に営業に回ったりという努力をしている事業所であっても定員に達するとは限りません。障害を抱えた人に対して事業所の母数が多すぎるのです。

たとえば特別支援学校の1クラス20〜30人の生徒に対して数百の事業所が押し寄せることもありえます。資金力や安定した経営力のない事業所はどんどん厳しくなっていくでしょう。

特別支援学校からの紹介の難しさ

また、新規参入する場合でも相談支援事業所や病院だけでなく特別支援学校や一般的な高校の進路指導の先生からの紹介自体はあります。

ただ、特別支援学校や一般的な高校にいるかたが就労継続支援を利用するのは、卒業後の4月1日からです。ここに特別支援学校からの紹介の難しさがあります。

学生である3月31日までは利用が難しいため、事業所側が学生が卒業するまでの数ヶ月〜1年ほどを待つ余裕のない場合があるのです。

社会福祉協議会は特別支援学校からの利用者獲得に力を入れる傾向があるように感じますが、民間の事業所は相談支援事業所や病院にアプローチし、今この瞬間に事業所を探している人を紹介してもらうために行動するケースが多い印象です。

経営者には現場で働く職員を「人財」と思い関わる気持ちが必要

就労継続支援事業は常に利用者獲得の課題を抱えています。パンフレットの作成、相談支援事業所などへの営業に加えて必要なのは現場の職員のスキルです。

利用者と直接関わるのは現場の職員です。仮に事業所に一人だけ優れた人材がいたとしてもその人が常に現場にいるわけではありません。その職員にだけ仕事が集中してしまうのは事業所として不健全でもあります。

従業員全体の底上げが大切です。そのためには経営者が職員を財産だと思って関わる気持ちが必要でしょう。

目先の利用者獲得に囚われて職員の育成を怠ってはうまくいきません。事業所を一軒の家と見立てたときに職員は基礎の部分です。土台がしっかりしていなければ簡単に崩れてしまいます。

利用者から評価される事業所へ

事業所の利用を検討し、見学に来たかたの対応にも力をいれるべきでしょう。

見学者は事業所の雰囲気や見た目、作業内容そして職員の立ち振舞いで事業所を利用するか判断すると思います。見学は五感に訴える部分が大きく、見学者は厳しく評価していると感じます。

事業所は、まず情報発信などで見学先に選んでもらい、実際に見学や体験に来たかたに自分たちの事業所に決めてもらうという2つのステップをクリアしないと利用者にはなってもらえません。

その意味では見学や体験の評価をどう高めていくかがポイントです。普段の利用の仕方をしっかり伝えて、見学者がどう感じたのかを事業所にフィードバックするのも大事かもしれません。

また、見学者が心配しやすい基本的な事柄を別紙にまとめるのも良いでしょう。管理者やサビ管が見学の対応をするなかで、見学者の質問傾向を把握していけば、ピンポイントで資料を作れると思います。

たとえば見学者の悩みが収入面であればそれに関する資料を渡すこともできます。または体調面に不安があり利用を開始しても急遽休む日があるかもしれない悩みを抱える見学者に対しても回答できます。

見学に来たかたの傾向を蓄積してすぐに答えられるような資料があると親切ですし、見学者の安心につながるかもしれません。

最優先は窓口業務を担う相談支援事業所

新規で事業所を開設する場合は、病院や特別支援学校などとのつながりはもちろんのこと、特に相談支援事業所の相談支援員との関係構築が利用者に選んでもらう機会を増やせる手段でしょう。

相談支援事業所は相談窓口を担っているため、必ず外部から情報が入ってきます。また利用者は相談支援事業所を通してからでないと就労継続支援事業所を使えません。

必然的に、障害福祉サービスを利用する人は相談支援事業所に相談をしなければいけない構造になっています。学校も相談支援事業所と関わっています。

したがって、相談支援事業所に自分たちの事業所を知ってもらっているか、相談支援員に営業しているかが利用者獲得に大きく寄与すると感じます。

相談支援事業所に頼られる就労継続支援事業所へ

年々、A型もB型も真摯に誠実に質の高いサービスを提供し続けている事業所でなければ経営が厳しくなっています。

経営が上手くいかず閉所する場合もあるでしょうし、生産性が低い事業ばかりをしていたり、利用者への対応が悪かったりする場合もあります。

実は、相談支援事業所から信頼されている事業所には閉所した施設の利用者が紹介されることがあります。また事業所の職員とのコミュニケーションが上手く行かず別の事業所を検討している利用者の受け入れを、相談支援事業所から相談されるケースも多々あります。

相談支援員との関係が良好で、なおかつ質の高い事業所運営ができていると「あなたの事業所であれば大丈夫なのではないか」と連絡が来ます。

自分たちの日々の取り組みを適切に認められていなければ紹介は来ないので喜ばしいことですし、利用者が「この事業所に移ってよかった」と思ってくれたら励みにもなります。

利用者獲得のためには地道な取り組みの継続が肝要

古い取り組みと感じる人もいるかもしれませんが、利用者の獲得につなげるためには相談支援事業所をはじめ色々な場所に実際に赴くしかないと感じます。

たしかに今はメールなど一瞬で情報のやり取りができるツールは山ほどあります。しかし、相談支援員や利用者、そして事業所の職員は人です。地道ではあってもどれだけ直接伺うかが獲得に影響すると思います。

事業所がこれだけひしめき合っているなかで、ここまでお伝えした方法で利用者を絶対に獲得できるかというと、必ずしもそうではないでしょう。

ですが大切なのは、獲得につなげるため相談支援員や病院との連携など色々な関係機関との良好な関係の構築をしたり、事業所の方向性や強みを伝えたりして、それに合致する人を紹介してもらうという地道な方法の継続なのです。

おわりに

相談支援事業所などへの営業など、結果としてお金に直接結びつくかわからない見えない努力を、管理・監督する立場の人間が常日頃から続けられているかどうかは、利用者獲得の非常に大きなポイントです。

待っていても利用者は増えないので情報を発信して材料を提供し、そのあとに実際に出向いて関係を築く。

目先の利用者獲得にとらわれず営業などの日々の地道な努力と真摯で適切な事業所運営ができていれば、結果的に利用者が増える良い循環が生まれやすいでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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