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背景から実例までわかる「合理的配慮」のすべて

「合理的配慮」という言葉をご存じの方は少なくないでしょう。ですが「具体的にどういう配慮なのか」と聞かれると疑問符が付く方もいるのではないでしょうか。
歴史や背景、事業所の義務や罰則などを解説し、皆さんの合理的配慮への疑問点を解消します。

合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害がある人であっても、障害のない人と同様に社会活動に参加し、自分らしく生きていくために考案された理念です。障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し生活できるよう、周囲の人が個人の障害やその他の事情に応じた対応を行います

合理的配慮の背景

障害の有無にかかわらず、みんなが共生できる社会を目指すために考案された「合理的配慮」には、どのような背景があり、どのような法律が関係しているのでしょうか。

合理的配慮が普及した背景

現在、障害者に対する全体的な合理的配慮は「障害者差別解消法」、障害者の雇用面での合理的配慮は「障害者雇用促進法」により定められています。

これらの合理的配慮を国が普及させたきっかけは、2006年に国連で採択された「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」です。

障害者差別解消法の柱である「不当な差別的取扱いの禁止※1」および「合理的配慮」の理念は日本が独自に考案したものではなく、障害者権利宣言の条文に盛り込まれています。

ここ数年の、合理的配慮を含む障害者の人権向上推進の動きには、障害者権利条約が大きく影響しています。

※1.不当な差別的取扱いの禁止・・・国・都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止しています。これを「不当な差別的取扱いの禁止」といいます。

不当な差別的取扱いの具体例

  • 受付の対応を拒否する。
  • 本人を無視して介助者や支援者、付き添いの人だけに話しかける。
  • 学校の受験や、入学を拒否する。
  • 障害者向け物件はないと言って対応しない。
  • 保護者や介助者が一緒にいないとお店にいれない。

合理的配慮に関する法律

世界的な条約にも関係している合理的配慮ですが、日本では「障害者差別解消法」「障害者雇用促進法」という2つの法律の中にこの理念が盛り込まれています。

①障害者差別解消法

障害者差別解消法は、全ての国民が障害の有無に関わらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定されました。以下は法律の一部です。

障害者基本法第4条(差別の禁止)
第1項:障害を理由とする差別等の権利侵害行為の禁止
何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。

第2項:社会的障壁の除去を怠ることによる権利侵害の防止
社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

第3項:国による啓発・知識の普及を図るための取組み
国は、第1項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。

②障害者雇用促進法

障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置などを通じて、障害者の職業の安定を図ることを目的に制定された法律です。

主な措置として事業主に対する5つの措置があります。

  1. 雇用義務制度
  2. 差別禁止と合理的配慮の提供義務
  3. 障害者職業生活相談員の選任
  4. 障害者雇用に関する届出
  5. 障害者本人に対する職業リハビリテーションの実施
事業主に関する措置 障害者本人に対する措置
1.雇用義務制度 2.差別禁止と合理的配慮の提供義務 3.障害者職業生活相談員の選任 4.障害者雇用に関する届け出 5.職業リハビリステーションの設置
●雇用義務
障害者雇用率に相当する人数の雇用を義務化
(現行法では2.2%)
●納付金・調整金制度
障害者の雇用に伴う事業主の経済的負担の調整を図る
●助成金制度
障害者を雇い入れるための施設の設置、介助者の配置などに助成金を支給
●差別の禁止
・募集、採用について障害のない人と同様の機会を設ける
・賃金や教育の機会、福利厚生などの待遇について障害があることを理由に、不当な差別的取り扱いをしてはならない
●合理的配慮の提供義務
平等な機会を確保し、社会的障壁をなくすために個別の支援や対応を行う
障害者を5人以上雇用する事業所では「障害者職業生活支援員」を選任し障害のある従業員の職業生活に関する相談・指導を行わせなければならない ●障害者雇用状況の報告
従業員45.5人以上の事業所では障害者の雇用状況をハローワークに毎年報告しなければならない
●障害者の解雇届
障害者を解雇する場合は、その旨を速やかにハローワークに届け出なければならない
●ハローワーク
障害者の事情に応じた職業紹介、職業指導、求人の実施
●地域障害者職業センター
専門的な職業リハビリステーションサービスの実施
●障害者職業・生活支援センター
職業・生活両面にわたる相談・支援

合理的配慮に関する事業所・行政機関の義務や罰則

合理的配慮の義務

国際条約の批准に際して日本で制定・施行された「障害者差別解消法」では、前の章で述べたように、行政機関や民間企業等の事業者に対して「障害を理由とした不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供義務」が課されています。
障害があることを理由に入店や入社を断るなどの「不当な差別的取り扱い」は、行政機関・民間事業者を問わず禁止されています。

一方、「合理的配慮の提供義務」に関しては、国や地方などの行政機関の場合は法的義務ですが、民間事業者の場合は努力義務となっています。
それぞれの違いについては以下の表をご覧ください。

行政機関 民間事業所
不当な差別的取り扱い してはいけない してはいけない
合理的配慮 しなければならない するように努力

このため、学校教育現場における児童生徒に対する合理的配慮は、公立学校であれば法的義務となるものの、私立学校であれば努力義務にとどまります。

また、民間事業者についても注意が必要です。サービス利用者に対しての合理的配慮は努力義務であるものの、みずからが雇用した労働者に対しての合理的配慮は法的義務となることが、厚生労働省の指針で定められています。

合理的配慮の罰則

障害者差別解消法や障害者雇用促進法で示される合理的配慮の提供義務について、合理的配慮を提供しないことに対する具体的な罰則はありません。

合理的配慮は、個人の事情に合わせた個別具体の対応であるという性質から、一律に罰則を設けることは難しく、何が必要な合理的配慮であり、何が提供義務違反の差別に当たるかは、最終的には裁判所の判断になります。

障害のある人が、学校や職場等でなんらかの合理的配慮を求め、提供されなかったために訴訟をした場合に、個々の事案に応じて、公序良俗(民法90条)、不法行為(民法709条)、信義則(労働契約法3条4項)、解雇権濫用(労働契約法16条)などに該当するか否かが判断されます。

場合によっては事業者側に損害賠償の支払いが命じられる可能性がありますが、たとえ罰則がなくても、事業所や行政機関は障害のある方が具体的にどのような困難に直面しているかに注目し、必要な配慮を考える必要があります。

では、具体的にどのような合理的配慮があるのか次の章で見ていきましょう。

合理的配慮の実例

合理的配慮の具体例として、内閣府のホームページには以下の事例が挙げられています。

①教育の場面

  • 聴覚過敏の児童生徒のために机・いすの脚に緩衝材をつけて雑音を軽減する
  • 視覚情報の処理が苦手な児童生徒のために黒板周りの掲示物の情報量を減らす
  • 支援員による教室への入室や授業・試験でのパソコン入力支援、移動支援、待合室での待機を許可する
  • 意思疎通のために絵や写真カード、ICT機器(タブレット端末など)を活用する
  • 入学試験において、別室受験、時間延長、読み上げ機能などの使用を許可する

②就労の場面

  • 業務指示・連絡に際して、筆談やメールなどを利用する
  • 机の高さを調節することなど作業を可能にする工夫を行う
  • 感覚過敏を緩和するためのサングラスの着用や耳栓の使用、体温調整しやすい服装の着用を認めるなどの対応を行う
  • 本人の負担の程度に応じ、業務量などを調整する
  • 本人のプライバシーに配慮した上で、他の職員に対し、障害の内容や必要な配慮などを説明する

③医療・福祉の場面

  • 施設内放送を文字化したり、電光表示板で表示したりする
  • 車いすの利用者が利用しやすいようカウンターの高さを配慮する
  • 患者が待ちやすい近くの場所で待てるようにする
  • 外見上、障害者と分かりづらい患者の受付票に連絡カードを添付するなど、スタッフ間の連絡体制を工夫する
  • 障害の特性に応じた時間調整など、ルール、慣行を柔軟に変更する

このほかにも行政や公共交通に関する合理的配慮が多くあります。詳しくはこちらの内閣府のページをご覧ください。
内閣府 合理的配慮等具体例データ集

まとめ

合理的配慮は障害の有無に関わらず、社会活動に参加できるように適切なサポートを行っていこうという考え方です。職場や学校での合理的配慮は社会全体の生産性や多様性を広めていくことにも繋がるでしょう。

事業者、行政機関がこのような理念を持ち、よりよい共生社会を目指していくことが大切です。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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