就労継続支援を改善

障害福祉サービス利用者の一般就労への道、どうサポートすればいい?

国が推し進める一般就労への移行。しかし定員割れのリスクや事業形態による支援の限界など、まだまだ難しいのが実情です。今回は、記事の前半で就労継続支援の現状や事業所の本音を、後半では各事業形態の役割と就労までのサポートの流れをお伝えします。

一般就労に対する就労継続支援事業所の現状と本音

一般就労移行に対する就労継続支援事業所の本音

就労継続支援利用者の一般就労への移行。国は年々、この方針を強めています。しかし就労継続支援から一般就労へ移行している利用者はまだまだ少ないのが実情です。

令和2年度の厚生労働省のデータによると、就労継続支援A型(※以下:「A型」と表記)の事業所数は4000近く、就労継続支援B型(※以下:「B型」と表記)は13000以上です。

一般就労への移行は望ましいとされているものの、日本に数百、数千ある事業所には定員割れしている施設がたくさんあります。

就労継続支援の安定した経営のみを考えると、利用者を手放したくないというのが経営者の本音だと思います。

利用者を集めたいのに一般就労への移行にどこまで力を注げるかというと、実際は難しいでしょう。現実や制度が理想にまだ追いついていない状況なのです。

就労継続支援B型事業所は利用者の最後の砦

ですがB型が一般就労に向けてのサポートができないわけでも意味がないわけでもありません。のちほど詳しく解説しますが、障害福祉サービスにはそれぞれ役割があります。

役割の一例としては、B型には受け皿の側面もあります。たとえば生活保護を受給しているかたはB型で働いて収入を得てもそのぶん生活保護の額が減ってしまう場合がありますが、人生設計や健康を維持するためにB型へ通所するかたがいます。

B型で生産活動に従事し健康面や人とのつながりを担保していく。そのためにB型を活用するのは利用者が日常生活や人生を豊かに生きるための選択肢のひとつでありB型の役割だと思います。B型には最後の砦としての役割もあるのです。

その意味では、令和3年度のB型の報酬改定で、工賃を上げるという従来の流れ以外に地域の実情に合わせた事業所づくりも評価する方針が出たのはB型の役割にマッチしていると感じました。

障害者の生きがいづくりや高齢になった人が地域との関わりのなかで元気を持続させていくことは、B型が存在する意味ですし、今回の改定で見えた部分です。

一般就労に向けての各事業形態の役割

利用者の一般就労への道は階段を登るようにスモールステップで

利用者が一般就労を目指すと決めた場合、階段を登るようにステップアップする計画を作る必要があります。

B型から一足飛びで一般就労へ移行するのではなく、B型で安定して働けるようになったら次はA型で長時間労働を試してみる。A型でも大丈夫だったときは就労移行支援を試してみるのです。

「ステップを踏んで一般就労へ移行する」マインドを持った利用者であれば、相談支援員と徐々に負荷を上げて一般就労を目指すという個別支援計画を作れるのではないかと思います。

一般就労を望んでいるかたのうち、相談支援員と相談して実際に就労が見込めるかたに関しては計画を立て、B型からA型、そして就労移行支援というような道筋で一般就労を目指すのがいいのではないかと思います。

ステップ①相談支援員によるアセスメントと個別支援計画の作成

障害福祉サービスの各事業形態にはそれぞれ役割があります。福祉サービスを初めて利用する場合、最初は相談支援員(相談支援専門員)と話をして利用計画を作成すると思います。

相談支援員は障害者総合支援法にしたがってサービス等利用計画の作成を支援し、そのかたに適した事業形態の障害福祉サービスが提供されるよう、サービス提供事業者との連絡・調整などをします。

ステップ②就労継続支援B型の役割

次に、たとえばまずはB型を利用すると決まった場合であれば相談支援員とB型のサービス管理責任者が個別支援計画を作り、一般就労への計画を立てます。

一応、B型からそのまま一般企業への就職も不可能ではありません。B型から就職した利用者がいればB型事業所への報酬を上乗せする「就労移行支援体制加算」という加算もあります。

とはいえ、就労継続支援と就労移行支援では職員ができるサポートは異なると感じます。一般就労への移行を支える役割は、就労移行支援が適しています。就労移行支援は一般就労への移行それ自体を目的としているからです。

したがって、もしB型に利用者の一般就労移行をサポートするスキルが十分でないのであれば、A型や就労移行支援へ橋渡しする方法を考え計画を立てることもB型の職員の大事な役目です。

また、この段階で一般就労が難しいと予想される利用者だからといって、支援を提供できないわけではありません。

B型はステップを上がるための期間に制限がないため、本当に長期的なスパンで適性を確かめられるメリットがあります。10年、20年経ったあとで一般就労へ移行してもいいのです。

さらに、一般就労を目指す過程のなかで生産活動をし、生きがいを作るサポートにも大きな意味があります。

各事業形態のなかでできる支援を続け、次のステップへ橋渡しをする。それ自体が一般就労へのサポートだと思います。

ステップ③就労継続支援A型の役割

B型で経験を積んだあとは、より作業の負荷が高いA型で働くのも方法の一つです。

A型は、B型とは異なり雇用契約に基づく就労形態です。B型に比べ週の労働時間が長く仕事内容も一般就労とあまり変わりません。(詳しくは「就労継続支援A型」とは?内容から開設の流れをわかりやすく解説 | はたらくBASEをご覧ください)

支援体制が整った環境で一般就労に近い働きかたができるので、一般就労移行への次のステップに適しています。

ただやはりA型・B型の場合は一般就労への移行は努力義務です。就職できなくてもある程度は仕方がなく、もし一般就労ができたら報酬がある仕組みです。

A型・B型の運営を安定させるためには利用者の獲得が前提であるため、利用者を一般就労へ送り出すことにあまり積極的ではないと思います。

したがって就労移行支援では必須の「就労支援員」のような役割を担う人材を外部から採用するという話は聞いたことがありません。

そもそも就労移行に特化した人員を、一般就労が困難なかたが通所し、つねに利用者確保の問題を抱えている就労継続支援事業所で雇うのは、事業所の役割としてある意味でミスマッチでしょう。

ですが、利用者が一般就労を目指しているのであれば、事業所として利用者を次のステップへ移行させるための支援や橋渡しは必要な仕事です。

以前は就労継続支援から就労移行支援へ利用者をつないだとしても、A型・B型は利用者が減ってしまうだけで金銭的なメリットは何もありませんでした。

その状況を踏まえ、令和3年度の報酬改正で就労継続支援から就労移行支援へ橋渡しをすると事業所に報酬が入る「就労移行連携加算」が新設されました。

就労継続支援事業所にとっては救われる改定であり、以前より就労移行支援へ利用者を移動させやすくなりました。

ステップ④就労移行支援の役割

B型やA型で就労に必要な知識および能力向上のための訓練を経て、ある程度の準備ができたら次は就労移行支援です。

就労移行支援は利用者を就職させることが目標であるため、専門的な支援員の配置義務があり、就労支援員がスキルを活かして働いています。

就労移行支援は一般就労移行にとても適している反面、就労継続支援と異なり2年間しか利用できないきまりがあります。

障害を抱えたかたにとっての2年間はあっという間に過ぎる印象を受けます。2年以内に結果を出さないといけないのは利用者にとっても職員にとってもプレッシャーです。

だからこそ、利用期間の定めがないB型・A型でゆっくり焦らず確実に経験を積んで、そののちに就労移行支援へステップアップすることが望ましいでしょう。

もちろん、B型・A型でしっかり経験を積んで移行移行支援で訓練を開始してもときには2年以内での就職が困難な場合もあると思います。

以前は原則2年だった就労移行支援は、2年を過ぎても自治体に対して利用者に残ってもらう根拠を具体的に説明できれば期間を延長できるかもしれなくなりました。

また、就職したあとも利用者がさらに条件の良い職場への転職や労働時間が伸びる見込みがあれば就労移行支援を辞めなくてもいいという解釈が出ています(詳しくはこちらをご覧ください「今さら聞けない令和3年度報酬改定 就労移行支援編」 | はたらくBASE)。

就労移行支援で訓練したあとは、利用者の適性を踏まえた企業へ就職します。もし就労移行支援から一気に一般就労への移行に不安がある場合は、まずは障害者向けサテライトオフィスで働いてみるのもいいかもしれません。

障害者向けサテライトオフィスには企業側の支援員が常駐しています。配慮を受けながら働けるため、せっかく就職した職場で無理をして離れてしまう前に一旦、支援を受けられる仕組みを活用するのもひとつの方法でしょう。

一般就労はゴールではなくスタート地点

合理的配慮による障害者雇用の可能性の広がり

障害のある人が障害のない人と同様に社会参加できるよう支援を受けられる「合理的配慮」は障害者雇用にも定着しつつあります。

感覚過敏を緩和するサングラスの使用や業務量の調整などの配慮が必要であれば、無理な相談ではない限り企業側が受け入れるのは前提です。

企業には合理的配慮の提供義務が課されているので、たとえば本人が請け負う仕事が在宅でも可能なのであれば企業側は断らないと思います。

一般就労で長く働くために必要な心構え

一般就労はゴールではなく、今はスタートに位置づけられているのかもしれません。国は就職率よりも継続率を大切にしていると思います。

仕事がマラソンに例えられるように、短期的に無理をして職場を離れてしまうのではなく、必要な支援を受けつついかに安定して長く働けるかが肝要です。

1日8時間、週に40時間も働くのは障害を持っている人にとってハードな場合が多いと感じます。徐々に日数を増やしたり、長く働くために週の労働時間を短いまま何年か続けてみたりしてもいいかもしれません。

事業形態の役割に沿ったサポートを

利用者の一般就労に向けてのサポートは、事業所のサービス形態によって役割が異なります。

B型にいる一般就労を希望している利用者は、より一般就労に近いA型へまずは移動させるべきですし、A型は就労移行支援への橋渡しをするべきです。そうしなければ就労継続支援は事業所として無理をしないといけなくなるでしょう。

一般就労が難しい利用者が大多数のなかで、一般就労を目指すための人員配置をしてしまうととても大変な経営になってしまいます。橋渡しは利用者と事業所、双方にとって必要なのです。

次の事業所への橋渡しが就労継続支援の職員の役目だと思います。より一般就労への移行に適した職員がいる場所につなげること。それが一般就労への道のサポートです。

福祉の世界も役割分担です。それぞれの役割のなかで適切な支援を担っていくことが大切でしょう。

おわりに

この記事では利用者の一般就労へのサポートの流れを解説しました。一般就労への移行は階段を登るように少しずつ負荷を上げていくのが望ましいと思います。

B型、A型、就労移行支援の各ステップごとで適切なサポートがあることが大事ですし、それぞれの場所だからこそできる支援があると思います。

また、階段を登る過程でもし負荷が高すぎると感じたら一段戻っても構いません。事業所間の橋渡しがきちんとできていればより柔軟なサポートが可能でしょう。

もちろん、一般就労は利用者が5年後10年後に達成したい生活を送るためのあくまでひとつの手段であり一概に一般就労への移行が正しいわけではありません。

すべての利用者を一般就労へ導くことが正解ではないのです。障害者の生きがいづくりの場の提供や一生かけて働ける場所を作ることも就労継続支援の重要なサポートです。

利用者一人ひとりの適性やゴールに合わせて支援を考え、それぞれのサービス形態の役割に沿ったサポートの提供が大切でしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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