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就労継続支援事業所とグループホーム併設運営のメリット・デメリット

就労継続支援事業所の新規開設後に新たな福祉事業を複合展開していきたい場合、どの分野を手掛けるのがいいのでしょうか。今回は就労継続支援と親和性が高く、利用者の居住スペースも提供するグループホームの併設運営のメリット・デメリットを解説します。

就労継続支援事業所とグループホーム併設運営のメリット

事業収益が安定しやすい収益面のメリット

就労継続支援とグループホーム併設運営にはいくつかメリットがあります。経営上のメリットは収益の安定化で、実際に併設運営している事業所は年々増加している印象です。

入所系サービスである就労継続支援事業は、20人の定員を確保していても感染症の流行などで一気に10人休むかもしれません。通所人数が多い日もあれば少ない日もあり予測が難しく、収益の不安定さがあります。

いっぽうでグループホームのような入所系サービスは定員10人が埋まっていると事業所に毎日10人分の報酬がきちんと入ります。極端な話、入院でもしない限り収益は確保できるので安定した収入の基盤となります。

法人内にグループホームがあると安心感が増すので、就労継続支援事業を始めた法人が最初に併設運営する事業としてグループホームはとても適しているでしょう。

通所系サービスをいくつも展開するだけでなく、入所系サービスも開設するほうが法人全体の収益は安定しやすいのです。

都市部ならではのメリット

就労継続支援とグループホームの併設は特に都市部の事業所にメリットがあります。都市部は働く場所が多く働きかたの幅も広い傾向があり、地方在住のかたが都市部での生活を希望するケースはよくあります。

そのため地方から都市部の就労継続支援事業所に通うのが難しい利用者がいた場合に、生活の基盤として都市部にある自分たちのグループホームを利用してもらいつつ、同じく都市部にある同法人の就労継続支援事業所を利用してもらいやすい利点があります。

都市部で就労継続支援とグループホームを併設すると、利用者を確保する範囲が事業所周辺の地域だけではなく離れた場所まで広がるので、地方の利用者を呼び込みやすいというメリットがあります。

切れ目のない支援が可能となり生じる職員と利用者両方のメリット

職場として就労継続支援事業所を、住まいとしてグループホームを提供する併設運営は収益が安定するという経営上のメリットだけでなく、事業所と入居者の双方にメリットがあります。就労継続支援とグループホームを併設していると切れ目のない支援ができるのです。

たとえば事業所の職員が就労継続支援のみを使用しているかたの事業所外での生活を知るのは限界があります。しかし併設していると昼間に利用した就労継続支援での状況をダイレクトにグループホームに引き継ぐことができ、反対にグループホームでの出来事を就労継続支援のスタッフと共有できます。

事業所内に就労継続支援事業所とグループホームがあれば何かあったときに連携が取りやすく、要望を遠慮なく伝えることができるためお互いにフォローが可能となります。

同一法人内の就労継続支援とグループホームで共有したほうがいい何かが起きたときは即座に対応できます。定期的な会議ではなくすぐに情報のやり取りができる体制があればタイムラグがほとんどなく、その日のうちに就労継続支援とグループホーム双方が対処でき、切れ目のない支援が可能になります。

切れ目のない支援は利用者にとってもメリットがあります。同法人内の就労継続支援事業所とグループホームを利用していると、利用者は昼間の就労継続支援事業所での出来事などを夜にグループホームのスタッフに相談できます。逆も同様です。

さらに一人暮らしなどでグループホームを利用していないかたが就労継続支援だけを利用している場合、そのかたが自宅で体調が悪いときに受けられる支援には限界があります。しかしグループホームには職員がいるため緊急時の支援も受けやすいのです。

時代の変化に柔軟に対応しやすい運営上のメリット

通所系サービスと入所系サービスの併設運営をしていると多くのメリットがあります。しかし、制度上それぞれの事業形態でしか対応できない事柄もいくつかあります。

たとえば利用者の送迎は就労継続支援事業所が担う決まりがあるため、グループホームの職員が手伝うことはできません。

ただし、このような決まりや制度は今後だんだん柔軟になっていくと感じます。なぜなら新型コロナウイルスの関係で、令和6年度から義務ではないものの災害や感染症が蔓延したときでも安定して事業所を継続できるための業務継続計画(BCP)を法人内で作成するよう国が求めているからです。

これまでのような縦割りに近い制度のままでは業務継続計画の作成は難しいかもしれません。

しかし、国が緊急時であっても事業を継続できる方法の作成を障害福祉サービスに望んでいるのであれば、事業所の限られた人数で運営するために同法人内にあるほかの事業所のスタッフと協力し合う取り組みが必要ですし、舵を切った国が制度を柔軟にしていくと感じます。

さらに福祉業界は制度ビジネスであるため、利用定員に上限があり報酬単価も決まっていて収入は限られます。そのいっぽうで今後さらに職員の給料増加などの処遇改善も実施する責務が増すため、国が主体となった障害福祉サービスの職員の働きかたの効率化・柔軟化はこれから進むことが予想されます。

就労継続支援事業所とグループホーム併設運営のデメリット

就労継続支援とグループホームの併設運営は収益面や利用者対応で大きなメリットがある反面、デメリットもあります。ここからは併設運営のデメリットを解説します。

法人内の就労継続支援とグループホームの利用を強制してはならない

前提として、就労継続支援などの通所系の事業所とグループホームの両方を運営している事業所でも、通所系サービスに通うことを条件にグループホームへの入居を認めるような制約は絶対にできないので注意が必要です。

そのため併設運営を開始しても、利用者が就労継続支援とグループホームの両方を必ず利用するわけではないというデメリットがあります。

業務量の増加のデメリット

ほかにも、同一法人内で2つの事業を展開しているとそれぞれの業務の線引きが難しくなり仕事量が増えるかもしれないデメリットがあります。

通所系サービスのみの運営や入所系サービスのみの運営であれば、支援内容はあくまで自分たちが運営している事業形態の範囲内に限られます。仮に就労継続支援事業所だけを運営している企業の場合、その利用者が別の会社のグループホームを利用していると、それぞれの会社が支援する線引きは簡単です。

また、自分たちの就労継続支援事業所を利用しているかたのグループホームでの様子を知りたいと思っても、そのかたが他法人のグループホームを利用していると様子を見に行くのは難しく、別の法人に伺うための手順を踏み訪問する必要があります。

しかし同一法人であれば、就労継続支援の職員が日中活動が終わった利用者のグループホームでの様子を見に行くのは容易です。就労継続支援の職員がグループホームに様子を見に行ったり、グループホームの職員が日中の就労継続支援での利用者の状況を確認しに行ったりする業務が当たり前になるかもしれません。

同一法人内で利用者の支援をする難しさ

利用者から相談を受けるとき、同一法人内の就労継続支援事業所とグループホームを使っている利用者と、どちらか片方のみの利用者では対応の難しさに差が生まれます。利用者によっては就労継続支援のスタッフにグループホームの相談をしたさい「これはグループホームの職員には言わないでね」と言われるケースがあるからです。

就労継続支援事業所の出来事をグループホームのスタッフに話したい利用者や、逆のパターン自体はよくあります。他法人であれ、同一法人であれ共有するほうがいいでしょう。ところが「この話は夜間スタッフには言わないでほしい」と言われてしまうと職員の判断に迷いが生じるかもしれません。

このようなことがないよう管理者やサービス管理責任者(以下「サビ管」と表記)が、利用者からの話を支援上必要な場合は共有するという方針を、職員全体や利用者に示す姿勢が大切です。

どの事業所も、関係機関との連携や会議のなかで必要と判断した個人情報は必要最低限の範囲で共有する旨を記載した書類を利用者に提示し同意してもらいます。

したがってそのような利用者に対しても、サビ管が「聞いた話は支援上必要であれば共有させてください」と繰り返し、丁寧に説明して理解していただいたのち相談に臨むと思います。事前に丁寧な説明を徹底していれば、現場で働くスタッフの迷いも少しは軽減されるでしょう。

就労継続支援のサビ管とグループホームのサビ管は密に連絡を取り合う必要があります。利用者に対し「グループホームでの出来事を就労継続支援事業所にちゃんと伝えます」と言ったにもかかわらず共有されていないと、利用者からは信用されません。さらには法人全体の悪い評価にも繋がってしまいます。

就労継続支援とグループホーム両方を利用してもらいやすい伝えかた

利用者があえて併設運営の事業所を利用しない理由

同一法人内で就労継続支援とグループホームを併設運営していると、切れ目のない支援など利用者にとってのメリットが数多くあります。それでもなかには片方の事業形態しか利用しないかたもいます。

就労継続支援事業所もグループホームも定員が少ないため利用者が過ごす環境や人間関係はどうしても狭くなりがちです。利用者間や職員との関係が崩れてしまうと逃げ場がなくなり修復は難しいでしょう。

場合によっては就労継続支援とグループホームの両方を辞めてしまうケースもあるため、適度な距離を保ちたいと考えるかたもいるかもしれません。

囲い込みをせず上手にメリットを伝えるポイント

企業としては、利用者に同法人内のサービスを利用してもらったほうが収益が上がるものの、先に述べたとおり強制は禁止です。

利用者に誤解を与えず同法人内のサービスのメリットを適切に伝えるやりかたが必要でしょう。たとえば利用者の家族に昼間の状況がグループホームに情報共有されるという切れ目のない支援について伝え、就労継続支援とグループホームが一緒に利用者を支援すると伝えます。

他法人であれば伺うための必要な手順がありますが、同法人内であれば連携はスムーズです。利用者の体調が優れないときはグループホームの職員がすぐ病院に連れて行くことなどを説明すると家族は安心すると思います。

同法人内の事業所を利用した場合と、就労継続支援とグループホームが別の企業の場合とでは支援のスピードが全く違います。同法人内だと横断的な支援をするためのハードルが低いというメリットはしっかり伝わると思います。

おわりに

この記事では就労継続支援事業所とグループホーム併設運営のメリットとデメリットを解説しました。同法人内の施設を使ってもらうためには情報を適切に伝えることが必要です。また、切れ目のない支援を実践するためには日頃から法人内の密な連絡が肝要です。

そのためには定期的な会議の場や電話連絡、記録物の共有だけでなくICTを積極的に活用していくスタイルへの移行が必要でしょう。密接に連携するうえでタイムリーにいつでも情報共有できるツールや仕組みがこれから主流になると思います。

就労継続支援事業所とグループホームの併設運営のメリットを活かすためには、細かな情報であってもこまめに共有することが大切でしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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