就労継続支援を改善

就労継続支援事業所利用者の安定した継続に向けての取り組み(前編)

就労継続支援事業で利用者確保と同じくらい難しいのが利用者の継続です。今回は2回にわけて継続のポイントを紹介します。前半は利用者退所の原因や信頼関係の築きかた、障害種別による継続の傾向、そして刑務所等を出所したかたの受け入れを解説します。

利用者が離れてしまう原因と対処

就労継続支援事業から就労移行支援そして一般就労など、利用者がステップアップする過程で事業所を退所するのは喜ばしいことです。しかしなかには色々なトラブルから退所に至ってしまうケースがあります。

トラブルから事業所を離れてしまうケースには具体的にどのようなパターンがあるのでしょうか。

利用者が事業所を退所してしまう主な原因

1.人間関係の悪化
就労継続支援事業所は定員も少なく、利用者も職員も基本的には事業所内の限られた空間で働きます。そのため大切となる人間関係が悪化してしまうと狭い空間であるが故に逃げ場がなくなる場合があります。

仮に100〜200人規模の大きな事業所があれば自分なりの落ち着くスペースを見つけるなど気分を和らげる方法が取れます。しかし狭い範囲であればなかなかそうはいきません。また頻度は少ないものの職員と利用者間だけでなく、利用者同士のトラブルも退所の原因となります。

2.ほかの事業所への目移り
就労継続支援は競業する事業所が多いので利用者自身の選択肢が増えます。何年も単純作業だけをずっと続けていると、パンやお菓子作りなど華やかな作業をしている事業所に魅力を感じる利用者は多い印象です。

利用者に「自分が必要とされている感覚」がない場合も簡単に次の事業所を選んでしまうのではないかと感じます。

3.職員と利用者が信頼関係を築けていない
職員が利用者と良好な関係を築けていないケースも利用者が事業所を離れやすくなります。利用者を子ども扱いするような極端に質の低い事業所はもちろん、利用者と形式的に関わっていたり忙しいときになおざりな態度で接してしまっていたりすると信頼関係の構築は難しいでしょう。

信頼関係が継続のカギ

福祉業界は対人サービスです。利用者に対する常日頃の接しかたそのものがサービスであるため、職員が忙しいときでも利用者からの挨拶に丁寧に返事できるかどうかもサービスの一部に含まれます。

管理者やサービス管理責任者(以下「サビ管」と表記)を筆頭に職員が利用者の話を聞く姿勢を見せているかどうか、常日頃から利用者と良好な関係を築けているかどうかが大事です。

サビ管や職員がその意識を持っていないと、利用者に継続してもらうのは難しいと思います。信頼関係が福祉業界全体のひとつのキーワードです。

利用者との信頼関係は普段の利用者とのやりとりのなかで芽生えることが多いため、人との関わりかたやマナーを大事にしないといけないでしょう。そのためには、事業所での定期的な全体研修や自己啓発できるような体制、管理者やサビ管の指導が必要です。

またそれだけでなく色々な事例を記録に残し共有する機会も大切です。福祉業界には「ヒヤリハット」や「事故報告」と呼ばれる事例を記録に残す義務があります。

ただし、記録の作成にどこまで力を入れているかは事業所の雰囲気に左右されます。記録の作成を億劫に感じると、比較的重要な事例であっても職場のスタッフ全員へ口頭のみでの共有となってしまいます。

その場では利用者の悩みが解決しても、サビ管が変わったときに記録が残っていなければ、利用者から「前はこうしてくれたのに今は違う」などと苦情が出てトラブルにつながりかねません。しっかり記録を残し、上手くいかなかった事例や上手くいった事例の積極的な振り返りが有効でしょう。

利用者同士のトラブルと対処法

利用者同士のトラブルも職員がどう関わったかで大きく左右される印象です。利用者の言いぶんが、それぞれの立場から見ると正しいことがあるため当人同士では妥協点を見つけるのが難しい場合もあります。もしくは利用者同士の恋愛感情から関係が崩れてしまうケースもあります。

このようなケースであっても職員が普段からきちんと利用者に向き合っている事業所とそうでない事業所では差が生まれると思います。

職員との信頼関係が強い事業所であれば、大事な話ほど利用者から発信される情報量も多くなり、そのぶん職員からの情報の精度も高くなります。逆に関係が薄いと利用者が発信する情報量も職員が提供できる情報も少なくなり、利用者は耳を傾けてくれません。

関係性は一朝一夕では決して築けません。常日頃からの心がけが必須なのです。

障害種別による継続の傾向と刑務所などを出所したかたの受け入れ

障害種別による継続の傾向

人間関係の悪化などのトラブルで退所してしまうケース以外に、障害種別によっても利用者の継続が異なる傾向があると感じます。たとえば精神疾患を抱えるかたは気分の波が大きいため、職員との関係性の有無に関わらず利用が上手く行かないパターンがあります。

知的障害のかたは全体的に環境の変化を避ける傾向があるため、一度事業所に通い始めると継続しやすいと思います。

身体障害のかたは判断能力が健常者と全く変わらない人が多いので、ほかの障害特性とは異なる繊細な関わりかたが必要なケースがあります。元々は社員を指導する立場であったり教育者であったりしたかたが身体障害者になって事業所を利用するようになると、本人の障害受容も含めて現場に緊張感が芽生えやすくなる印象です。

このように障害種別によって一種の傾向があるので、事業所によって知的・精神・身体のどの特性をメインにするのかは分かれると思います。事業所にきちんとした受け入れ体制がないなかで、障害種別の異なるかたをやみくもに入れてしまうとトラブルになってしまうでしょう。

トラブルを起こした人や刑務所等を出所したかたの受け入れのポイント

就労継続支援事業所では、トラブルを起こして一度は事業所を離れてしまったかたが利用を再開したいと願い出るケースがあります。実は、利用を検討しているかたの受け入れ拒否は制度上は認められていません。定員をオーバーしているなどでなければどのような利用者も拒んではいけないのです。

また退所者の支援は、就労継続支援から次のステップに進む形でも単に別の事業所に移るだけでも、そのかたが次の場所で上手くいくように引き継ぎをする決まりがあります。制度上は事業所を離れた利用者が戻ってきやすくなっています。

ですが、たとえば職員や別の利用者に危害を加えたり設備を故意に破壊したりして事業所を離れたかたであれば、何らかの条件を付けるかもしれません。過去の過失について記録を残しているはずなので、行政などに相談したうえで条件をつけることは問題ないでしょう。逆に条件がないまま再び受け入れてしまうと、事業所の立場が守られない恐れがあります。

また、刑務所を出所されたかたを受け入れるさいも条件を提示して承諾してもらう行為は双方にとって大切でしょう。刑務所を出所したかたが、自分を受け入れてくれるところはないのではないかと思ったり、実際に働く場所に困ったりするケースもあると思います。

制度上は利用者の受け入れを拒めないとなってはいても、実際はほかの人に危害を加える恐れがあるかたを避けてしまう場合も少なくないでしょう。

利用者が増えると売上が上がると思いつつも、受け入れによってほかの利用者が来なくなる可能性もありますし、職員に危険が伴う可能性もあります。本来は受け入れを拒んではいけないという建前はありつつ、リスクマネジメントの観点から例外が出る場合はあります。過去に暴力を振るった事実があれば断る理由にはなるかもしれません。

そのうえで、もし受け入れるときは先に述べたように「職員やほかの利用者に危害を加えたら警察を呼びますが構いませんか」などと確認し、関係者全員が了承する過程が必要です。

考えかたによっては条件を提示しお互いが納得した状態で働いている利用者のほうが受け入れる側としては安心かもしれません。仮にそれまで何もトラブルを起こさなかった人があるとき急に誰かに危害を加えてしまうほうが対処が難しいと感じます。

他人に危害を加える可能性があるかたを実際に受け入れるかどうかは経営者や管理責任者、サビ管の考えかたに左右されます。とはいえ知的・精神・身体の障害種別以外にも、福祉業界は刑務所を出所したかたのような人々の受け皿も担っています。

何らかの特性があり出所後すぐには社会復帰するのが難しいかたの生きていく場所の提供や、人を傷つけてしまった人達の最後の居場所づくりも就労継続支援事業所の大事な役割です。

おわりに

前半の今回は、利用者が離れてしまう原因、信頼関係の重要性や築きかた、刑務所等を出たかたの受け入れ時のポイントをご紹介しました。

利用者に安定して通所を継続してもらうには、職員との信頼関係が大切です。信頼は一朝一夕では得られないため、常日頃から利用者の話を丁寧に聞く姿勢が必要でしょう。

後編では利用者と職員のモチベーション維持の方法、時間外にどこまで利用者の対応に力を注ぐべきか、そして重要事項説明書を活用したトラブル回避のポイントを解説します。
後編はこちら→「就労継続支援事業所利用者の安定した継続に向けての取り組み(後編)」

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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