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就労継続支援の加算? 支援体制の将来図からはじめよう(前編)

就労継続支援の加算と支援の将来像を考えるとき重要なのは、就労継続支援事業所の目的を意識することです。今回は、2回にわけて各加算と経営の参考となる方向性を紹介します。前半は、地域協働加算、就労移行連携加算、福祉専門等職員配置加算を解説します。

「地域協働加算」と支援の将来像

就労継続支援事業所の支援の目的と方向性とは

就労継続支援の将来の方向性を知るうえで大切なのが、国が定める就労継続支援事業所の目的と方向性に常に立ち返ることです。

就労継続支援A型(雇用型)

通常の事業所に雇用されることが困難な障害者のうち適切な支援により雇用契約等に基づき就労する者につき、生産活動その他の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援を行います。

就労継続支援B型(非雇用型)

通常の事業所に雇用されることが困難な障害者のうち通常の事業所に雇用されていた障害者であってその年齢、心身の状態その他の事情により引き続き当該事業所に雇用されることが困難となった者、就労移行支援によっても通常の事業所に雇用されるに至らなかった者その他の通常の事業所に雇用されることが困難な者につき、生産活動その他の活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援を行います。

引用:厚生労働省HP「障害福祉サービスについて」よりそれぞれ抜粋

上記のように、就労継続支援の将来図については国が明確な目的を示しています。A型・B型事業所の両方に共通しているのは、「生産活動その他の活動の機会」「就労に必要な知識や能力の向上のための訓練場であること」「その他の必要な支援の提供」です。

また年々、国の方針として就労継続支援はA型・B型ともに成果主義の色が濃くなり、一般就労への移行の動きが活性化しています。特にA型は雇用契約に基づいていることもあり成果主義と断言しても差し支えないでしょう。

地域協働加算が成果主義によって取り残されてしまう利用者を守る

国が就労継続支援事業から一般就労への移行を推し進めようとしている反面、B型事業所には、生産活動に従事したくても特性や障害の程度によって活躍の場が限られるかたがいるのが事実です。

そこで令和3年、B型事業所の報酬の評価方法は大きく2つにわかれました。元々、B型の報酬体系は利用者に支払う「平均工賃額」によってのみ決まっていました。しかし成果主義と支援の両立を保ち、福祉から取りこぼされる人がいないように、「平均工賃額の評価」とは別に、「利用者の就労や生産活動への参加を評価するスタイル」が新設されたのです。

(画像=引用:厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」より)

※令和3年度のB型の報酬改定について詳しく知りたいかたはこちらをご覧ください。
今さら聞けない令和3年報酬改定 就労継続支援B型編

地域協働加算を含んだ評価スタイルには、事業収益に貢献することが難しい利用者や、まだA型事業所への移行が厳しいかたがいたときに、地域活動に参加する加算を得ることでB型事業所の受け皿としての役割を守る側面もあります。

地域協働加算は、活動内容をインターネットなどで公表していない事業所は対象とならないとはいえ、逆にいえば情報を発信する義務を負うことで事業所の透明性が保たれ、質の高い運営をしているところは利用者確保につながりやすいというメリットがあります。

地域協働加算と農福連携

地域協働加算が新たに導入された背景にはもうひとつ理由があります。以前から、B型事業所は地域と関わりを持ち、地域活動に沿った作業にも力を入れるよう国から求められていました。

しかしながら活動が十分とはいえなかったため、地域に即した事業所を評価し加算対象とする制度が始まりました。こちらに力を入れたい事業所であれば、高い工賃の支払いができていなくとも、質の高い支援を行っていると十分に評価されます。

「農福連携」も地域協働加算の適切な取組に含まれます。農福連携とは、障害者の働く場所の確保と、人手不足に悩まされている農家が互いに連携することで双方の利益となる働きかたです。農福連携は、企業の数が限られるものの田畑の多い地方が適しているかもしれません。

たとえば事業所として農福連携のような農作業に力を入れることで加算を得たいのであれば、障害種別も考える必要があるでしょう。動きの幅に制限のある身体障害者と畑仕事の相性はあまり良くありません。精神障害、知的障害、身体障害のどの障害を持っているかによって、得手不得手があるのです。

農業の人手不足解消?障害者雇用にもメリットありの「農福連携」

地域協働加算を活かせるサービスの1例「高齢者に特化した事業所」

地域協働加算のそのほかの適切な取組の例としては「地域で開催されるイベントへの出店」や「請負契約による公園や公共施設の清掃業務」などがあります。それ以外に地域協働加算を活用するのであれば、高齢者をターゲットにしてみると面白いかもしれません。

日本には介護保険法と障害者総合支援法があります。通常は障害福祉サービスのうち、介護保険制度とサービス内容が重なっている支援であれば優先的に介護サービスが適用されますが、介護保険法には就労継続支援B型に相当するサービスがないため、高齢のかたもB型事業所を利用できます。

たとえば半日でも働く場所を求める高齢者のかたは少なからずいます。「高齢者に働く場所を提供できる事業所です」という発信や事業所開設は、制度上何の問題もありません。

認知症予防や一人暮らしの高齢者の孤立を防ぐという意味でも、短い時間だけでも作業をしに来てもらうような方法はいいかもしれません。また、工賃はあまり払えなくても老齢年金があるため、たくさん稼ぎたいと思っているかたばかりではないかもしれません。

実際、高齢者にも活躍できる場所を提供している事業所はあります。利用しているかたの大半は身体障害手帳を持っているため、通所リハビリテーション(デイケア)とB型事業所を併用するかたもいます。

通所リハビリテーションのような介護サービスのほうが収益があるため、そちらを利用してもらうよう「高齢者のB型事業所」を表立って謳っている所はあまりないのかもしれません。とはいえ、軽度の利用者は支給額が少ないため、デイケアに毎日通えるわけでないのであれば、高齢者に特化した事業所があると利用者はすぐ確保できるでしょう。

日本は高齢化が急速に進行していて、障害者の高齢化問題もあります。高齢化社会の将来像を見越し、地域協働加算を上手く活用すれば、高齢者に新たな場所を提供できるかもしれません。

そのために必要なのが身体障害に対応できるソフト面とハード面です。まず、車椅子などの障害を持ったかたがスムーズにトイレに入れるようにするなどのバリアフリー化は必要でしょう。

また介護も必要であるため支援員に介護力が求められる事も推測されます。さらに、決して手厚い人員配置ではないので、限られた支援者で対応する工夫も必要でしょう。医療面でのフォローが必要なかたもいるかもしれません。

実際にまだ働きたいという高齢者はいるため、ハード面の充実など加算に向けての準備が徹底できれば、高齢者に特化した事業所への取組は地域協働加算の活用方法のひとつの可能性となるでしょう。

就労継続支援事業所の目的から考える「就労移行連携加算」

就労継続支援事業は年々、成果主義の側面が強くなっています。一見すると、支援と成果主義は矛盾しているように感じるかたもいるかもしれません。就労移行連携加算と利用者の支援の関係を理解するためには、やはり国が示している就労継続支援の目的に立ち返ることが肝要です。

就労移行連携加算と利用者支援

根本の目的は、先ほど述べたA型・B型事業所それぞれの概要にあるように、あくまでも就労継続支援事業所は訓練所として位置づけられている、ということです。A型・B型の訓練目的は「将来的には一般就労に向けて」という考えをいつも含んでいます。

訓練で技能を伸ばす目的を突き詰めたとき、働くため、一般就労のためという核に行き着きます。就労継続支援事業で忘れてはならないのは、生産活動や色々な場を提供するのは就労に求められる知識や能力の向上に必要であるからということです。

ただ結果として、一般就労に長けているのは就労移行支援サービスであることは間違いありません。就労移行連携加算は、それらの状況を踏まえ、就労移行支援事業に繋いで就職させた事業所を評価する加算なのです。

就労継続支援事業所は下積みの場所?

就労継続支援事業所ごとに色々な考えかたがあるとはいえ、国の指針に沿った支援を考えると、事業所は働くための訓練を目的とした下積みのような場所なのかもしれません。

就労移行支援サービスの利用期間は基本的に2年しかありません。短い期間で結果を出せる利用者は元々のポテンシャルがあるか、基礎があることがとても大事だと感じます。2年で結果を出すためにA型・B型での下積みを経て、「ここまできたら大丈夫だろう」という状態になったのち、就労移行支援を活用して2年間で就職する、という流れかもしれません。

実際、就労継続支援事業所を運営するほうも、一般就労という目的を持って支援を組み立てるほうが理にかなっており、ゴールが明確であれば一つひとつの作業に根拠ができます。その作業に取り組むことで社会人に求められる力が育っていくのであれば、利用者にも説明しやすいでしょう。

作業療法士が追加された「福祉専門等職員配置加算」と作業訓練

従来の加算にも変更がありました。福祉専門等職員配置加算に作業療法士(OT)が追加されたのです。事業所の運営の方針によるとは思うものの、国の目的を踏まえるとA型もB型も根底は訓練の事業所です。

訓練をするために特化した知識や資格を考えたときには、介護福祉士や社会福祉士、精神保健福祉士などの福祉的な資格よりも医療的な資格はとても大事です。

福祉における根拠のある訓練とは医療的にいえば「リハビリ」です。A型・B型が利用者に訓練の場を提供するという意味では、今している作業が利用者にとってどのような訓練効果があるのか、この作業をするためにどういう工夫が必要なのかという根拠について、作業療法士に意見を聞くほうが全体的に効率がよく、メリットが大きいでしょう。

おわりに

前半の今回は、就労継続支援の加算のなかの「地域協働加算」「就労移行連携加算」「福祉専門等職員配置加算」の3つをご紹介しました。就労継続支援の支援の将来像と加算について考えるときは、まずA型・B型事業所に国が求めている根本の目的に立ち返ることが肝要です。

支援と加算を考えるうえで就労継続支援事業所の意義を常に念頭に置いていれば、方向性を見誤ることなく、加算の確保や安定した経営に繋げられるでしょう。

後編では、まだ活用例などの情報が乏しく、国や事業所が注視している「ピアサポート実施加算」と、今後規制が厳しくなることが予想される「在宅時生活支援サービス加算」の2つの加算に焦点を当て詳しく解説します。

就労継続支援の加算? 支援体制の将来図からはじめよう(後編)

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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