就労継続支援を知る

「就労移行支援」とは?制度の仕組みから開設の流れまで解説

障害福祉サービスから一般就労への移行人数は年々増加しており、令和元年に初めて2万人を超えました。この記事では、そのうちの半分を占める就労移行支援事業を立ち上げたいかたに、事業内容や就労継続支援A型・B型との違い、事業参入の流れを解説します。

就労移行支援の概要

就労移行支援とは

就労移行支援とは、一般就労を希望しているかたのうち通常の事業所での雇用が可能であると判断されたかたに対して、就職に必要な知識やスキル向上のための訓練を提供する制度です。

就労移行支援事業所は利用者の適性に応じた支援をしたり、就労先を見つける手伝いをしたりします。また、就職してからも安定して働けるよう一定期間、職場定着のためのサポートも実施します。

就労移行支援だけでなく就労継続支援も最終的には一般就労への移行を目的のひとつにしています。

とはいえ、就労継続支援A型・B型が支援を受けながら各事業所で働けるサービスであるとすると、就労移行支援はサポートを受けながら一般就労へ移行することを一番の目的としています。

就労移行支援の利用期間は基本的に2年間ですが、令和3年度の改定で利用者の状況によっては2年を超えても利用できる場合があります(詳しくは今さら聞けない令和3年度報酬改定 就労移行支援編 | はたらくBASEをご覧ください)。

就労継続支援A型、就労継続支援B型との違い

就労を支援するサービスは、就労移行支援以外にも「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」という障害福祉サービスがあります。

就労継続支援A型
就労継続支援A型(※以降、「A型」と表記)とは、一般就労が困難な障害や難病があるかたのうち、雇用契約に基づく就労が可能と判断されたかたに対し、雇用契約を結び働く場所や支援を提供する事業です。

A型は利用者に最低賃金以上の給料を払う必要があります。また年齢制限があり、原則18歳〜65歳までです。

就労継続支援B型
就労継続支援B型(※以降、「B型」と表記)とは、一般就労が困難な障害や難病があるかたのうち、A型のような雇用契約に基づく就労が難しいと判断されたかたに対し働く場所や支援を提供する事業です。

A型や就労移行支援と同様に一般就労への移行を目的としています。しかし雇用契約を結んでいないのでほかのサービスに比べて支援やサポート、居場所づくりの側面もあります。

B型はA型とは異なり、利用者に最低賃金以上の金額を支払う必要はありません。また、年齢制限もありません。B型は、A型や就労移行支援に移行する前に訓練を積む段階といえます。

下の表は就労移行支援、A型、B型の違いをまとめたものです。

就労移行支援 就労継続支援A型 就労継続支援B型
雇用契約 なし あり なし
目的 就労のためのサポート 働く場所の提供 働く場所の提供
対象者 一般企業に就職を希望するかた 一般企業への就職が困難なかた 一般企業への就職が困難なかた
年齢制限 原則18〜65歳 原則18〜65歳 年齢制限なし
賃金 なし 賃金の支払い 工賃の支払い
利用期間 2年(延長可) 定めなし 定めなし

就労移行支援の対象者

就労移行支援の対象者は原則18歳〜65歳未満です。知的障害者や身体障害者、発達障害や精神障害、または難病がある人のうち雇用が可能と認められたかたです。下記は対象者の例です。

・一般就労を希望している人のうち、就職に必要な訓練や知識の習得などが必要なかた
・就労するためにあん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許またはきゅう師免許の取得を望んでいるかた

対象者は自治体によって詳細が異なります。詳しくは各自治体の福祉相談窓口にお問い合わせください。

就労移行支援の訓練内容

就労移行支援は、一般就労に向けた作業などで適性を見極めたり必要なスキルを身に付けたりします。事業所の提供する訓練プログラムは事業所によって少し異なる場合があります。

【訓練内容の一例】
・word、excelなどのパソコンスキルの向上
・コミュニケーションの訓練
・ビジネスマナー
・履歴書の書きかたや面接の練習
・職場体験、現地での実習

就労移行支援の利用料(利用者負担額)

利用者に工賃を支払う就労継続支援とは異なり、就労移行支援はあくまで一般就労に向けての訓練の場所であるため賃金の支払いは基本的に発生しません。

就労移行支援は無料で利用できるかたもいれば、利用料が発生するかたもいます。ただし、下図の通りもし利用料が発生する場合であっても負担上限月額が決まっているため、月の利用日数にかかわらず上限額以上を支払う必要はありません。


※引用:厚生労働省 障害者の利用者負担より

就労移行支援事業所の運営の仕組み

就労移行支援事業所の運営の仕組みと収益構造

就労移行支援は利用者の負担上限月額が決まっていて、無料で利用できるかたもいます。就労移行支援の主な報酬は一般就労をはたした利用者の職場定着率と各種加算によって決まります。

具体的には、前年度および前々年度において就職後6ヶ月以上定着した人で報酬額が決定するほか、利用者のアセスメントに外部機関や関係機関を交えて専門的な見方を入れる「支援計画会議実施加算」などの加算により決まります。

就労移行支援事業立ち上げの流れ

就労移行支援事業立ち上げの大まかな流れをご説明します。

1.指定基準の確認
就労移行支援事業所の開設に必要な指定基準を満たしているかを確認する
2.指定申請
事業所を管轄する自治体の、指定申請を担当する窓口で申請する

就労移行支援事業の指定基準

就労移行支援事業を始めるには以下の4つの基準を満たす必要があります。

1.法人基準
事業をスタートするには法人格の取得が必須です。法人基準は株式会社や特定非営利活動法人(NPO法人)、一般社団法人など、事業形態は問いません。

また定款に事業内容を記載する必要があります。定款には障害者総合支援法の正式名称である「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」と記載したほうがいいでしょう。

2.人員基準(事業所に必要な人員および配置の基準)
サービスを開始するには自治体が定めた人員を満たさないといけません。

人員基準を知るうえで「常勤換算」という用語を理解する必要があります。事業所には、正社員のかたもいればアルバイトなど労働時間の短いかたもいます。

常勤換算とは、事業所で働くすべての職員をフルタイム勤務に換算した場合の平均職員数です。正社員やアルバイトなど雇用形態は問いません。

就労移行支援で必要な人員は以下の通りです。

・管理責任者・・・1人(業務に支障をきたさなければ、ほかの役職との兼務が可能)
・サービス管理責任者・・・常勤者1人以上
・職業指導員および生活支援員の総数・・・6:1(利用者数:職員数)以上
※職業指導員の人数1人以上、生活支援員の人数1人以上で、いずれか1人以上は常勤であること
・就労支援員・・・15:1(利用者数:職員数)以上。1人以上は常勤であること。

3.設備基準
就労移行支援事業所の設備に関する基準では以下の項目を満たす必要があります。

・訓練作業室の設置
・相談室の設置
・多目的室の設置
・洗面所の設置
・トイレの設置
・事務室の設置

4.運営基準(サービス提供や運営に関する基準)
運営基準とは、サービスの提供や運営に関する基準です。障害者自立支援法に基づく障害福祉サービス事業の設備および運営に関する基準によりいくつかの規定を満たす必要があります。下記は運営基準の一例です。

・事業の目的、運営方針
・営業日および営業時間
・利用定員
・求職活動支援などの実施
・職場実習の実施
・職場定着支援
・緊急時などにおける対策
・非常災害対策
・虐待防止の措置に関する事項
・苦情解決
・そのほか運営に関する重要事項

就労移行支援事業はこれらの基準を満たしていないと開設ができません。そのため、中央法規出版が発行している『障害者総合支援法 事業者ハンドブック 指定基準編』を読み込む必要があります。

指定基準の詳細は自治体によって異なります。詳しくは管轄課の窓口でご確認ください。

指定申請について

以下は就労移行支援の指定申請の流れです。

1.事前協議
2.申請書類の提出
3.書類の受理・審査
4.現地確認
5.指定

※指定申請書を提出する自治体の窓口が都道府県か市町村なのかは地域によって異なります。新規で事業所を立ち上げるときは自治体へご確認ください。

おわりに

この記事では就労移行支援の概要と事業立ち上げの流れを解説しました。就労移行支援は利用者の一般就労移行を支えるかなめです。

事業参入を検討しているかたはまず制度や実情を学び、入念な準備期間を設けて開設に向けて動くことをおすすめします。

※就労移行支援についてさらに詳しく知りたいかたはこちらの記事もご覧ください今さら聞けない令和3年度報酬改定 就労移行支援編 | はたらくBASE

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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