今さら聞けない令和3年度報酬改定 就労移行支援編
(画像=はたらくBASE)

就労移行支援は報酬単価が高い反面、ゼロからの事業参入の難しさを抱えています。今回は今年4月の報酬改定を軸に、主に就労継続支援や就労定着支援などの事業を展開しているかたに、支援の実情、アセスメントの重要性、事業所の本音などお伝えします。

目次

  1. 1. 報酬改定の内容
    1. 新設された支援計画会議実施加算とは?
  2. 2. 支援内容の変化
  3. 3. 施設外就労加算の廃止
  4. 4. 事業所経営と一般就労の実情
    1. 事業所経営の実情
    2. 一般就労の実情
    3. 就労支援員の役割
  5. 5. アセスメントの重要性
    1. 就労移行支援は2年間で考える
  6. 6. 就労移行支援はほかの事業とセットではじめよう

1. 報酬改定の内容

令和3年度の報酬改定は大きく分けて2つあります。

ひとつは報酬の算出基準の変更です。就労移行支援事業の報酬は就職定着率によって決まるのですが、これまで定着率は「前年度において就職後6ヶ月以上定着した者の割合」でした。それが今回、前年度に加えて前前年度も対象に加わりました。

引用:厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」より
(画像=引用:厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」より)

もうひとつは基本報酬。定着率が2割以上の事業所であれば基本報酬は増加するようになりました。

新設された支援計画会議実施加算とは?

今回の改定は大きな変化ではなく「就職後6ヶ月定着した利用者の割合に応じて評価が変わる」という現行の報酬体系の強化・補強です。補強の一環として、新たに支援計画会議実施加算も導入されました。

就労移行事業所には元々、事業所内で3ヶ月ごとに1回、年合計4回にわたり利用者に対して「個別支援計画」を作成する決まりがあります。それに加えて新設された制度が支援計画会議実施加算です。

支援計画会議実施加算とは、利用者のアセスメントに専門的な見方を取り入れる制度です。外部機関や関係機関を交えて専門的な意見を踏まえた計画や見直しを行った場合に支給されます。外部機関や関係機関とはかかりつけの病院や支給決定を行っている市町村、相談支援事業所などです。

2. 支援内容の変化

地域協働型には「ピアサポート実施加算」も新設されました。

ピアサポートとは、自身も障害のある方が、専門家としてのサポートではなく仲間(当事者)として利用者を支援する制度です。障害を抱えながら働く意志のある方の就労場所が増え、自身の経験を活かせる意義のある制度です。

しかし「ピアサポート実施加算」は月に100単位と決して多くありません。印象としてこの単位はそのままピアサポーターへの支払いに当てられているようです。

経営だけに着目すると、事業所はピアサポート実施加算で入ってくるお金よりも、ピアサポーターへ払う給料が高くなってしまっては困ります。

ピアサポート実施加算が月に100単位であることを考えると、もしかしたらピアサポーターに来てもらうのは毎日ではなく週に一度程度かもしれません。事業所は、ピアサポーターに来てもらっても収益をプラスマイナスゼロくらいに保つ必要があるためです。

B型事業所はA型事業所とは異なり事業収益から利用者に工賃を支払わなければならないという決まりはありません。悲観的な予想をすると、ピアサポート加算欲しさに既に事業所を利用している利用者をピアサポーターとして雇用する事業所が増えるかもしれません。

もしくは実際にピアサポーターを雇ってそれなりの給料を払うよりは、ピアサポート的な役割を担う利用者にいてもらったほう楽だと考える事業所が出てくる可能性も十分にあります。

とはいえ、ピアサポーターはおそらく利用者としては加算されない流れになるでしょう。ピアサポーターはあくまで支援をする側で利用を受ける側ではないと考えています。

ピアサポーターを利用者と支援者どちらとみなすかについては、今後ピアサポーターを受け入れるなかで、色々な事業所が国に問い合わせいずれ決着がつくのではないでしょうか。

3. 施設外就労加算の廃止

令和3年度の改正では、報酬改定とは別に支援内容に変化がありました。就労移行支援の利用期間は原則2年ですが、2年を過ぎても市町村に対して利用者に残ってもらう根拠を具体的に説明できれば、期間を延長できるかもしれないのです。

本来は就職が決まると就労移行のサービスは終了し利用者は退所します。しかし利用者に更に条件のいい企業へ転職できる、もしくは労働時間が伸びるかもしれないなどの見込みがあれば就労移行を辞めなくてもいいという解釈が出ています。

就職したあとも、状況によっては利用者は籍をおいたままでいい。利用者にとっては就職で全てが決まるわけではなく、就職後もチャンスがあるといえます。優秀なかたを手放さないために企業の利用者に対する姿勢も良くなりそうです。 

【融通の具体例①】 実際にあったケースをご紹介します。ある利用者は2年かけて密度の濃い訓練を行い、就職活動を始めたのが2年目の年度末でした。すぐに就職先を決める必要があったのですが、その利用者がどうしても働きたいと思っている企業の実習受入は3年目に入ってからでした。

2年間の訓練の必要性と、利用者の置かれている状況を踏まえ自治体と交渉した結果、その利用者は就労移行支援の利用期間が延長でき、希望する企業での実習ができました。

【融通の具体例②】 就労移行支援を経て一般就労で働き出した利用者が、会社の都合で務めていた店舗の閉店を機に職を失ったケースもありました。そのかたの場合はもう一度就労移行支援に来てもらい、色々な企業で実習したのち就職に繋がりました。

就労移行支援の利用期間延長に具体的な理由があれば、市町村は前向きに検討してくれます。「○○の理由があれば期間を伸ばす」という明確な規定はありませんが、明言されていないからこそある程度の融通が効きますし、個別的に判断してもらえます。

4. 事業所経営と一般就労の実情

事業所経営の実情

就労移行支援は、就労継続事業所A型やB型などに比べ報酬単価が高い一方で、ゼロから経営に参入し運営を持続させることへの難さもあります。

A型やB型は定員が埋まるとほとんど入れ替える必要はありません。一方で就労移行支援事業所の利用期間は2年間です。1年間で10名が就職してしまうと次の年に新たに10名の利用者に来てもらわなければならないため、利用者を毎年確保する必要があるのです。

また、一般企業への就職のタイミングにも特有の難しさがあります。就労移行支援の定着率は「就職後6ヶ月以上定着した者」によって決まるため、年度前半の最終日の9月30日までに利用者が就職すると、就職後6ヶ月が経過するのは3月31日。定着達成日が年度内となるため報酬は翌年度に支払われます。

ですが10月1日以降に就職した場合、就労してから6ヶ月が経過するのは翌年の4月以降になり、来年度にまたがってしまいます。その場合の報酬は再来年度に反映されます。言い換えると、年度前半の9月30日までの就職か年度後半の10月1日以降の就職かによって次年度の収入が変わってしまうのです。

利用者の多くが年度前半で就職してしまい、年度後半での就職が極端に少なくなってしまうと、報酬がとても高い年とほとんどない年が出てしまいます。

そのため、事業所はバランスの良い収益のためにはどこかで就職をコントロールしなければいけません。年度前半と後半で同数の利用者に就職してもらいたいと思っていても、利用者が企業へ実習に行ったさいに「すぐに就職してほしい」と言われる場合も多くあります。

利用者の就職は喜ばしい反面、就職の時期によって事業所の報酬が変わるためバランスよく就職してほしいというジレンマを抱えています。就職率が上がらないと報酬が貰えない、バランスを考えないと収入が偏る。就労移行支援事業所にとって、数年先を見越しコンスタントに収益を得るための管理はとても難しいのです。

一般就労の実情

一般就労の仕事は事務職から専門職まで多岐にわたります。汎用性が高く様々な仕事への応用が効く訓練を行い就職率を上げる就労方針にするのか、専門的な技術を養いニーズがある企業への就職を目指すのか。事業所の就労方針を決めるときに知っておきたいのが就職の実情です。

たとえば特別支援学校によっては介護の専門知識を身に付ける学科があります。介護業界は慢性的な人手不足なので介護業界で活躍できる人材を育成するという方針を取る場合もあるでしょう。

しかし現実に就労移行支援から一般就労に移行したかたは、もちろん専門性を活かして就職してもらうこともありますが、名称としては専門性が高い企業に務めたとしても、実際は専門性は特に必要ない部署で働くことが多いのです。

一般就労で必要なのはマルチタスクができる能力や専門性の高さではなく、いかに職場で長く安心して働けるかです。障害特性によって困難さは異なりますが、仕事に行けなくなるというのが利用者にとっても企業にとっても一番避けたい問題だからです。

就労支援員の役割

就労移行支援から一般就労へ移行し、かつ定着に繋がる支援を行う。そのために重要なのが利用者と企業のアセスメントです。

まず就職をサポートする就労支援員が企業の仕事と本人の能力のアセスメントを取ります。会社には色々な部署や沢山の仕事があるので、そのなかから本人ができる分野を組み合わせて1日の仕事の流れを作り、企業と調整することが多々あります。利用者との対話ももちろん必要ですが、実は企業とのアセスメントも大切なのです。

また、社内の掃除や建物外の生け垣の伐採など、業者に外注することもある仕事を社内で行う、部署を作って一度覚えると一人でできる仕事を任せルーティーンワークにしてもらう方法もあります。

5. アセスメントの重要性

会社の都合で職を失うというような、誰が聞いても仕方がない理由に関しては行政も相談を受けてくれます。ただ、自己都合で幾度となく会社を離れる利用者の場合、外部から就労移行支援のアセスメントに違和感を抱かれるかもしれません。

就労移行支援では、たとえばB型事業所に行きたい利用者がいた場合、本当に就職が難しいのかアセスメントを取ります。同じように、一般就労を目指すかたの場合も就職が可能かアセスメントを取ります。

アセスメントの結果、一般就労を目指せる可能性があると判断がなされたのにも関わらず出入りの激しい利用者がいると、「仕事を続けられるような訓練をしたのか」「就職にあたってどんなサポートをしたのか」と疑問をもたれると思います。

さらに今年から、行政に対し「いつ」「どこに」「どの利用者が」就職したのかを逐一報告する義務ができたため、行政は事業所の動向を詳細に把握できるようになりました。

疑問をもたれたからといって罰則があるわけではありませんが、事業所の評価に関わります。就職ができるようにしっかり訓練をしていたり、一般就労への移行が難しそうなかたをA型・B型事業所に繋いでいたりする事業所は評価されると思います。

就労移行支援は2年間で考える

就労移行支援の利用期間は基本的に最大2年です。移行支援を利用して半年ほどで就職されるかたもいますが、2年かけて移行したほうが利用者にとっても事業所にとってもいい就職に繋がるでしょう。

程度の差はあれ、利用者の持つ一般就労のイメージと実際の一般就労には違いがあるように思います。「どうせ私はコンビニでいい」という利用者も少なくありません。

コンビニで働いた経験のある人であれば、仕事が大変で内容も複雑だと知っています。ですが、コンビニはどこにでもあり求人も沢山出ているため軽く考える利用者は多い気がします。とても厳しい言い方をすると、まだ世間を知らないかたもいます。

障害を抱えたかたの2年間はあっという間に過ぎる印象を受けるので、福祉サービスがフォローしている間に自分自身や一般社会について徐々に学んでいく方がいいのではないかと思います。

しかし、なかには就職を待てない利用者もいます。最近はスマートフォンをほとんどのかたが持っているので、就職サイトを自分で調べることもあるようです。

待てない理由としては、お金が欲しかったり働いているというステータスが欲しかったり色々あると思います。ですが人は自分自身のことが一番わからないものです。自身の能力を把握する前に、「自分ならできる」と思って就職をする人も残念ながらいます。

2年間をフルに使って利用者が自分自身を知り、どんな職種があるのかを知る。その上で障害者雇用を募集している企業の見学や、実習で経験を積みながら世間を知ることが定着率を上げる方法だと思います。

運営側にとっても短期間での就職はデメリットが大きいでしょう。利用者が就職後6ヶ月以内に辞めてしまっては報酬を得られないため、事業所はどうすれば就職後も継続的に働けるのかを見越して利用者に合わせたプログラムを作り、1~2年後の就職を見据えた目標設定を行っています。

利用者の多くが半年で就職してしまうとその度に新たな利用者を探さないといけませんし、就職してすぐに離職してしまうと収入になりません。就労移行支援は人件費もかさむため、基本的に6ヶ月単位で回している事業所ほぼはないでしょう。

利用者にとっても事業所にとっても短期間での就職のメリットはないのです。

6. 就労移行支援はほかの事業とセットではじめよう

就労移行支援は大事なポジションである反面、事業としての難しさもあります。就職したくてもできなかった人もいるでしょうし、2年間では間に合わない人もいるかもしれません。

就労移行支援利用者は2年以内に就職させないといけない。就職させたら定員を補充しないといけない。就職した利用者が戻ってきたら定員が増えるため嬉しい気持ちもあるけれど、出入りが激しいと行政指導が入る可能性がある。ゼロから就労移行支援のみを経営するのはハードルが高いと思います。

しかし既に就労継続支援や就労定着支援を運営している事業所であれば話は変わります。たとえば就労定着支援と就労移行支援を同じ事業所内で運営していると、万が一利用者が働けなくなったときに「また就労移行支援に戻って訓練してもいいんじゃない?」と言える環境が整います。

あるいは就労移行支援に来た利用者のアセスメントの結果、どうしても一般就労が難しいと判断がなされた場合であれば、同一事業所で運営しているA型やB型のような就労継続支援へのスムーズな橋渡しが可能です。

就労移行支援をゼロから単体で始める場合は難しさがありますが、就労継続支援や就労定着支援などの福祉サービスを始めている事業所であれば、組み合わせて事業を展開していくのもひとつの手段だと思います。