知的障害への正しい理解で、支援の質は飛躍的に高まります。
この記事では就労継続支援での知的障害者ケアにつながる情報を提供します。知的障害の内容から、当事者が困っていること、事業所がやってはいけない対応・適切な対応を知り支援に役立てましょう。
知的障害とは
知的障害とは、発達期(幼少期から青年期)に生じ、読み書きや数学、論理的思考、知識や問題解決といった「概念的領域」、対人コミュニケーションや社会的判断、自己制御などの「社会的領域」、金銭管理や行動の管理などの「実用的領域」という、3つの領域における知的機能と適応機能の双方に明らかな制約が見られることで特徴づけられる障害です。
知的障害という用語は、複数の法律に記載がありますが、具体的に何をもって知的障害とするのかに関する法的な規定は現時点では存在しません。知的障害については、医学的な診断としての知的障害と、療育手帳の交付など福祉的支援の対象としての知的障害の2つがあります。
①医学的な知的障害
医学的な基準においての知的障害は、全体的な知能の障害と、日常の適応機能の障害によって特徴づけられます。知的機能は、一般的には知能検査により評価され、平均から2標準偏差より低い(IQ得点では65-75)ことが一つの目安となります。
②福祉的な知的障害
福祉的な基準における知的障害は「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生省発児第156号厚生事務次官通知)」に基づき、児童相談所、または知的障害者厚生施設などの審査のもと判定がなされます。
その際の判定基準や手帳の名称については、交付する自治体によって異なっており、定期的に再判定がおこなわれます。
知的障害に関する就労継続支援
知的機能と適応機能に制約が見られる知的障害ですが、このような障害を持つ方の就労を支援する就労継続支援事業所があります。事業所は以下の2つに分類されます。
①就労継続支援A型事業所
就労継続支援A型とは、障害や難病のある方が、雇用契約を結んだ上で障害に対して一定の支援がある職場で働くことができる福祉サービスです。
障害者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつであり、現時点では一般企業での勤務が難しい65歳未満の方に、一定の支援下で継続して働けるような職場を提供しています。利用者はA型事業所との間で雇用契約を結ぶので、基本的には最低賃金額以上の給料がもらえます。
厚生労働省の社会福祉施設等調査によると、A型事業所は2018年時点で3839事業所、利用者は6万8070人です。
②就労継続支援B型事業所
就労継続支援B型とは、障害や難病がある方のうち、年齢や体力などの理由から、企業等で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスです。
障害者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつであり、比較的簡単な作業を、短時間から行うことが可能です。年齢制限はなく、障害や体調に合わせて自分のペースで働くことができ、就労に関する能力の向上が期待できます。
事業所と雇用契約を結ばないため、賃金ではなく、生産物に対する成果報酬の「工賃」が支払われます。
厚生労働省の社会福祉施設等調査によると、B型事業所は2019年時点で1万2497事業所あり、利用者は33万2487人です。
当事者が困っていること
障害者の就労を支援する就労継続支援事業所ですが、知的障害者の方が就労時に実際に困っていることは何でしょうか? 制度面と精神面から見ていきましょう。
制度面
- 給料や工賃などが少ない
「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、身体障害者は約21万5000円、知的障害者は約11万7000円、精神障害者は約12万5000円、発達障害者は約12万7000円が平均月収となっています。この中でも知的障害者の給与が最も低く、一般雇用枠の労働者平均月収約26万4000円と比べると15万円以上の差があります。
- 年金制度が複雑で分かりにくい
日本の障害年金制度では障害者手帳の等級(障害の重さ)と障害年金の等級(給付される額)の判定基準が別なので、知的障害の程度が重くても、障害年金は満足のいく額がもらえないなどの事例が発生しています。また、知的障害(精神遅滞)の場合は全国共通の基準がなく、都道府県ごとの基準も統一されていません。
- 働く時間が長い
就労継続支援A型の場合、事業所ごとに4~8時間程度の労働時間が決まっており、時間内はフルで働くことが必須です。フルタイムでの労働は厳しい障害者の方もいるようです。
精神面
- 利用者同士や職員との人間関係がうまくいかない
- 仕事をする場所で自分の障害のことを分かってもらえない
- 自分のできること/やりたいことと与えられた仕事にズレがある
- 仕事が難しい
制度面ではお金の問題や労働環境の問題、精神面では人間関係などの不安があげられます。
特に人間関係は周りの人が意識して改善していかなければいけません。
事業所の適切な対応・やってはいけない対応
ここでは、事業所や私たちができる適切な例と不適切な例を見ていきましょう。
適切な対応の例
- 「ゆっくり」「やさしく」「ていねい」に本人に話しかける
相手の前に立ち、本人の目を見て、ゆっくり話しかけましょう。後から急に声をかけられたり、肩をたたかれたりすることが苦手な方もいます。話しかけたら、本人がリラックスするのを待ち、様子を見て、その人の状況に応じた対応をしましょう。
- 必ず本人に話しかける
介助者(保護者・ヘルパー)と居る場合も、介助者に話しかけるのではなく、本人に向かって話しかけ、本人の意思を確認しましょう。 - 話の内容は「はっきり」「短く」「具体的」に伝える
一度にたくさんの事を話すと、混乱してしまう方が多くいます。ポイントを絞って、一つずつ話しましょう。「あれ」「これ」などのあいまいな表現は避け、具体的に分かりやすい言葉で話しましょう。言葉だけで理解しにくいようであれば、文章にして伝えましょう。また、理解しにくい法律用語、聞きなれない用語については、分かりやすい言葉に言い換えて説明しましょう。
- 本人の年齢に応じた声かけをする
知的障害者の中には、幼児扱いをされたまま大きくなった人もいますが、大人として対応をしましょう。 - 本人の話を聞く態度を持つ
本人の話を聞く時は、あせらずに本人が話すまで待ちましょう。どうしても言葉が出ず、困っている場合は、「はい」か「いいえ」で答えられるように具体的な選択肢を挙げて質問しましょう。
不適切な対応の例
- 行動や発言をせかす
本人の行動や発言をせかすと、パニックに陥ってしまう場合があります。「○○さん、もう少し急いでください」「もう他の人は仕事を始めていますよ」などの声かけは行わないようにしましょう。 - 本人のミスをとがめたり叱ったりする
ミスをとがめたり、叱ったりしてしまうと、仕事に対する恐怖や不安を植え付けてしまいます。ミスを指摘するのではなく、一緒に解決できるような声かけを行いましょう。 - 雑音が多い環境で過ごさせる
知的障害者の中には雑音や大きな音が苦手な方がいます。落ち着いた環境で作業ができるような空間作りをしましょう。 - 本人の希望や特性に合わない仕事をさせる
本人の希望や特性に合わない仕事をさせると、ストレスになるのはもちろん作業の非効率化にも繋がります。定期的に本人から意見を聞いたり、作業する様子を見たりした上で本人に一番あった仕事を提供できるようにしましょう。
まとめ
「知的障害者」といっても、障害の重さや性格はバラバラです。事業所をはじめ、周りの人たちは1人1人の特性にあった支援をしていかなければなりません。障害者本人にとって何が最適な対応なのかを考えながら支援を行っていきましょう。