日本に5万以上もあるNPO法人。しかし実際に設立するには細かな条件をクリアしたり一般社団法人等との違いを理解したりと十分な知識が必要です。今回は、設立要件やNPO法人ならではのメリット、また気をつけるべき点などをわかりやすく解説します。
NPO法人とは
NPOとは「Nonprofit Organization」の省略で、NPO法人とはそれを訳して「特定非営利活動法人」と言います。その名の通り非営利活動を行うことを目的とした法人です。
株式会社や合同会社とは異なり、NPO法に基づいて法人格を取得した法人であり、法人認定を受けています。不特定多数の者の利益の増進に寄与することを目的としています。
NPO法人に関するQ&A
①NPO法人はお金を稼いではいけないのか?
NPO法人は非営利団体ですが、「非営利」とはボランティア活動を意味するわけではありません。
NPO法人は独自の活動(事業)を行い収入を得ます。仲間と連絡を取れば通信費が、活動場所を借りれば会場費が、会場に行くためには交通費が、資料を配るためにはコピー代が必要ですが、それらの経費は活動収益から支払われます。もちろん報酬も支払われます。
ただし、一般企業にように、社長や役員など役職が上の職員がその地位によって他の社員より高い報酬を得ることはありません。メンバーは平等ですので、それぞれが携わった活動に対する報酬が支払われます。
②NGOとNPO法人の違いは?
どちらも非営利で活動する団体ですが、NGOは紛争、人権、貧困などの世界的な課題の解決に向けて活動する団体であるのに対し、NPO法人は政府・自治体や企業ではすぐに対応することのできない子供の貧困やホームレス問題などの社会のニーズに応える団体です。
③株式会社とNPO法人との違いは?
NPO法人と株式会社などの法人との違いのひとつには、受益者負担かどうかの違いがあります。「受益者」とは、サービスを受ける人のことを指す言葉です。
株式会社が受益者からサービスの対価を受け取り収益を得ているのに対し、NPO法人は基本的には受益者から対価を受け取らず、外部からの寄付で収益を得ています。
※提供するサービスや商品の内容によっては受益者が対価を負担する場合もあります。
また、株式会社とNPO法人では課税方法も異なります。NPO法人は寄付金によって運営されることが多く、受けた寄付金には税金がかかりません。ただし、NPO法人の中でも、収益事業を行っている法人は収益事業による所得金額に対してのみ、法人税が課税されます。
一方、株式会社などの法人は、収益事業がメインであり、事業で得た収益には法人税が課税されます。また、法人住民税の均等割り、消費税、給料といった源泉所得税、不動産取得税、固定資産税なども収めなければいけません。
さらに、株式会社では収益が出たら株主に収益を分配しますが、NPO法人では収益を分配することはありません。NPO法人では収益が出た場合、NPO法人の事業活動へ回されます。
④一般社団法人とNPO法人の違いは?
一般社団法人は登記だけで設立できるのに対し、NPO法人は設立に認可が必要です。そのため一般社団法人は2~3週間ほどで設立できますが、NPO法人は設立までに3~5ヶ月ほどかかります。
また、一般社団法人の活動目的は自由ですが、NPO法人はNPO法に定められているもののみになります。このほかにも多くの違いがあります。
一般社団法人 | NPO法人 | |
設立にかかる期間 | 2~3週間 | 3~5ヶ月 |
設立に必要な人数 | 2人以上 | 10人以上 |
設立に必要な役員数 | 理事1名のみでも可 | 理事3名以上 監事1名以上 |
役員の親族規定 | なし | あり |
設立に必要な実績 | 約11万円 | 0円 |
活動内容の制限 | 特に制限なし | 特定非営利活動のみ |
所轄庁への報告義務 | なし | あり |
情報公開の義務 | なし | あり |
対象となる民間の補助金 | NPO法人より少ない | 多い |
支援プログラム | ほぼなし | 多い |
税法上の優遇 | 非営利型ならNPO法人と同じ | 税法上の収益事業のみ課税 |
⑤NPO団体とNPO法人の違いは?
最も大きな違いは法人格があるか否かです。NPO法人はNPO法(特定非営利活動促進法)に基づき設立されます。NPO団体の活動目的は自由ですが、NPO法人はNPO法に規定されている20の活動目的に限られます。
- 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
- 社会教育の推進を図る活動
- まちづくりの推進を図る活動
- 観光の振興を図る活動
- 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
- 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
- 環境の保全を図る活動
- 災害救援活動
- 地域安全活動
- 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
- 国際協力の活動
- 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
- 子どもの健全育成を図る活動
- 情報化社会の発展を図る活動
- 科学技術の振興を図る活動
- 経済活動の活性化を図る活動
- 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者の保護を図る活動
- 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
- 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動
このように活動目的が限られているNPO法人ですが、法人であるメリットは何でしょうか?
NPO法人であることのメリット
NPO法人であることのメリットは大まかに3つあります。
- ①費用と税金が節約できる
- ②活動の幅が広がる
- ③社会的信用度が高い
では、一つずつ見ていきましょう。
①費用と税金が節約できる
NPO法人が資金を調達する主な手段である寄付金には税金がかかりません。さらに、NPO法には資本金・出資金に関する決まりはないので、費用がなくても設立可能です。
また、登記時の登録免許税もかからないため、少額で設立手続きが行えます。しかし、収益事業を行うNPO法人が得た収入は課税対象となるので注意しましょう。
②活動の幅が広がる
NPO法人になることでボランティア活動よりも幅広い活動ができるようになります。団体名で様々な契約行為が可能となるため、団体名で事務所を借りたり、団体名で物品を購入したりすることが可能となります。また、団体名で銀行口座を持つことも可能です。
③社会的信用度が高い
NPO法人は国から認可を受けた組織なので社会的信用度の高い団体です。法人としての信用があるので、さまざまな支援を得たり行政や企業から事業の案件をもらったりできるでしょう。
NPO法人の設立要件
NPO法人として設立するには、下記の設立要件を満たしている必要があります。
- 主たる理由が特定非営利活動であること
- 営利を目的としないものであること※1
- 主たる目的が宗教及び政治活動ではないこと
- 特定の公職者(候補者を含む)もしくは政党を推薦、支持、反対することを目的としないこと。
- 10人以上の社員を有するものであること※2
- 暴力団およびその構成員、もしくは構成員でなくなった日から5年以内の者の統制下にある団体でないこと
- 役員のうち、報酬を受ける者の数が役員総数の3分の1以下であること
- 社員における資格や得喪に関して不当な条件を付さないこと
※1.利益が生じた場合、その利益を出資者および構成員に分配をしないということです。
※2.社員とは決議権を持つ会員のことを指しており、会社でいう従業員のことではありません。
NPO法人設立の手順
多くのメリットがあるNPO法人ですが、実際に設立するにはどうすればいいのでしょうか? NPO法人を設立するためには以下の手順を踏む必要があります。
- 活動の業種を確認する
- 設立発起人会を開く
- 設立総会を開く
- 設立承認の申請を行う
- 法人設立の登記を行う
- 所轄庁に法人設立を届け出る
①活動の業種を確認する
NPO法人として認められるには、まず活動内容を選定する必要があります。活動内容は、「NPO法人に関するQ&A」の章の「⑤ NPO団体とNPO法人の違いは?」であげた20の活動目的と同じです。
②設立発起人会を開く
NPO法人を設立する人たちを発起人といいます。この発起人たちで、設立の趣旨や活動内容、法人名などNPO法人の基礎となる部分を決めていきます。設立に必ずしも必要ではありませんが、設立の準備を円滑に行うためには踏まえておきたい手順です。
③設立総会を開く
メンバー全員で設立総会を開きます。設立総会では設立発起人会で決めた内容を基に最終的な意思決定を行います。意思決定を証明する議事録が次の設立認証に必要なため、設立総会では議事録をとっておく必要があります。
④設立認証の申請を行う
所轄庁へ設立認証の申請を行います。書類は受理された日から1ヶ月公開され、市民からも承認を受けられる状態になります。
3ヶ月以内に認証または不認証が下されます。もし不認証になっても、その理由が通知に記載されるので、訂正箇所を訂正して再度申請を行うことができます。
⑤法人設立の登記を行う
④の段階で認証された場合は認証書が届きます。届いてから2週間以内に管轄する法務局で設立登録をしなければなりません。期間が限られているため登記に必要なものは審査を受けている間に用意しておくことをおすすめします。
法務局で設立登録をする前に準備が必要なものは以下の通りです。
- NPO法人で使用する印鑑(法務局に届け出ていること)
- NPO法人の印鑑届け出
- 代表者個人の印鑑証明書
- 設立時の財産目録
- 定款
- 理事の就任承諾書
- 宣誓書
所轄庁からは認証書と登記申請書が届きますので、上記に書いた事前準備が必要なものと併せて法務局に手続きをしに行きましょう。
⑥所轄庁へ法人設立を届け出る
設立登記が完了したら、所轄庁にNPO法人設立の報告を行います。これで全ての手順は終了です。
NPO法人の運営時に気をつけること
ここまでNPO法人に関する要件や手順を見てきました。ここからはNPO法人を運営するときに気をつけなければいけないポイントをご紹介します。
- 提出義務のある書類の作成や管理をしなければならない
法人格を取得すると、所轄庁に毎年事業報告書や決算書を提出しなければなりません。また、役員変更や定款変更も状況に応じて提出する義務があり、法務局への登記も必要になります。 - 納税の義務が発生する
法人格を取得すると法人税や法人事業税、消費税などの税金を払わなければなりません。また、申告書などの書類の作成も必須です。 - 活動内容や財務情報を公開しなければならない
法人の活動内容や財産に関する内容は市民に公開されます。書類の作成が団体の信用に繋がるので書類作成は丁寧に行いましょう。 - 罰則規定がある
事業報告書の提出などの規定を破った場合、罰金や認証の取り消しなどの罰則が適用されることがあります。また、認証の取り消しを受けると、2年間は他団体の役員になれないなどの不利益を被る場合もあります。
おわりに
NPO法人として非営利活動を事業として成立させ継続していくのは、一般的な営利企業とは違う難しさもあります。
しかし、NPO法人を設立することで社会への貢献度は確実に上がります。今回の記事がNPO法人を設立する際の参考になれば嬉しく思います。