事業所を立ち上げようと思ってもサービス管理責任者が見つからない…。サビ管獲得のために何に気をつければいいのでしょうか。今回は採用に大切な計画性、ほかの事業所から転職するさいの辞めかた・人材獲得における作法、「みなしサービス管理責任者」などを解説します。
サービス管理責任者の実情
サービス管理責任者とは障害福祉事業所での支援計画の作成や職員へのマネジメント業務など、適切なサービスができるよう事業所全体を管理する職業です。障害者総合支援法で配置が義務付けられていて、就労継続支援事業所にも1人は必要です。
サービス管理責任者の仕事内容や管理責任者との違い、資格取得方法を知りたいかたは障害福祉サービスに重要な役目を果たす「サービス管理責任者」 | はたらくBASEをご覧ください。
サービス管理責任者は事業所開設の3ヶ月前までの採用がベター
就労継続支援事業の開設を考えている場合、サービス管理責任者を確保してから開所の準備に移ります。事業立ち上げの2ヶ月前に必要な「指定申請」という申請書を出すときに、書類に名前が必要なため、遅くとも2ヶ月前には確定していないといけません。
書類作成にかかる時間は申請者次第ではあるものの、3ヶ月前には確保できていて、1ヶ月で書類を作成し、開所の2ヶ月前に申請書を提出できる環境が整っていると安心でしょう。
サービス管理責任者の就職は引く手あまた
しかし求人サイトにサービス管理責任者の募集が多く載っていることからもわかるとおり、確保は簡単ではありません。
また、サービス管理責任者経験者と資格だけを持つ未経験者では就職のしやすさに大きな差があります。サービス管理責任者がいないと困る状態であれば、欠員の補充が最優先なので、経験者の応募を待たずに未経験者の採用はあります。
しかしながら、はじめてサービス管理責任者を経験するかたが専門的に動けるかというとそうではありません。未経験で採用されたものの業務の進めかたで悩む人は多いでしょう。
挫折して二度としたくないと思う人もいるかもしれませんし、もしかするとサービス管理責任者の業務が上手くいかず離職してしまった人数が、求人数の多さに現れているのかもしれません。
自分たちの就労継続支援事業所を選んでもらうポイント
言い換えると、サポート体制が整っていれば数ある募集のなかから自分たちの事業所を選んでもらいやすくなります。
たとえば人事異動でサービス管理責任者になった場合にフォロー体制のない事業所では一人で業務を進めなければいけませんが、相談できる相手、OJTのある環境であればスムーズに進みます。
サービス管理責任者は基本的に対人サービスです。それに加え、管理業務や労務事務、請求に関わる仕事もあります。支援員では経験しない業務を求められる場面は多いため、フォロー体制ができているのかは選ばれる事業所になるうえで大きな要素でしょう。
しかし、規模の小さい単体の事業所であればサービス管理責任者の先輩からの指導はまず無理でしょう。単体事業所に未経験で入ったサービス管理責任者しかいない場合、引き継ぎだけ受けて終わりかもしれません。
そのため代替手段が要るでしょう。たとえば支援に関しては基幹相談支援センターの活用、請求や人事労務については一般企業が作っている色々なシステムの活用や外部への委託などで、直接的なサポートはできなくとも間接的なサポートはできるかもしれません。
グループホームや就労移行支援など他のサービス管理責任者との給料差
サービス管理責任者は就労継続支援のほかにもグループホームや就労移行支援など、数多くのサービス形態の事業所に必要な職種です。
サービス形態によるサービス管理責任者の給料に違いはありません。たとえば生活介護の単価は高いものの、利用者が増えるとサービス管理責任者ではなく支援員を増やさないといけないルールがあります。
サービス管理責任者と支援者の割合が決まっており、国がサービス形態によってあまり差が出ないように上手く制度設計しているので、待遇はあくまで会社の方針次第でしょう。
ほかの事業所からの出向、兼務
母体の大きさや企業の人数によっては、どうしてもサービス管理責任者が見つからない場合に別の事業所からの出向・兼務は可能です。
たとえばグループホームは利用者30人に対してサービス管理責任者を1人、就労継続支援事業や通所型サービスは利用者60人に対してサービス管理責任者1人を配置する決まりがあり、割合に違いがあります。
また、指定基準上の表記は曖昧にしてある場合があり、「常勤でなくてはならない」ではなく「望ましい」という表現がされていることが時々あります。
その場合の兼務は可能でしょう。管轄している自治体の窓口に行き、事業所の現状を伝え指定基準の表記と照らし合わせながら兼務が可能であるかを担当者に確認しておくとより安心です。
サービス管理責任者と管理責任者の兼務
就労継続支援では、サービス管理責任者とは別に管理責任者という職種の配置が必要です。
管理責任者はほかの職種との兼務が可能なため、サービス管理責任者との兼務が多々あります。兼務と専任にはどのような違いがあるのでしょうか。
単純に考えると管理責任者とサービス管理責任者を別々にしてしまうと人件費が2人分かかります。1人で管理責任者とサービス管理責任者を担っていると人件費は1人分で済み、管理責任者のぶんの人件費を現場で働く職員に分配したほうが待遇は上がります。
正直なところ、管理者がいるからといって現場が劇的に良くなるわけでもないように思います。なぜならサービス管理責任者は資格を持っている人しかできませんが、管理責任者は社会福祉事業に2年従事し講習を受講したかたであればどなたでも働けるからです。
実際に管理責任者兼サービス管理責任者として働いても、サービス管理責任者とあまり変わらない印象を受けます。管理責任者とサービス管理責任者は基本的に兼務で問題ないでしょう。
それでも管理責任者を専任で配置するパターンは、経験のない状態で入社したサービス管理責任者のフォロー体制を確保するねらいがある場合や、会社の方針として全体を指揮する管理責任者を配置し、サービス管理責任者には業務に専念してもらうという明確な目的が決まっている場合があるでしょう。
無資格の職業指導員・生活支援員の採用
管理責任者以外にも配置が義務付けられているのが職業指導員と生活支援員です。資格は必要ありませんが、非常に大きな母体であるか研修・育成体制がかなり充実していなければ無資格での採用は難しいでしょう。
どうしても人手が足りずに無資格者を採用する場合以外には、就労継続支援事業所には生産活動があるため、職業指導員にはあえて福祉以外の人を雇い生産活動に関する分野を任せ、生活支援員には福祉を担ってもらう割り振りかたもあります。
そのときに求められるスキルは当然、事業所の作業内容によって異なります。新規に事業参入を検討している場合は人数集めよりも先にどのような作業内容にするかを考える必要があるでしょう。
福祉資格以外に持っていてほしい「防火管理者」と「衛生推進者」
先に述べたとおり事業所の作業内容によって必要なスキルは変わります。
最初の事業所の立ち上げでは、同じコンセプトを持ったかたが何人か集まって開所に向けて協力し合うか、もしくは中心となって動く人に福祉や作業に関する知識とスキルがあって立ち上げるかのどちらかだと思います。
立ち上げようと思ってから色々と模索していては遅いのです。事業所のコンセプトを明確にすると自ずと必要な資格もわかってきます。それを踏まえたうえで普遍的な資格を挙げると「防火管理者」と「衛生推進者」でしょう。
就労継続支援の場合、テナントのように複数のオフィスが入っていてその一角で事業を運営するのであれば既に建物自体に防火管理者がいるかもしれませんが、ゼロから建物を建設するのであれば防火管理者は必要です。
衛生推進者は福祉事業所というよりは労働基準法上いたほうがいい程度のため、防火管理者とは違い必ずしも配置しないといけないわけではないように思います。
建物と事業内容によってその建物が消防法でどの分類になるかが変わり、防火管理者の資格の有無も変わります。防火管理者を専任で配置する義務が発生しているのにもかかわらず配置しなければ違法状態となってしまいます。
防火管理者に関わらずすべての職種にいえるのは、それらの職種が必要になってから探していては遅いということです。事業の方向性を明確化し開所に向けて十分な準備期間を設けなければ、開所間際に慌てることになります。
みなしサービス管理責任者と名義貸し
令和3年度までは、令和元年から3年度までに基礎研修を受けたかたに限り、サービス管理責任者とみなす「みなしサービス管理責任者」という措置がありました。またインターネットで検索するとほかにも「名義貸し」というキーワードが多く見受けられます。
勤務予定のない人をサービス管理責任者にして指定申請を行ったり名前だけ貸して実際には働かなかったりする「名義貸し」は発覚すると指定取り消しになります。しかし、検索が多いということはそれだけ困っている事業所があるのかもしれません。
みなしサービス管理責任者の制度は令和4年度に廃止されました。サービス管理責任者資格はとても取得しやすいため、資格は持っていても専門性が十分でないかたが増えてきたことや、条件が緩やかだったため名義貸しのような違法行為も発生してしまったことが廃止の一因だと思います。
また、国は就労継続支援事業に対して質を求めています。サービス管理責任者の資格を持っているだけで業務に就くのではなく、経験を積んだうえで本来のサービス管理責任者業務を担ってもらうよう、みなしサービス管理責任者はなくなったのだと思います。
サービス管理責任者の獲得
検索が多いということは、本音はみなしサービス管理責任者の制度があったほうがいいと思っている事業所も少なくないのかもしれません。
大きな母体があれば、相談支援員をしている人がサービス管理責任者として次の事業所立ち上げ時に新事業所のサービス管理責任者になったり、勤めている事業所で先輩のサービス管理責任者に教えてもらったあとに先輩が異動して後継者なったりなどのパターンがあるでしょう。
しかし、単体の事業所や、国が就労継続支援サービスに求めている本来の質の高い福祉事業所を運営していくためにはやはり経験者がほしいと思います。
重要なのは、開設を検討している事業所もその事業所への転職を考えているサービス管理責任者も早い段階で計画を立て、現在在籍している事業所にも配慮することです。
福祉業界は事業所間の連携を大切にしています。その中心になるサービス管理責任者が貴重な戦力であるとともに、率先して連携する業務に努めていたことは間違いないため、現在勤めている会社に気を配ってもらうことで、その後も良い関係が築けると思います。
後任の選任が滞ると関係機関やご利用者、従業員まで影響を及ぼし、事業所運営の混乱を招いてしまうでしょう。退社の1ヶ月前に会社に伝えていては、会社、本人、新しい事業所それぞれにデメリットしかなくトラブルに繋がりかねません。
転職までに期間を設けて話を進めてもらうことが大事です。会社としてもひと月前に急に辞表を出されるのではなくて、3〜6ヶ月前には、「事情があって来年の3月で退職したいのですが」と切り出されるほうがまだ円満に進むかもしれません。
一緒に働きたいと思っているサービス管理責任者に、今勤めている事業所へ配慮してもらいつつ、計画的に転職してもらうことが良い方法だと感じます。
福祉業界は横の繋がりを大切にしている側面があるためより慎重さが求められるかもしれません。円満退社が必要だと思いますし、前職のサービス管理責任者から実際に事業所間の連携の相談を受ける場合もあります。
経験があるサービス管理責任者の獲得はメリットがあります。たとえば異業種から就労継続支援事業所を開設するときは、福祉の人材が法人内にいない状態で立ち上げとなりますが、経験のあるサービス管理責任者であれば開所・運営に必要な知識を有しているといえます。
いざ立ち上げようと思ってから探してもなかなか見つからないため、長期的に計画を立て、福祉を学びじっくり探し、サービス管理責任者のあたりがある前提で参入します。長いスパンで考えることで人材が見つかり、結果的に経営の安定化に繋がるでしょう。
おわりに
人材を獲得する側も、転職する人も、サービス管理責任者を手放す会社も、トラブルを抱えたうえでの転職は悪い結果しか生みません。転職する側は、思いつきではなく自分の目的のための転職であると示し、引き継ぎをしっかり行うことが大事でしょう。
人材を獲得したいと考えている側は、開所申請に合わせて3ヶ月前くらいからサービス管理責任者を探し始めるのではなく、長期的な目線で人材を探して、見つけたかたに半年〜1年かけて引き継ぎや思いをもって転職する旨をきちんと職場に伝えてもらうようにお願いする、という配慮が必要です。
時間をかけ、計画的に退職することが正攻法であり、理解ある転職への手順です。そして実際に働いてもらうサービス管理責任者に対するフォロー体制を整え、育てていくことで事業所の健全な経営が図れるでしょう。