発達障害にも種類があり、それらの知識がないと適切な支援が行えません。発達障害を持たれた人に合わせた支援を行うには、それぞれの特性を把握しておく必要があります。この記事では発達障害の種類や正しい支援の仕方などをわかりやすく説明しています。
発達障害について
(1)発達障害とは?
生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることもあります。
発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を活かしやすくなったり、日常生活の困難を軽減させたりすることができます。
(2)発達障害の原因
先天的に脳の一部の機能に障害があることが原因とされます。しかし、発達障害を引き起こす要因やメカニズムなどは、はっきりとは解明されていません。そのため、原因不明と扱われるケースがほとんどです。
一部の特性においては、胎児期の風疹感染などの感染症や遺伝子の異常などが影響するといわれています。
(3)発達障害の種類
- 自閉スペクトラム症(ASD)
コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りを用いての相互的なやりとりや、自分の気持ちの伝達、相手の気持ちの読み取りが苦手です。また、特定の物事に強い関心をもったり、こだわりが強かったりします。感覚の過敏さを持ち合わせていることもあります。ASDでは、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患をもっているといわれています。特に知的障害が多く、そのほか、注意欠如・多動症(ADHD)や、発達性協調運動症(DCD)、不安症、抑うつ障害、学習障害(LD)が併存します。
- 注意欠如・多動症(ADHD)
発達年齢と比較して、落ち着きがない、待てない(多動性・衝動性)、注意力が持続しにくい、作業ミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性・衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。また、ADHDもさまざまな精神疾患が併存します。
- 学習障害(LD)
全般的な知的発達には問題はなく、読む、書く、計算するなど特定の学習にのみ困難が認められる状態をいいます。 - 発達性強調運動障害(DCD)
人並み外れて不器用だったり、極端に運動が苦手だったりする場合は発達性協調運動障害(DCD)の可能性があります。DCDは、身体機能に問題がないにも関わらず、協調運動に困難さが見られる障害です。たとえば、箸やはさみを使う、ひもを結ぶなど、指先をつかう作業が苦手なことや、縄跳びが飛べない、階段の昇り降りがぎこちないなど、身体を動かすのが苦手なことが挙げられます。
(4)治療や支援について
- 自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症を治癒する薬はありません。睡眠や行動の問題が著しい場合や、てんかんや精神的な不調に対して、薬物療法を併用することがあります。精神的不調が現れる前にストレス要因や生活上での変化を確認し、環境調整を試みることが大切です。幼児期に、個別または小さな集団での療育を受けることで、対人スキルの発達を促進させ、適応力を伸ばすことが期待されます。視覚的な手がかりを使ったり、見通しを立てやすく提示したりすることで、安心して過ごしやすくなり、情緒的にも安定してきます。
幼児期から成人期を通して、身近にいる親や配偶者が本人の特性を理解していることがとても重要です。また、職場の同僚などの理解も大切です。
- 注意欠如・多動症(ADHD)
幼児期・学童期には環境を整え課題に集中しやすいようにする、褒め方を工夫するなどの方法で、伸ばしたい行動を増やすのが基本です。環境調整を行っても日常生活での困難が持続する場合には薬物療法を併用します。薬物療法は、症状を緩和することはあっても根本的な治療手段ではないので、効果と副作用のバランスに注意しながら選択します。精神的不調を伴っている場合には、その治療も併せて実施されます。
- 学習障害(LD)
学習障害の子どもに対しては、教育的な支援が重要になります。読むことが困難な場合は大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読んだり、文章を分けて書いたり、文節ごとに分けたりすることも有用です。また、音声教材を利用することも効果的です。書くことが困難な場合は大きなマス目のノートを使ったり、ICT機器を活用したりすることも可能です。計算が困難な場合は絵を使って視覚化するなどのそれぞれに応じた工夫が必要になります。
学習障害は、気づかれにくい障害です。子どもが抱える困難を的確に把握し、子どもの怠慢さを理由にせず、適切な支援の方法について情報を共有することが大事です。
- 発達性強調運動障害(DCD)
運動が極端に苦手であるDCDに関しては、作業療法士など専門家からのアセスメントに基づく支援を受けながら、運動の成功体験を生み、身体を動かすことを楽しむ機会を作ることが重要です。指先を使う作業が苦手な場合は、ユニバーサルデザインの便利グッズを積極的に活用して作業がスムーズに進めるように配慮することも大切です。
発達障害の就労について
(1)発達障害者の方が抱える就労の悩み
障害に種類によって悩みはさまざまです。ここでは種類別に簡単にまとめました。
- 自閉症スペクトラム障害(ASD)の場合
・対人コミュニケーションが苦手
・場の空気感、社会的通念を感じ取ることが苦手
・こだわりが強いそのため、職場の仲間や取引先との関係性構築やコミュニケーションに苦戦する場合や、臨機応変な対応が難しく、仕事がうまくいかないことがあります。
- 注意欠如・多動性障害(ADHD)の場合
・注意力を保つのが苦手
・ずっとそわそわしている
・衝動性が強いそのため、ケアレスミスが多かったり、複数の仕事を同時に進めることが苦手だったり、思ったままに発言したりすることがあります。
- 学習障害(LD)の場合
・フォントによっては読みにくい文字がある
・認識できない漢字がある
学習障害(LD)とは、行動の特性ではなく、学習に関する能力が欠けている状態です。
(2)障害福祉サービス事業者側としてできること
障害の種類によって不得意分野はさまざまです。その中で事業者側ができることをまとめました。
- 利用者の特性にあった仕事を提示する
自閉症スペクトラム障害の方は、チームプレーやコミュニケーション、柔軟な対応が求められる仕事が苦手です。また、ADHDの方は注意力が散漫になるため、チームプレーやマルチタスクが難しくなります。しかし、個人の技術力・スキル・作業が大切な仕事では力を発揮します。利用者の症状を理解し、それに合った仕事を割り振ることが重要です。
- スケジュールやタスクを常に可視化する
見通しが立たないことによって生まれる不安が多いのも発達障害の特性のひとつです。タスクが可視化されれば、目の前の作業に集中でき、会議中の意見をボードに書き出せば、議論に集中することができます。
また、厚生労働省によると、作業療法士の配置のある就労移行支援事業所では、作業療法士の配置のない事業所に比べて就労が継続している利用者が約2倍増加しているという調査結果がでています。利用者の精神的側面に理解があり、加えて身体的介入のサポートも行えるため、作業療法士の存在は必要性が高まります。
少数派の認知特性を持つ発達障害者は、社会で失敗しやすく、叱責や否定的評価を受けやすく、ストレスになるため、周囲から理解されにくい場合が多くあります。また、独特な感覚や考えを、それに伴う苦労を共有する仲間が少ないため、心や体の不調を抱えやすい傾向にあるのです。
うつなどの精神疾患として事業所に来た場合でも、発達障害がその根本に隠れている場合があるため、事業所は注意する必要があります。
おわりに
ここまで発達障害の概要と事業所でサポートできることについて見てきました。就労支援をする上で作業療法士の存在は必要だということが分かりました。この情報を参考に、発達障害を持つ方に適切な支援を行いましょう。