日本では17人に1人は発症すると言われている「うつ病」は、他の精神障害に比べて高く、離職率も高くなっています。うつ病や就労定着支援を正しく理解することで、適切な支援を行えます。この記事ではうつ病や就労定着支援について解説しています。
うつ病とは
うつ病とは?
うつ病とは、一日中気分が落ち込んでいる、ものの考え方が否定的になるなどの「精神症状」と、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの「身体症状」が現れる気分障害の一つです。
気分障害には、うつ病と双極性障害の2つがあります。双極性障害とは、うつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です。なお、うつ病と双極性障害は治療方法が異なるので専門家による判断が必要です。
うつ病発症の原因
発症の原因は人によってはさまざまです。
精神的ストレスや身体的ストレスなどの辛い体験や悲しい出来事のみならず、結婚や進学、就職、引越しなどの嬉しい出来事の後にも発症することがあります。また、体の病気や内科治療薬が原因になる場合もあります。
うつ病の症状
- 精神症状
・気分が落ち込む
・自分を責めてばかりいる
・落ち着きがない
・考え方が否定的になる - 身体症状
・食欲がない
・性欲がない
・眠れない、過度に寝てしまう
・体がだるい、疲れやすい
・頭痛や肩こり
・動悸
・胃の不快感、便秘や下痢
・めまい
・口が渇く
治療方法
うつ病の治療方法は主に4つにわかれます。
①休養
心身の休養がしっかりとれる環境を作ります。場合によっては、入院環境へ身をゆだねることで大きく症状が軽減することもあります。精神ストレスや身体ストレスから離れた環境で過ごすことは、その後の再発予防にもつながります。
②薬物療法
治療には抗うつ薬を用います。抗うつ薬にはバランスの崩れた脳内伝達物質の働きを回復させる効果があります。
抗うつ薬は継続して服用する必要があり、服用を開始してもすぐに効果は表れません。効果が表れるには2〜4週間かかります。また、うつ病では身体の症状も現れるので、その症状に応じた治療薬を併用することもあります。
③精神療法
精神療法には、支持的精神療法と専門的治療法があります。
支持的精神療法とは、患者の病気に対する不安をできるだけ取り除くカウンセリングです。支持的精神療法を治療のベースにすることで、うつ病の治療に不可欠な医師と患者との信頼関係が生まれやすくなります。
専門的治療法とは認知行動療法や対人関係療法などです。
④高照度光療法
太陽光やそれと同等の光をあたえることにより体内時計を調節して生体リズムを整え、睡眠障害などを緩和する治療法です。
このほかにも、全身麻酔薬と筋弛緩薬を使用して身体的苦痛やけいれんを緩和する「修正型電気けいれん療法」、繰り返し頭蓋から磁気で刺激を送ることで薬物療法の効きにくいうつ病に対処する「経頭蓋磁気刺激法」などがあります。
精神障害者の就労について
精神障害者の就業状況について解説します。
以下は、障害者の就業状況等に関する調査研究の『障害別にみた職場定着率の推移と構成割合』に記載されている職場定着率のデータです。2015年から2年間の調査結果です。
- 就職後3か月時点の定着率
身体障害(77.8%)知的障害(85.3%)精神障害(69.9%)発達障害(84.7%) - 就職後1年時点の定着率
身体障害(60.8%)知的障害(68.0%)精神障害(49.3%)発達障害(71.5%) - 就職後3か月と1年時点の差
身体障害(17%)知的障害(0%)精神障害(20.6%)発達障害(13.2%)
この結果から、精神障害者の定着率は他の3つと比べて最も低いことがわかります。
就労定着支援について
精神障害をはじめ、障害を抱えた人が仕事を続けられる割合は高いとはいえません。そこで必要になるのが就労後の定着支援です。この章では就労定着支援事業所の開設方法を解説します。
就労定着支援とは
就労定着支援とは、一般企業に就職した利用者が長く働き続けられるようフォローアップする事業です。
利用者は、一般企業等に就職して6カ月以上経過した障害者(知的、精神、身体等)です。
主な利用者のニーズは以下の通りです。
- 就労移行支援における就職後6カ月間のサポート期間が完了したものの、引き続きサポートをしてほしい
- 就職したが職場の人間関係がうまくいかない
- 職場の障害に対する理解が低く、うまく仕事ができない
これらの課題についてスタッフが面談等をとおしてフォローアップを行います。
事業所開設のポイント
事業所を開設するためには人員配置や設備基準など一定の要件を満たす必要があります。
人員配置
サービス管理責任者(利用者の支援に関する総責任者)
60人:1人
就労定着支援員(利用者が職場に定着するために必要な仕事や生活相談を行う者)
40人:1人
(常勤換算)
設備基準
事業を始めるために必要な広さの区画を有するとともに、必要な設備及び備品を備えなければいけません。
就労移行支援事業所等と一体的に運営する場合には、就労移行支援事業所等における事務室、受付や相談のためのスペース、設備及び備品等の兼用が可能です。
事務室、区画、設備及び備品は貸与を受けているものであっても問題ありません。
- 事務室
専用の事務室を設けることが求められていますが、仕切りなどにより他の事業と明確に区分できれば他の事業と同一の事務室でも問題ないとされています。 - 受付スペース
相談や会議等に対応するためのスペースが確保できる広さとし、利用者が使用しやすい構造であることが求められます。
基本報酬(利用者数20人以下の場合)
就労定着率※ | 基本報酬 |
90%以上 | 3,215単位/月 |
80%以上90%未満 | 2,652単位/月 |
70%以上80%未満 | 2130単位/月 |
50%以上70%未満 | 1,607単位/月 |
30%以上50%未満 | 1,366単位/月 |
10%以上30%未満 | 1,206単位/月 |
10%未満 | 1,045単位/月 |
※就労定着率とは、就職後、一定期間どれくらいの割合で継続的に働くことが出来ているかの割合です。
主な加算
- 職場適応援助養成研修修了者配置体制加算
職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修を修了した者を就労定着支援員として配置している場合(120単位/月) - 特別地域加算
中山間地域等の居住する利用者に支援した場合(240単位/月) - 初期加算
一体的に運営する移行支援事業所等以外の事業所から利用者を受け入れた場合
(900単位/月。1回限り) - 企業連携等調整特別加算
支援開始1年以内の利用者に対する評価 (240単位/月) - 就労定着実績体制加算
就労定着支援利用終了者のうち、雇用された事業所に3年6月以上6年6月未満の期間継続して就労している者の割合が7割以上の事業所を評価する(300単位/月)
おわりに
今回は、うつ病の概要と、精神障害など障害を抱えた方の就労定着支援をする事業所の開業方法を解説しました。
障害者を対象とする事業所はほかにも、就労移行支援や相談支援移行などがあります。利用者にどのようなサービスを提供したいのか考えたうえで選択してみてください。