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就労継続支援の加算? 支援体制の将来図からはじめよう(後編)

就労継続支援事業にいくつもある加算。これらの加算を取るうえで必要なのは各事業所の将来像を考えることです。2回にわけて加算と経営の方向性を紹介する記事の後編では、「ピアサポート実施加算」と「在宅時生活支援サービス加算」について解説します。

就労継続支援の加算? 支援体制の将来図からはじめよう(前編)

ピアサポート実施加算の支援効果

令和3年度の報酬改定で、就労継続支援B型事業所に新たにピアサポート実施加算が組み込まれました。ピアサポートとは、自身も障害のあるかたが、専門家としてのサポートではなく仲間(当事者)として利用者を支援する制度です。

意味のある制度の反面、課題も多く見受けられます。今後解決していくべき問題や事業所がピアサポーターを導入するうえでのポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。

ピアサポート実施加算の要件

ピアサポート実施加算は、利用者に対して就労や生産活動における当該障害者等である従業者の経験に基づいて相談支援援助を行った場合に、当該相談援助を受けた利用者の数に応じ加算されます。

≪ピアサポート実施加算【新設】≫ 100単位/月

「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系において、各利用者に対し、一定の支援体制(※)のもと、就労や生産活動等への参加等に係るピアサポートを実施した場合に、当該支援を受けた利用者の数に応じ、各月単位で所定単位数を加算する。
※地域生活支援事業として行われる「障害者ピアサポート研修(基礎研修 及び専門研修)」を修了した障害者(障害者であったと都道府県、指定都市又は中核市が認める者を含む。)と管理者等を配置し、これらの者により各事業所の従業員に対し、障害者に対する配慮等に関する研修が年1回以上行われていること。
*令和6年3月31日までの間は、都道府県、指定都市又は中核市が上記研修に準ずると認める研修でも可とするなどの経過措置を設ける。

引用:厚生労働省「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」より抜粋

文言からわかるように、ピアサポーターは障害のあるかたか障害者であった人です。仕事の仕方やフォローというより、主に精神面への働きかけが仕事です。専門家でも一般の職員でもない、実体験のある当事者が話す内容には利用者が共感できる部分が多いという大きなメリットがあります。

ですが、ピアサポート実施加算を取っている事業所は少なく、当初の予想より活用されていない印象です。理由はいくつか考えられます。

ピアサポートの導入が少ない3つの理由

1.体調管理の難しさ

ピアサポーターはがんなど医療分野ではよく聞きますが、障害福祉の分野で活躍するには配慮が必要な部分があるかもしれません。

一応、ピアサポーターになるために研修を受け、健康を維持し自立しながら利用者をサポートできる状態であるという位置づけではあるものの、ピアサポーターは自身も障害者であるか以前は障害を持っていたかたです。

事業所利用者の相談はシビアな内容も多く、一般の職員もスキルを活用して対応することが多々あるため、その役割を、自身も苦しい経験を持っているピアサポーターが健康をキープしながら担っていくには、特有の難しさがあるのではないかと推測されます。

せっかく利用者のサポートができる健康状態だったのにもかかわらず、相談に応じるなかで苦しさが出て再発してしまう。障害特性にはよるものの、ピアサポートの仕事に加えて意識的な体調管理も必要かと思われます。

とても踏み込んだことをいうと、身体障害のかたでないと利用者の相談を受ける立場で働くのは難しい部分があるかもしれません。

2.事業所の管理体制

事業所側にもピアサポーターに対する扱いへの難しさがあります。ピアサポーターは利用者の相談に対応するのが仕事ではあるものの、事業所が考える必要があるのは、ピアサポーターをフォローする体制も作らないといけない、ということです。

たとえば利用者の相談に乗るときに専門的な知識の必要性を感じる場合が多々あります。ピアサポーターのかたがうまく答えられなかったり、間違ったことを伝えてしまったりする場合はフォローも必要です。

ピアサポーターは本人も困難さと共に生きているかたがたです。本人に全てを任せるのではなく、ピアサポーターをサポートする人や体制、役割を明確にする必要があるでしょう。

3.情報不足

ピアサポートについての情報はまだまだ少なく、ピアサポーターの受け入れについて、他の事業所はどうしているのか各事業所が様子をうかがっている状態だと思います。

就労継続支援B型の運営にあたり収益はやはり重きを置くポイントです。費用対効果をしっかり考え、ピアサポーターのメリットだけでなく、デメリットやマイナスに働く部分も検討する必要があります。

ピアサポート実施加算は月に100単位と決して多くありません。経営者は加算額とピアサポーターへの給料のバランスを考える必要があるため、フルタイム雇用ではないのかもしれません。

もしかしたら定期的に、あるいはピンポイントで来てもらう手法かもしれません。ただやはり、実際にどのように活躍してもらっているのかの情報が乏しい状態です。

ピアサポート受入の3つのポイント

ピアサポーターは「相談援助」の場合に加算の算定が可能という決まりがあり、基本的には悩みを聞くだけでも加算が取れる仕組みです。とはいえ、障害者が抱える障害は十人十色で個性があります。ピアサポーターと同じような方法でうまくいくかというと必ずしもそうではないでしょう。

また、ただ受け入れるだけでなく体調管理や事業所のバックアップ体制などの課題もあります。ピアサポーターに「私はこれでうまくいきました」などの実体験の提供以上の活躍をしてもらうためには、いくつか注意点があります。

1.相談内容を整える

一口に相談といっても仕事だけではなく心の相談や家庭の事情など個人のプロフィールに関わる話も多くあります。専門性の高い相談や、負荷の高い相談もあるため、全ての相談をピアサポーターに任せるのではなく、相談内容を分ける・範囲を決めることが大切です。

たとえば何かの作業に特化している人が、その作業についての相談に答える方法があります。流動的な内容ではなく袋詰のルールのように決まった作業への相談であれば更に現実的です。

事業所内で事前にどのような内容を相談対象にするのかを決め、ピアサポーターや利用者の承諾を得てからサービスを開始するという段取りがあれば、全ての相談を受けることで生じる不利益が減り、利用者、事業所、ピアサポーターにとって好循環が生まれるかもしれません。

2.ピアサポーターと利用者の相性を見極める

先ほど身体障害のかたでないと利用者の相談を受けるには難しい部分があると述べましたが、サポートの仕方によってはスムーズにいく場合もあります。

たとえばある事業所では、精神障害を持ったかたが知的障害の利用者のサポートをしています。事業所の職員がカリキュラムを組みピアサポーターにできる範囲で手伝ってもらう工夫をしているとはいえ、利用者はピアサポーターを信頼して寄り添い、一緒に励まし合いながら働くとてもよい関係です。

ピアサポート実施加算を活用するさいは、現場の管理者やサービス管理責任者が、目的に添いつつもピアサポーターがどこまでできるかを具体的に提示してあげる必要があるでしょう。

3.「加算があるから入れる」をしない

各事業所が将来的にどういう事業所を目指すのかを考えたとき、ピアサポーターが必要という方向性が見えるのであれば、積極的に加算を取るのはいいでしょう。ですが、支援の形や事業所のありかたが定まっていないにもかかわらず、加算があるから無理やり受け入れてしまうと、色々なところでひずみが生じます。

一貫しているのは、自分たちの事業所は何に特化してどのような支援を目指すのかによって加算の有無が決まるということです。それにより、ピアサポート実施加算が影響する職員配置などの体制のありかたがわかってきます。

たとえばB型の概要に戻って、生産活動・そのほかの活動の機会の提供に必要なピアサポーターを置いたり、就労に必要な知識や能力の向上に紐づけたりする方法があります。

いずれにせよ、就労継続支援事業所は本来の目的を忘れてはいけません。あくまでも就労に必要な知識や能力の向上に必要な訓練、支援を行う場所であるというのが国が定めたルールであるため、その指針に沿って加算を活用していく。加算は基本的に、本来の目的に結びついているのではないかと思います。

ピアサポートの今後

ピアサポート実施加算は今年度に新設されたものの、どの事業所もほかの事業所の様子を伺っている状況です。

本来であれば、ピアサポーターをサポートする体制も同時並行で設計しておかないとどこかで破綻すると思います。「ピアサポート実施加算ができたから」とただ導入しても本当には進まないでしょう。ですが現状、ピアサポーターのフォローはほとんど進んでいません。

ピアサポーターを増やしていくのであれば、ピアサポーターのサポート体制にも力を入れている事業所には加算を手厚くするという利点がないと、今の状態ではピアサポーターを全ての事業所が積極的に入れるほどのメリットは感じません。

実は国も、今後どうしたほうがいいのかを試しながら模索している状態なのかもしれません。行政も知りたいのだと思います。1年間様子を見たのち、ピアサポート実施加算がどうだったのか検証がなされるかもしれません。配置することのメリット・デメリットの議論が今後始まるのではないでしょうか。

「在宅時生活支援サービス加算」

将来的に変更があるかもしれないという点で動向が気になるのが「在宅時生活支援サービス加算」です。在宅時生活支援サービス加算とは、就労継続支援や就労移行支援を利用しているかたのうち、やむを得ない事情で通所できない利用者にたいして在宅での支援を行った場合に得られる加算です。

加算ができた背景と条件緩和がもたらした副次効果

この加算は、山奥や通所が難しい場所に住んでいるかたや、医療器具を付けていて通所のたびに機械ごと移動しなければならない重篤者のような、通所したくてもできない事情がある利用者向けに作られました。

しかし新型コロナウイルスの影響もあり在宅での仕事が普及した今の時代において、特別ではなくなった在宅ワークへの加算の取り扱いが今後どうなっていくのか注意が必要です。

また、感染症に伴う条件緩和で思わぬ副次効果もありました。新型コロナウイルスによって在宅で働ける利用者の条件が緩和されたため、実際に在宅ワークの範囲を広げてみたところ、精神疾患を持ったかたの在宅利用が増えたのです。

在宅という状態であれば外部との関わりを保てるかたが少なからずいる。規制緩和によってその事実が浮き彫りとなりました。実際、物理的に通所ができるかたたちを含んだ、在宅メインで作業を行っている事業所もあります。

在宅時生活支援サービス加算のこれからの議論

では、肉体的には可能でも精神的に通えないかたの加算に対する取り扱いはどうなるのでしょう。今までのように重篤なかただけに特化した加算にするのか、それとも精神疾患を抱えたかたも対象にするのでしょうか。

新型コロナウイルスにより例外的に認められている在宅ワークは、新しい働き方として社会に浸透してきたので、今後はどう適切に運用していくか具体的になる可能性があります。しかしながら、自治体は事業所に対し通所と在宅ワークを使い分けて感染症の拡大を減らす方法も有効としています。

行政自体もリモートワークをする機会があるにもかかわらず、障害者だけ在宅ワークができないとなると疑問符が付きます。同じ扱いにするべきでしょうし、現時点で「障害者は例外的に認めない」とは言えないでしょう。

とはいえ、送迎や支援の準備などでコストがかかる山奥や重篤者のようなかたと、物理的には通所でき、オンラインにもあまりコストがかからずに対応ができるかたを同一の加算にしては矛盾が出るのではないかと感じます。

たとえば重度のかたよりはグラデーションを下げるものの、ある程度の加算を与えるなどの改定はあるかもしれません。段階的な加算にしていかないとひずみが生じるのではないでしょうか。

事業所のある市町村の今後の動向に注視する

在宅についての課題はこれから国が議論し新たな制度設計を作ると思います。ですが、福祉の財政はどんどん市町村に移行していて、地方の自治権が強まり、市町村が独自に考え実行に移していい部分もあります。

加算についても、市町村がその加算が必要だと判断した場合に進めるというように、完全なトップダウンではありません。その一環で、在宅ワークに関し、加算は出ないものの複雑な申請がなくても在宅利用が可能と判断した自治体もあります。

在宅支援の加算が世間一般の実情に応じてどう変化していくのか、また事業所のある市町村が国の制度設計を踏まえてどの方向に舵を切るのか。在宅時生活支援サービス加算は、事業所がとても注意深く見守るべき加算だと思います。

おわりに

ピアサポート実施加算や在宅時生活支援サービス加算、そして記事の前編でお伝えした各加算の必要性と将来像は、A型・B型事業所に国が求めている根本の目的に立ち返ると見えてきます。

就労継続支援の目的である「生産活動の機会の提供」「就労に必要な能力向上のための訓練場であること」そして「その他の必要な支援の提供」を考え、それぞれの事業所が特化するべきポイントに合う加算を取る。

そうすれば、事業所を運営するにあたり「加算があるからただ取る」という状態にはならず、個々の事業所や地域の事情に即した加算が得られる経営につながるでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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