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(写真=アペロヒューレ)

この記事を書いている私は鹿児島県にある就労継続支援B型事業所「ひふみよベース紫原」の利用者で、ウェブメディア「はたらくBASE」のライターとして全国各地の就労継続支援事業所にオンラインで取材をしています。

取材を始めるようになって1年。インターネットでユニークな取り組みをしている事業所を見つけると、「管理者の方はどんな思いでこの事業所を始めたのだろう?」「利用者の方たちは毎日どんなことを感じながらお仕事をしているんだろう?」とさまざまな興味が湧いてくるようになりました。

先日、興味を持ったのは愛知県名古屋市にある就労継続支援B型事業所「アペロヒューレ」。植物や昆虫を販売している事業所で、ホームページからは事業所が運営する店舗にさまざまな観葉植物が置かれ、連日多くのお客さんでにぎわっている様子がうかがえます。

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(写真=アペロヒューレ)

その情報を見た私は、おしゃれな雰囲気の店舗に心惹かれると同時に「なぜ、植物と昆虫だったんだろう?」と興味津々。早速、取材を申し込みました。

目次

  1. 保護者からの相談が事業所開設のヒントに!
  2. 開設5年で利用者60人以上の事業所に成長
  3. 県内の最低賃金以上の工賃を実現
  4. 利用者の頑張りをたたえる表彰式
  5. 今春、新事業所を続々オープン
  6. インタビューを終えて

保護者からの相談が事業所開設のヒントに!

今回、取材に応じてくださったのは、就労継続支援B型事業所「アペロヒューレ」でマネージャーを務める柴田晃誠さん(39歳)。

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マネージャーの柴田晃誠さん(写真=アペロヒューレ)

3年前までは車両に搭載するバッテリーの輸入販売会社に勤務。福祉とは全く無縁の世界で働いていましたが、「アペロヒューレ」を運営する一般社団法人「日本福祉協議機構」の代表理事である濵野剣さんに誘われ、障害者福祉の世界に飛び込みました。

「これまで仕事でアメリカやヨーロッパ、アジアなど世界各国に行く機会が多かったのですが、そのたびに『海外では障がいのある人と接する機会が多いのに、日本は障がいのある人たちとの交流が少ないのはなぜだろう?』と疑問を感じていたんです。

そんな時、アペロヒューレの話を聞き、他の事業所とは違った展開をしていて面白いなと思ったのと同時に、一般企業にいた自分の経験が障がいのある方たちの役に少しでも立てば…と転職を決意しました」

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(写真=アペロヒューレ)

アペロヒューレを運営する一般社団法人「日本福祉協議機構」は2009年に設立。デイサービスやショートステイ、居宅介護支援事業などを幅広く手掛ける中、2014年に放課後等デイサービス事業を開始したことが就労継続支援事業を始めるきっかけになった、と柴田さんは振り返ります。

「放課後デイサービスに通所している児童の保護者の方々から『将来、子どもたちの働く場所があるか心配なんです』という相談を受けることが多かったんですね。子どもさんの将来を心配する親御さんたちに少しでも未来に希望を持ってもらいたい。その思いが就労継続支援事業所の立ち上げにつながりました」

事業内容を植物や昆虫の販売にしたのも、放課後デイサービスに通う子どもたちからのヒントだったそう。

「植物や昆虫が好きな子どもって多いんですよね。興味のあることだと作業も楽しくなりますし、自然相手の作業なら利用者の皆さんの心も落ち着くのでは…と思い、2017年に世界の植物と昆虫のお店をメインにした事業所を開設しました」

 
(写真=アペロヒューレ)

開設5年で利用者60人以上の事業所に成長

2022年4月現在、60人以上の利用者が登録している就労継続支援B型事業所「アペロヒューレ」。

店舗で販売する植物の栽培と昆虫の飼育が中心ですが、各方面から委託を受け、施設外就労として街路樹や植物の水やり、ビニールハウスの管理、農場管理なども行っています。

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(写真=アペロヒューレ)

「基本的には利用者さんがやってみたいと思った仕事をやれるよう、工夫しています。店内に掲示するポップのデザインや販売棚も利用者さんと職員が一緒に手作りしていますし、オンラインショップの商品の管理も利用者さんに任せています」

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(写真=アペロヒューレ)

県内の最低賃金以上の工賃を実現

アペロヒューレが目指すのは「障がいの有無にかかわらず、誰もが多様性を認めて生きられる社会」。そのポリシーを貫くためにこだわっているのが、県内の最低賃金を下回らない工賃です。

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(画像=日本福祉協議機構のホームページ)

愛知県の最低賃金は1時間あたり955円ですが、アペロヒューレの工賃は960円(2022年4月現在)。

月額で見ると、令和2年度の全国の就労継続支援B型事業所の平均賃金が月額15,776円に対し、アペロヒューレは月額平均5万円以上と高い工賃を維持しています。

「全国の就労継続支援B型事業所の令和2年度の平均賃金は時給に換算すると222円。これでは障がい者が自立したくても自立できません。そんな中、私たちの思いとしては障がいのある方たちがしっかり稼げる体制を作っていこうということで、開設当初から『利用者さんには最低賃金以上の工賃を支払う』という目標を立てて取り組み、4年連続で目標を達成しています」

もちろん、県内の最低賃金を上回る工賃を維持し続けるのは並大抵のことではありません。

「工賃アップのためには商品のクオリティーを高め、単価の高い商品づくりが大切ですが、利用者の方たちの仕事のレベルには違いがありますし、商品のクオリティーへのこだわりも利用者と職員で違うので、難しいことが多々あります。でも、お互いをたたえ合いながら仕事をし、事業所内で使う棚などもできるだけ自分たちで作るようにしてコストを抑えながら、みんなで最低賃金を上回る工賃を維持できるよう、頑張っています」

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(写真=アペロヒューレ)

利用者の頑張りをたたえる表彰式

アペロヒューレで毎年年末に行っているのは、忘年会での表彰式。一年間頑張った利用者をたたえる場になっています。

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(写真=アペロヒューレ)

昨年は一部の利用者だけでなく、63人の利用者全員を表彰することにし、それぞれにぴったりの賞を職員全員で考えたそう。

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(写真=アペロヒューレ)

「利用者さん一人一人の賞を考える中で、それぞれの頑張りを職員全員で振り返ることができ、とてもいい機会になりました。利用者さんの頑張りに目を向け、感謝の気持ちを伝えられる場が年1回でなく、もっとあってもいいのかなと思っています」

今春、新事業所を続々オープン

一般企業から福祉の世界に飛び込んで3年。「利用者も職員も互いに楽しみながら成長できる環境づくりが大切だと気づいた」と話す柴田さんに、新しく就労支援事業所の開設を考えている人へのアドバイスを教えてもらいました。

「必ずしも、私たちのように最低賃金をクリアした工賃にこだわる必要はないと思いますが、就労継続支援事業所を運営する以上、工賃アップは重要課題です。一つの事業所だけで工賃アップが難しい場合は他の事業所や企業、大学とも連携を図ることで工賃アップを目指せると思いますので取り組んでほしいと思います。

もちろん、最低賃金だけに目を向けていたら、本来の目的や支援が何だったのか分からなくなりますから、最初にどういった福祉を目指していくのか、考えることが重要ではないでしょうか」

そして、常に新たな可能性を模索して挑戦を続ける一般社団法人「日本福祉協議機構」では今春、新たに3つの就労継続支援事業所をオープン。eスポーツカフェ、グラノーラ専門店、ジビエレストランとそれぞれ異なる事業に取り組むとあって、各方面から注目されています。

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ジビエレストランの厨房での様子(写真=日本福祉協議機構)

「障がいのある方がもっと自由に職業選択できるようにアペロヒューレ以外の事業所も作っていこう、ということになったんですが、ジビエレストランを始めるきっかけになったのは、農家さんたちが害獣被害で困っていると聞いたからなんです。

実は愛知県豊田市足助町の山奥では農家の後継者不足が続き、放置された畑を食い荒らす野生のイノシシや鹿が増えて害獣被害が深刻なんだそうです。そこで害獣対策で処分したイノシシや鹿の肉を使ってジビエレストランの就労継続支援事業所を始めることで、農家さんの困りごとを解決でき、障がい者の方たちの職業選択もさらに広がるのではないかと考えました」

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ジビエレストランで提供される料理の一例(写真=日本福祉協議機構)

地域の課題に基づいて就労継続支援事業所の事業内容を生み出し、「次世代型就労支援」を目指す日本福祉協議機構。

スピード感のある挑戦は、就労継続支援事業所の新たな可能性を見いだすことにつながりそうです。  

インタビューを終えて

アペロヒューレでは、利用者の方々の得意分野を生かして新しい仕事が次々に生まれ、できることは利用者さんにどんどん任せていると聞き、利用者とスタッフの方との強い「信頼関係」を感じました。

それはきっと、健常者も障がい者も分け隔てのない社会を目指しているアペロヒューレだからこそ。利用者とスタッフの方が互いに尊重し合い、お互いの得意分野を生かして支え合うことで強い信頼関係が築かれているのだと思います。

与えられた仕事をただこなすのではなく、アペロヒューレのように「好きなことを仕事にでき、仕事の楽しさを見いだせる就労継続支援事業所」。そんな事業所での就労を通して、自分らしい働き方を見つけられる多様な社会になってほしいと思います。