就労継続支援事業所で利用者と面談を行う塚脇新伍さん(写真=はたらくBASE編集部)

「調理師」と聞くと、ほとんどの人が飲食店で働いている姿を思い浮かべると思いますが、医療や福祉の世界でもさまざまな形で活躍できることをご存じでしょうか。

例えば、医療機関や福祉施設では管理栄養士や栄養士が作成した献立に基づき、調理師が患者や利用者に提供する食事づくりに当たります。また最近では、カフェや飲食店を運営する就労継続支援事業所が増えつつあることから飲食業界でキャリアを積んできた調理師のニーズが高まり、飲食店から就労継続支援事業所に転職するケースが増えているのです。

私が勤務する人材紹介・人材派遣会社に相談に訪れ、就労継続支援B型事業所に転職した調理師・塚脇新伍さんもそんな一人でした。

当初、塚脇さんは一般の飲食店では勤務時間や勤務日の希望条件をかなえることができなかったことから、勤務時間がある程度決まっている病院や福祉施設の求人を探していました。

すると、病院、福祉施設、2つの就労継続支援事業所からオファーが入り、仕事内容や労働条件などを総合的に比較検討した結果、飲食店を運営する就労継続支援事業所への転職を決意したのです。

なぜ、塚脇さんは就労継続支援事業所で職業指導員として働く道を選んだのでしょうか。

17年間飲食店で働いた後、転職

そもそも、なぜ転職を考えるようになったのですか?

塚脇さん 私はこれまで飲食店に17年間勤め、管理職として働いていました。給与もそれなりに高く、やりがいを感じながら働いていたのですが、任される仕事も多く、その分労働時間が長くなって家族との時間がとれないのが悩みの種でした。また、子どもの行事ごとは日曜日が多いですが、飲食店は週末が忙しくなるため、なかなか休みが取りづらい状況でした。

そこで家族との時間を確保しながら調理師の資格を生かしてバランスよく働く道があれば、と転職を考えたんです。

就労継続支援事業所で働くことについては不安がありましたか?

塚脇さん それまで福祉の世界とは無縁だったので、インターネットで就労継続支援事業所の情報を調べるところから始めたのですが、正直、最初のうちは「福祉の仕事は大変そう」というイメージがありました。

ところが、実際に働いてみると、利用者の方たちに調理のことを教えることがすごく楽しいし、利用者の支援計画を立てることも先生になったようで楽しかったんです。元々誰かの役に立てる仕事が好きなので、就労継続支援事業所での仕事は自分に合っていると思いました。

勤めている事業所はどんな施設なのか、具体的に教えてください。

塚脇さん スパイスカレー専門店を運営し、同じ施設内には生産工場もあります。利用者は精神障害・身体障害・知的障害のある30代から50代の方9名で、接客・調理・製造などの知識を教えながら一人一人の技能の向上を目指しています。

職員は職業指導員3人と生活支援員1人の4人体制。夜のレストラン営業時に学生アルバイトにも入ってもらうことで、職員とアルバイトで2交代制のシフトを組むことができ、規則正しいスケジュールで働くことができています。

飲食店で働いていた時に比べて、収入面ではどんな変化がありましたか?

塚脇さん 転職後、収入は以前の職場の2/3ほどになりました。でも前職の頃に比べて1カ月の労働時間が60〜70時間減ったので家族だんらんの時間を楽しむことができ、それまで妻に任せっきりだった家事や子育てもできるようになりました。

転職すると誰もが収入面の不安を感じると思いますが、私自身は収入が減ったものの、家族と過ごす時間が増え、仕事のやりがいも感じながら働くことができているので満足しています。

就労継続支援事業所で働く時、心がけていることはありますか?

塚脇さん とにかく利用者の立場になって物事を考えるようにしています。精神障害の方はささいな一言を気にしてしまったり、怒りを覚えたり…と繊細です。コミュニケーションを何よりも大切にしていますが、まずは話す前にしっかりと言葉選びをします。そして常に笑顔で元気よく。前職の飲食店でスタッフへの指導をしていた経験が生きていると感じています。

最後に、就労継続支援事業所での仕事のやりがいを教えてください。

塚脇さん レストラン部門、工場部門を同じ施設内に持つ特殊な事業所なので、活動内容は多岐に渡りますが、調理師時代のスキルや飲食店での経験を最大限生かしながら、利用者の方たちと一緒にお店を作り上げていけることが一番の喜びです。また、福祉の仕事に携わることで社会貢献できれば…という思いもあるので、利用者の方たちの成長を感じるたび、大きなやりがいを感じています。

 
利用者の成長を実感しながら働く塚脇さん(写真=はたらくBASE編集部)

インタビューを終えて

転職して1年余り。塚脇さんは就労支援事業所での仕事は初めてであるにもかかわらず、すでに事業所の中心人物として活躍していました。転職動機だった家族との時間を確保しながら働くことも実現でき、「転職して本当に良かった」と笑顔で話す姿が印象的でした。

全国各地で就労継続支援事業所が増え、カフェや飲食店を事業の柱にする事業所も増えつつある今、飲食店で経験を積んだ調理師のニーズは今後ますます高まることが予想されます。

そうした中、今回の塚脇さんのように「調理師=飲食店」という固定概念にとらわれず、福祉の世界も視野に入れて転職先を探すことで、自分の新たな可能性を見いだす方が増えていくことを願っています。