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(写真=団子茶屋郡上八幡)

こんがりと焦げ目のついたみたらし団子。セットになって出てくるお茶やキラキラと輝いているドリンク。

見る人を惹きつける「何か」があるー。岐阜県郡上市にある「団子茶屋郡上八幡」のインスタを初めて見た時の印象でした。

現在、私は鹿児島市の就労継続支援B型事業所「ひふみよベース紫原」の利用者としてウェブメディア「はたらくBASE」の記事を書いていますが、就労継続支援B型事業所とお団子という組み合わせに興味を持ち、取材することにしました。

目次

  1. 40代で福祉の世界に飛び込んで感じた「違和感」
  2. 月6万円の工賃を目指し、団子茶屋をオープン
  3. 手探りの毎日を経て人気カフェへ
  4. 「障害を言い訳にしない」がモットー
  5. コロナ禍でも工賃向上を目指す
  6. 福祉関係者に求められる「覚悟」
  7. インタビュー取材を終えて

40代で福祉の世界に飛び込んで感じた「違和感」

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「ぶなの木福祉会」理事 大坪隆成さん(写真=団子茶屋郡上八幡)

今回、取材を快く引き受けてくれたのは、社会福祉法人「ぶなの木福祉会」の理事であり、就労継続支援B型事業所「団子茶屋郡上八幡」で管理者を務める大坪隆成さん(50歳)。

専門学校を卒業後、22年間病院でケースワーカーとして働いていましたが、45歳の時、「ぶなの木福祉会」に転職しました。

「ケースワーカーとして働く中、退院後、重度の障がい者の方たちの居場所がないことがずっと気になっていたんです。どうにかして彼らの居場所を作れないだろうか。そう考えていた矢先、以前から交流のあったぶなの木福祉会の理事長から『一緒に福祉の仕事をしてみない?』と声をかけられ、思い切って福祉の世界に飛び込みました」

ところが、転職し、初めて就労継続支援事業所を見学した時、大坪さんが感じたのは「違和感」でした。

まず感じたのは、利用者が受け取る工賃。

ぶなの木福祉会が運営する就労継続支援B型事業所では、主に農業や食品加工、お菓子製作などの作業をし、利用者には月額2万円を超える工賃を払っていました。

全国の就労継続支援B型事業所の月額工賃の平均は1万円〜2万円といわれる中、決して低い工賃ではありません。それでも、この工賃で「一生懸命働こう」と伝えるのは難しいと感じたのです。

そして、もう一つの違和感はぶなの木福祉会のバザーでのこと。

「利用者が作ったお菓子や商品を販売するんですが、『障がい者が頑張って作ったんだから買ってあげよう』という人が多かったんです。

でもよくよく考えてみると、自分だってそうだったのかもしれないな…と。自分もぶなの木福祉会で働く前、ここの商品を買ったことがあるんですが、商品自体にはそれほど魅力を感じていなくて、障がい者が作った商品を買うことで何か自分がいいことをしているような気分に浸っていたんじゃないか。そのことに気づいたんです」

こうした違和感から、大坪さんは障がい者が仕事内容に見合った工賃を受け取り、働きがいを実感できる就労継続支援事業所を新たに作ろう、と決心しました。

月6万円の工賃を目指し、団子茶屋をオープン

そんな頃、大坪さんが出会ったのが、地元で唯一のお団子屋さん。

店主から「3か月後に店を閉めるので団子を作る機械を一式処分したい」という話を聞き、「障害者でもお団子なら焼けるかもしれない」と思い始めます。

そこで、障害者の就労を支援し、さまざまなサポートプロジェクトを展開する「日本財団」に「地元で長く愛されてきたお団子の味を引き継ぎたいので、団子屋さんを始めたい」と相談。

すると「就労支援事業所がお団子屋さんを始めるなんて面白い。せっかくなら、お団子のカフェをやってみたらどうか」とアドバイスを受け、思い切って古民家を改修してお団子カフェを始めることにしたのです。

「閉店するはずだった団子屋の味、使われていなかった古民家、働けないといわれた障害者。三つの力が組み合わさることで、街の観光資源として役に立つのではないかと考えました」

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(写真=団子茶屋郡上八幡)

こうして、日本財団の障害者の就労支援プロジェクト「はたらくNIPPON!計画」のモデル事業に採択され、2018年11月23日に「団子茶屋郡上八幡」がオープン。

その際、大坪さんは「団子茶屋で働く利用者に月額6万円の工賃を支払う」という目標を立てました。

手探りの毎日を経て人気カフェへ

お店がある郡上八幡は観光地としても有名なエリアで、毎年夏には400年以上の歴史を持つ「郡上踊り」も開催されます。

ところが、お店のオープン時期が閑散期だったこともあり、最初のうちはお客さんが誰も来ない日もしばしば。一日の売り上げが880円だったこともありました。

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(写真=団子茶屋郡上八幡)

「店内の席数は1階と2階合わせて50席程あり、1日3回転したら150席回せると思いましたが、現実はそう甘くはないと実感しました」

翌年、初めて迎えたゴールデンウイークには、大勢のお客さんが訪れたものの、一人のお客さんが注文するのは100円のお団子1〜2本がせいぜい。

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(写真=団子茶屋郡上八幡)

「ゴールデンウイークの最終日に、売上金の小銭が大量に入ったビニール袋を銀行に預けに行った時、『この悔しさは絶対に忘れない。就労継続支援事業所であっても、真剣に飲食業をやらないといけない』と痛感しました。それで、お店のメニュー開発に力を入れようと覚悟を決めたんです」

開店当初は郡上八幡で長年愛されていたみたらし団子を復活させたいという思いから、お団子のみのメニューでしたが、「こういうドリンクはどうかな?」「こんなスイーツはどう?」と利用者と一緒にメニューを考え、付加価値の高いメニューを考案。

さらにインスタなどのSNSの情報発信にも力を入れたことで、お店の人気は徐々に高まり、売り上げも伸びていきました。

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考案されたメニューの一例「温かい秋の栗ラテ」860円 (写真=団子茶屋郡上八幡)

「障害を言い訳にしない」がモットー

現在、5人の利用者と5人の職員が働く団子茶屋。利用者の5人は接客担当、お団子を焼く担当、洗い場、バックヤードとそれぞれの持ち場に分かれ、働いています。

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接客を担当する利用者 (写真=団子茶屋郡上八幡)

お客様相手の仕事のため、細かいミスも起こりますが、ある日、ホール担当の利用者が注文を聞き間違え、お客さんを激怒させてしまう出来事が起きました。

大坪さんが謝罪するものの、お客さんの怒りはなかなか収まりません。

「団子茶屋は就労継続支援事業所が運営していることを表に出していません。お客様の怒りがなかなか収まらないものですから、さすがに『うちは障害者施設なんです』と言いそうになりました。でも、その言葉をぐっと飲み込んだんです」と大坪さん。

「私が『うちは障害者施設なんです』と言ってしまうと、ミスをした利用者のことを否定してしまう気がしたんです。障害があろうがなかろうが、ミスはミスですから。そしてその時、『障害を表に出さない』という言葉を思い出しました。

以前、日本財団の「はたらくNIPPON!計画」で親身に相談に乗ってくださった担当者から『お店をやる以上、障害を表に出さないことが大切』と聞いていたんですが、『障害を表に出さない』ということは、障害者を表に出さないということじゃない。障害を言い訳にすることを慎むということなんだ、と本当の意味で分かった気がしたんです」

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お団子を焼く利用者(写真=団子茶屋郡上八幡)

この出来事以来、利用者一人ひとりにお団子の焼き方や接客方法を改めて教え直し、障害を言い訳にせずに働くことを徹底した団子茶屋。

そうした取り組みが功を奏し、これまで2人の利用者が就労継続支援B型事業所の団子茶屋を巣立ち、一般就労の道を歩んでいます。

コロナ禍でも工賃向上を目指す

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(写真=団子茶屋郡上八幡)

昨年春以降、新型コロナウイルスの感染拡大で来店者が激減し、営業的には厳しい状況が続いています。

緊急事態宣言が出されて先行きが見えない頃、大坪さんは「お店を閉めようと考えている」と働く利用者に伝えたことがありました。

すると「私たちは明日からどうすればいいの?私たちはどこに行けばいいの?」と問いかけられて目が覚めた、と言います。

「ここは利用者にとって働く場所というだけでなく、利用者の居場所として守っていかなきゃいけない場所でもあるんだなと。それで店を一度も閉めず、テイクアウトに力を注いで踏ん張ることにしました」

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たれを煮詰める利用者(写真=団子茶屋郡上八幡)

コロナ禍にもかかわらず、団子茶屋郡上八幡で働く利用者の平均月額工賃は約4万円。

これまで目標に掲げていた工賃月額6万円を何度も達成し、全国の就労継続支援B型事業所の平均工賃に比べ、はるかに高い額を維持しています。

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バッグヤードで働く利用者(写真=団子茶屋郡上八幡)

福祉関係者に求められる「覚悟」

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大坪隆成さん(写真=団子茶屋郡上八幡)

新しい事業所を立ち上げて、まもなく3年。大坪さんは、就労継続支援にどのような可能性を見いだしているのでしょうか。

「僕はよく利用者に『楽なこと、楽しいことの後に嬉しいことがあるんじゃなくて、しんどいこと、頑張ったことの次に嬉しいことがあるんじゃないか』と話しています。

先日、利用者の女性が『もらった工賃で家族に初めて焼き肉をごちそうできた』とクシャクシャになったレシートを大切そうに手に持って報告してくれたんです。そうした一つひとつの出来事が僕にとっても忘れられない思い出になっていて、今は一生懸命働くことの意味を利用者と一緒に問い続けている感じです」

就労継続支援B型事業所で利用者の笑顔を通して感じる喜び。と同時に、就労継続支援B型の存在意義を改めて考えることも増えた、と話します。

「もちろん、居場所としての役割も必要ですが、利用者に就労訓練をしっかりして、仕事内容に見合った工賃を払い、その上で一般就労につなげていかなければ、就労継続支援B型事業所の存在自体が否定されると思うんです。

利用者を事業所に囲い込むのではなく、一般就労に向けてサポートをすることが、私も含めて福祉関係者に求められていること。ですから、ビジネスマンを目指しつつ、ソーシャルワーカーとしての矜持も持ち続けていきたいと思っています」

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(写真=団子茶屋郡上八幡)

インタビュー取材を終えて

当初はおいしそうなお団子に興味を惹かれて団子茶屋郡上八幡に取材をお願いした私でしたが、インタビューするうち、大坪さんが利用者の方たちと対等に向き合い、ともに汗をかきながら働いていらっしゃる姿に、就労継続支援の可能性を感じました。

中でも心に残ったのは「働く上で障害を言い訳にしない」という言葉。

障害があってもできると信じてチャレンジする。実践し、失敗したとしても「障がい者だから」という言葉で片付けず、結果としっかり向き合って次に進む。

そのことがとても大切だと教えてもらいました。今回のインタビュー取材で、今まで障害を理由に諦めていたことにも再度挑戦しよう、と意気込むきっかけにもなりました。

大坪さんの思いがいろいろな人へ伝わり、「就労継続支援事業所の現状を変えたい」と考える人たちが増えてほしいと願っています。