働くチャレンジ

フィルムカメラの通販で福祉業界へ。 SDGsを掲げる「ジョブシエ」

「はたらくチャレンジ」の取材にあたり、これまで全国各地の就労継続支援事業所の経営者の方々にインタビューを行う中、実にさまざまな事業に挑戦している事業所があることを知りました。

今回、注目したのは中古のフィルムカメラを海外に販売している就労継続支援B型事業所「ジョブシエ」。この事業所を開設した青山明弘さん(43歳)に話を伺いました。

新聞販売店が模索の中で始めた中古フィルムカメラ通販

(画像=ジョブシエ)

青山さんの本業は愛知県名古屋市で半世紀以上続く中日新聞の販売店「青山新聞店」。一般企業で営業職として働いた後、2012年に三代目として家業を継ぎました。

新聞販売店の主な収入源は新聞の購読料と折り込みチラシ。ところが、愛知万博が開催された翌年の2006年までは売り上げが好調だったものの、活字離れやスマホの普及に伴い、購読者数が年々減少。折り込みチラシのクライアント数も徐々に減り、販売店が始まって以来の危機に直面します。

さらには折り込みチラシを丁合する機械の性能向上により、パート社員の勤務時間も減少。勤務時間が減って給料が少なくなる中、新聞販売店で働きながら掛け持ちでアルバイトをしているスタッフの話を耳にしました。

「4人いるパートさんの中に子どもが3人いる女性がいるんですが、子どもが大学に行くので学費を稼がないといけない。でも販売店は辞めたくないから、深夜にパン工場で生地をこねる重労働なアルバイトをやってるって言うんです。その話を聞いた時、すごく申し訳ないな…と思って。ウチに仕事がたくさんあれば、わざわざ深夜に働くこともないわけですから」

折り込み作業の様子 (写真=ジョブシエ)

そこで、新たに仕事を生み出すため、青山さんは営業先の開拓を始めます。

「内職作業に始まり、ポスティング会社に営業に行ってチラシの丁合の代行も始めました。でもなかなか定期的な仕事にはつながらないんですよね。そんな時、日本製の中古のフィルムカメラが海外の方にすごく人気だということを知ったんです。

私は元々物販が得意で、販売店独自で仕入れできる商品をネット販売して売り上げを伸ばしていたこともあったので、スタッフと一緒にカメラの出品方法を学び、海外に向けて販売を始めることにしました」

カメラの大量在庫に悩む中、事業所開設へ

(写真=ジョブシエ)

2019年から中古カメラの買い取りと販売を本格的に始めた青山さん。中古のカメラを倉庫で管理している上場企業からも買い取りができるようになり、毎月大量の仕入れが可能になりました。

「大量に仕入れられるようになったのはいいんですが、毎月30kgを4箱とか、とんでもない量のカメラがいっぺんに届くんです。カメラの出品作業は新聞の折り込みチラシの作業後に行うので、今度は出品作業が追いつかなくなったんです」

そんな時、出会ったのが就労継続支援B型事業所を運営している知り合いの経営者でした。

「それだったら、カメラの仕入れから発送まで全部自分のところでやるので納期に追われることもないし、フィルムカメラのネット販売という事業は利益率も高いから利用者さんに工賃をたくさん渡せることになるので、就労継続支援事業所に挑戦してみませんか、とアドバイスを受けたんです」

利用者の作る手作り品も人気に!

就労継続支援B型事業所「ジョブシエ」 (写真=ジョブシエ)

こうして、2021年6月に中古カメラの海外通販を主な事業とする就労継続支援B型事業所「ジョブシエ」を開設。

現在、10人の利用者が通所し、カメラの検品からクリーニング、インターネット用の写真撮影、出品作業、発送や購入者へのメッセージ対応まで、スキルに応じて行っています。

フィルムカメラの検品作業(写真=ジョブシエ)

また、カメラを発送する際、利用者のメンバーが作った折り紙をサンクスカードと一緒に送ったところ、海外の購入者に大好評。

サンクスカードと一緒に同封する折り紙 (写真=ジョブシエ)

注文はヨーロッパや中南米、アフリカの国々など30カ国から入り、開設後すでに300個以上のカメラを発送しています。

「初めての福祉事業所の運営で試行錯誤の連続ですが、利用者さんの頑張りに驚いています。実際には健常者の方に比べるとできないことが多いかもしれないんですが、飛び抜けた才能や個性があるなって感じます。集中力もすごいんですよ。こちらが止めないとずっと出品作業に取り組むことも多いので、ありがたいんですが『休憩しようね』と絶えず伝えています」

SDGs宣言で事業所の魅力を発信

中古カメラの海外通販という異色の事業に加え、ジョブシエでもう一つ特徴的な取り組みがSDGs宣言。「持続可能な開発目標(SDGs)」に賛同し、人権・環境保護・パートナーシップの分野で目標を掲げて積極的に取り組んでいます。

SDGs宣言証 (写真=ジョブシエ)

近年、SDGs宣言をする企業は増えていますが、就労継続支援B型事業所ではあまり見かけません。なぜ、青山さんはSDGs宣言をしようと考えたのでしょうか。

「一番の理由は発信していくためです。例えば大手企業ってブランディングに力を入れているので、企業名を聞いただけで企業のロゴやカラーをパッとイメージできるじゃないですか。中小企業は名前だけ聞いてもイメージが浮かばないことが多いので、中小企業こそブランディングのために発信した方がいいと思うんですが、なかなか発信しないんですよね。

ジョブシエの場合、廃棄されるはずだったカメラをリユースして欲しい人に届けることで地球環境保護に貢献できる仕事だから、ということもありますが、SDGs宣言することで『ウチは持続可能な取り組みをやっていますよ』ということをしっかり発信できますし、利用者の方の中には『SDGs宣言しているところに魅力を感じて来ました』という方もいます」

利用者のために利益率の高い事業を!

就労継続支援B型事業所の運営を始めて間もなく1年。青山さんが強く感じるのは、利用者さんのためになる事業をやっていくことの重要性だと話します。

「以前、他の事業所の方たちと話した時、『障がいを持った人だからこのぐらいの仕事しかできない』と話す方が多いと感じました。でも経営者が利用者の方のレベルをこのぐらいだろう…と決めつける前に、新しい仕事を考えて創るのが経営者の仕事だと思うんです。そして利用者さんの工賃を上げるためにも利益率の高い仕事を考えなければいけないと思います」

本業の青山新聞販売店でも中日新聞の販売店として4年連続で「出版物販売賞」を受賞するほど、物販を得意としてきた青山さん。今後の展望についても「福祉の世界で得意分野を生かしていきたい」と意欲的です。

「物販の分野で仕事の楽しみを伝えられるB型事業所を5年で3カ所作るのが当面の目標です。これからも、市場から廃棄された物から新しい付加価値を創造できる事業を利用者さんと一緒にやっていきたいと思います」

青山さん(左)と職員、利用者の皆さん(写真=ジョブシエ)

インタビューを終えて

「中古のフィルムカメラの買い取りと販売を行う事業所」という珍しさに興味を持ったのがインタビューのきっかけでしたが、新聞販売店の経営者として培った経験を就労継続支援に生かす手腕は素晴らしく、発信にも力を入れながら魅力ある事業所を目指しているところが利用者の方々のジョブシエで働く満足感にもつながっているのだろうな、と感じました。

ジョブシエのように利用者の方々が生き生きと働き、自立に向けて頑張っていける環境がもっと増えれば、と改めて思います。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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