働くチャレンジ

農業で地域とつながる就労支援を。「スマイルベリー」の挑戦

鹿児島県で就労継続支援B型事業所「ひふみよベース紫原」を利用している私が、静岡県で就労継続支援事業所を運営している「特定非営利活動法人 スマイルベリー」を知ったのはSNS。話題の商品に「スマイルベリー」で栽培された植物が使用され、どのようなところなのか興味を持ったのがきっかけでした。

スマイルベリーの事業の根幹は農業。

今回は、代表の豊田郁也さんと一緒に開設当初から運営に携わり、現在も職員として利用者のサポートを行っている妻の豊田由美さんに話をうかがいました。

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豊田由美さん (写真=スマイルベリー)

一般企業の経営を経て就労継続支援事業に参入

「スマイルベリー」の代表・豊田郁也さんは、一般企業を経営する中で約10名の障害者を雇用。その経験を生かし、2010年に浜松市で農業に特化した就労継続支援を行うNPO法人を立ち上げました。

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(写真=スマイルベリー)

2013年には就労継続支援A型B型事業所として多機能型事業所に。2015年には静岡県富士市でも農業に特化した就労継続支援B型事業所を開設し、現在、浜松市と富士市で就労継続支援事業を行っています。

業務受託への挑戦

見て知ってもらうことが最初の一歩

就労継続支援事業所として外部から業務を受託する際、最初の壁となるのが「障害者がどのような作業ができるのか、依頼者側がわからないこと」。

そこでスマイルベリーでは、実際に施設でどんな利用者が働き、どのような仕事ができるのかを包み隠さず見てもらった、と豊田さんは振り返ります。

「まずは実際に作業をするところを見ていただき、問題点があれば改善方法を話し合うなど、安心して依頼できるよう工夫を続けました」

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(写真=スマイルベリー)

行政の業務受託が信頼を得る鍵に!

もちろん、最初からスムーズに業務を受託できたわけではありません。

特に行政からの受託業務に関しては、市の福祉担当者に「障害者優先調達推進法」の観点から業務を平等に受けられるようアプローチ。定期清掃や消防署の花壇の草取り事業など、受託できる業務を少しずつ増やしていったのです。

「行政の仕事は一度評価されると安定した仕事になります。さらに行政の仕事で実績を積むことが、それを評価してくださる一般企業からの新しい仕事にもつながったと思います」

こうして就労継続支援事業所内での農作業や加工作業に加え、外部の業務を幅広く受託できるようになったスマイルベリー。

私は豊田さんの話を聞きながら、利用者のサポートという視点で考えれば難しいと思われる業務もしっかり検討し、簡単には諦めない前向きな姿勢こそが、スマイルベリーの強みなのだと感じました。

利用者の将来を見据えてサポート

社会のマナーを伝える

スマイルベリーでは「社会で生活する上で必要なスキルを身につけること」を柱に利用者のサポートを行っています。

中でも呼びかけているのが、休まないこと。利用者が通院の日でも可能な限り遅刻・早退で対応できるよう呼びかけ、早退する場合は「次の日もがんばって来ようね」と声かけを行っています。

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(写真=スマイルベリー)

施設外の人との挨拶も自立の一歩

また、挨拶も重視。実際にスマイルベリーの利用者が施設外で草取り作業などをしていると、「ありがとう」「どこからきたの?」と声をかけてもらう機会が多いそう。

「スタッフから『ありがとう』と言われる以上に、お仕事で関わる方々から直接声をかけていただくのは嬉しいと思うんです。やる気、充実感にもつながってモチベーションも保てますし、実際に外で声をかけていただく経験を積んでいれば、実生活でも役立ちます。だから、なるべく外に出て外の人と触れ合って会話をする場面を大切にしたいんです」

就労継続支援事業を始める上で大切なこと

農業を柱に事業を進めてきたスマイルベリー。ところが、浜松市で就労継続支援事業を始めた当初、農業や草取りなど屋外で行う作業を提供する就労継続支援事業所は他になかったそう。

また、浜松市に続いて富士市で就労継続支援事業所を開設する際も、他の就労継続支援事業所は製造や加工など、室内で行う作業の提供がほとんどでした。

「そのため、富士市で農業に特化した就労継続支援事業所を開設したいと伝えた時、市の担当者から『農業の就労継続支援事業所は他にはないので、富士市にとっても良い事業内容ですよ』と言っていただけました」

つまり、屋外でできる作業を提供することで、就労継続支援事業所の利用を希望する人の選択肢を増やすことができたというわけです。

実際、今まで他の就労継続支援事業所でデスクワークが苦手だった利用者が、スマイルベリーを利用するようになって定着できたケースも多いそう。

それだけに「独自性と利用者のニーズをとらえることが大切」と豊田さんは力を込めます。

「地域にない事業で、地域からも利用者さんからも求められている事業を考えるのがいいと思うので、地域にすでにある就労継続支援事業所の事業内容をよく見ることで、今必要とされている事業が何なのか見えてくると思います。

また地域にいる障害を持つ人たちを、どういう形で支援すれば自立につなげることができるのか。そのことを見極めることも開設後、事業が軌道に乗る鍵になると思います」

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(写真=スマイルベリー)

「そしてもう一つ」と豊田さんが加えたのが、地域の人々との交流です。

「地域の方々とつながっていると実際に協力してもらえることが多いですし、さまざまな意味で、地域と連携しながら行う事業のほうが長続きすると思います。

しかも福祉だけを切り取って充実させても、地域と福祉がつながっていなければ生きづらい社会になってしまいますよね。隔たりをなくすことが、自立の第一歩だと考えているので、これからも積極的に地域とつながりながら、地域でできることを続けていきたいと思います」

取材を終えて

私は40代で精神障害者認定を受けるまで一般企業で働いていましたが、5年ほど前、初めて「就労継続支援」という言葉を知りました。

一般企業では障害者雇用促進法により、福祉の意識が少しずつ浸透していますが、福祉の仕組みやどのような障害を持つ人が社会にいるのかを知らない人のほうが多いのではないかと思います。

ですから、スマイルベリーのように地域に根差した活動を続け、ホームページやSNSで活動内容を発信している就労継続支援事業所は、それだけでも一つの社会貢献であり、利用者の安心材料にもなると思います。

私自身も含め、全国の障がい者が特性に合った作業の提供とサポートを受けられるよう、就労継続支援事業の積極的な展開と地域格差がなくなることを期待しています。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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