働くチャレンジ

開設7年で50人以上の一般就労を実現!「いまここテラス」の情熱

就労継続支援B型事業所「ひふみよベース紫原」でライターとして活動する利用者たちが、全国の就労継続支援事業所の中から心惹かれた事業所を取材し、利用者目線で魅力を紹介する「働くチャレンジ」。

今回注目したのは、大阪の「株式会社いま・ここ」が運営する就労継続支援A型事業所「いまここテラス」。利用者の一般就労のサポートに力を注ぎ、2016年〜の7年間で50人以上の利用者が一般就労をかなえた、とホームページに記載されています。

(画像=いまここテラスHP)

一般就労に向けてどんなサポートを行い、どのようにしてこれだけ多くの一般就労を実現できたのでしょうか。

その秘訣を株式会社いま・ここの代表取締役・村田直和さん(49歳)に伺いました。

「働く」を応援するためにA型事業所を開設

まずは就労継続支援A型事業所を作った経緯について教えてください。

村田さん 僕は16歳から建設業界で働き始め、21歳でとび職の親方として独立したんですが、20代の頃は「自分がお金持ちになりたい」とか「自分の家族を養っていきたい」という思いでがむしゃらに仕事を頑張っていました。

でも30代後半になると「人生の折り返し地点が近づいてきた中でこれからどう生きていくか、何を残していくのか」と考え始め、働く仲間との幸せだったり、仲間と一緒に大きくなっていきたいという気持ちが芽生えてきたんです。

「いまここテラス」の事業所が入るビル(写真=いま・ここ)

それで、もっと多くの人に貢献できる仕事がないか探していた時、「就労継続支援」という形で働くことを応援できることを知り、2016年に就労継続支援A型事業所「いまここテラス」を始めました。

B型ではなく、A型にこだわったのはなぜだったのでしょうか?

(写真=いま・ここ)

村田さん  私の個人的なイメージなんですが、雇用しながら訓練し、ともに成長していけるA型を選びました。雇用も支援の一つだと思ってますし、利用者さんと一緒に働きながら利用者さんの「働く」を応援していくことができる、そう思ったからです。

(写真=いま・ここ)

現在は3つのA型事業所を開設し、軽作業や清掃業務、ポスティング、パソコン業務、裁縫業務など、さまざまな事業を行っています。

福祉の世界で働く人たちとの意識の違い

福祉の世界は初めてということですが、運営していく上でどんなことが大変でしたか?

村田さん  大変というか難しいなぁと感じたのは、福祉業界は一般企業の感覚を知らない人も多く、福祉寄りな感覚の人が多いということでした。

例えば、何か困っている利用者さんに対して、すぐに代わりにやってあげようとするんです。これって一見スタッフの優しさに見えるんですけど、彼らはこれから一般企業への就職を目指しているんですから、「代わりにやってあげる」という行為はスタッフの自己満足であって、彼らのためにはならないんです。だって実際、彼らが社会に出て何か困ったことがあった時、誰かが代わりにやってくれることなんて基本的にないんですから。

この「代わりにやってあげる」という自己満足を「優しさ」と混同している人が多いなと感じました。

職員のサポートを受けながらパソコン作業を行う利用者(写真=いま・ここ)

僕が思う優しさは、その人の未来を考えて「何を言うか、何をしてあげて何をしてあげないか」を見極めること。だからスタッフには「やってあげる」ではなく、やれるまで待ち、利用者さんにやらせてあげて、失敗させてあげる。そういう目線で接しないと絶対成長しないと思うので、そのことを日々スタッフに伝えています。

7年間で50人以上の利用者が一般就労へ

これまでに50人以上の利用者の方を一般就労へと導いていらっしゃいますが、その秘訣は何だと思いますか?

村田さん  秘訣というほどではないんですが、利用者さんたちに「いまここテラスという事業所は就職ありきですよ」と伝えています。「ここをステップにしましょう」とか「自分がやりたいことにつながる仕事や長く働けられる仕事を探していきましょう」と常に伝えて就職への意識付けを行っています。

(写真=いま・ここ)

そして支援をしていく中で、利用者さんを甘やかさないようにしています。

「利用者さんを甘やかさない」ってどういうことなんでしょうか?

村田さん  例えば「ちょっとしんどいので通所を休みます」という連絡があった時、「はい、分かりました」で終わらせないようにしています。「なぜそのような状態になっているのか」「どんな症状があるのか」を尋ね、その上で「まずはお医者さんに相談してみよう」「明日はこうしてみようか」と対策を一緒に考えるようにしているんです。そうやってみんながちょっとずつ変わって自信がついていったというのもあります。

あと、「いまここチャレンジ」という評価制度を始めたのもよかったと思っています。

「いまここチャレンジ」って具体的にどんな取り組みなんでしょうか?

「いま・ここチャレンジ」の概要(画像=いまここテラスHP)

村田さん 「いまここチャレンジ」とは、利用者の方々の仕事への取り組みをより具体的に評価するために作った制度です。

元々、「いまここテラス」では利用者さんの中からリーダーやサブリーダーを各業務の部門ごとに設け、例えば、パソコン業務のチームリーダーになってもらった人は同じ業務の人に仕事を教えるなどしてもらっていました。だから、評価の指標は「教える人」か「教えてもらう人」かの2段階だったんです。

(写真=いま・ここ)

でも、一人ひとりのスキルだったり、やる気や思いやりだったり、もっと一人一人をちゃんと評価できる指標を作りましょう、ということで2021年に作ったのが「いまここチャレンジ」です。評価項目を約60個に増やし、評価のポイントに応じて、時給アップや働く時間の延長、交通費支給など、待遇を向上できるようにしました。

評価してもらえる項目が多いのは利用者にとってすごくいいですね。

村田さん 僕がこの評価システムを作った一番の理由は、A型事業所は最低賃金以上のお給料をなかなか出せないということがありました。働く上ではできる人とできない人、モチベーションの高い人、低い人とさまざまなのに、同じような給料しか出せない。人によっては「あの人より頑張っているのに…」と思う人も出てくるので、一人ひとりの秀でたところをちゃんと評価できる制度を作りたかったんです。

(写真=いま・ここ)

もちろん、自分の評価が低いことに落ち込む利用者さんも少なくないです。そんな時は「ここでの目標は一般就労なので、この評価が全てではないですよ」ということも伝えています。また「いま・ここチャレンジ」で評価項目を約60個に増やしたことで、僕を含めスタッフたちが利用者さんの様子をさまざまな視点から見るようになり、複合的に評価できるようになったのも良かったです。

一般就労をかなえる人が増えると事業所としては利用者の減少に直結しますが、そのあたりのジレンマはないですか?

村田さん もちろん、ジレンマはものすごくありますよ。だってできる人はどんどん一般就労していきますから。「おめでとう!」と泣きながらハグします。でもそれは福祉の世界に限らず、美容業界でも腕のいいスタッフはどんどん独立していきますよね。

だから、僕らは利用者の皆さんが一般就労する際、自分たちの会社に就職したいと思ってもらえるような魅力のある会社になりたいと思ってやっています。「事業所を出ていくだけが選択肢じゃないよ。この会社でも働けるよ」ということを伝えられる会社になりたいな、と。

(写真=いま・ここ)

そのためには僕らが事業を増やし、会社の規模を大きくしていくことが彼らの選択肢を増やすことになると思うので、会社を大きくしていくことも大切な使命だと考えています。

さまざまな立場の人々の「働く」を応援したい

今後、就労継続支援事業所の開設を考えている方々にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えていきたいですか。

村田さん A型であれ、B型であれ、やるからには利用者の方々の人生に触れるということに覚悟を持つこと、そして「なぜこの事業所をやっているんですか?」という問いにちゃんと答えられるようになってほしいですね。

また、これから始めようと思っている人は事業所同士の横の繋がりを作り、協力しながらやっていけるようにするといいと思います。

横のつながりを作ると、どんなメリットに繋がるのでしょうか?

村田さん 私は現在、A型事業所を3か所運営していますが、なぜA型を3つもやっているかというと、一事業所だけではいろんな仕事を受けることができないからなんです。

以前、A型事業所を始めた頃、ポスティングの仕事を1ヶ月で5万枚配るという依頼があったんですが、当時それを一つの事業所でやるのは厳しいなぁということがありました。

(写真=いま・ここ)

一つの事業所だけで仕事を受けると、受けられる仕事のキャパが限られてしまい、事業所としてなかなかいい仕事ができないんです。だから事業所同士、横のつながりを作り、互いに協力し合いながらやっていければ事業に幅が生まれると思います。

最後に、村田さんの今後の目標を教えてください。

株式会社いま・ここ代表取締役社長の村田直和さん(画像:はたらくBASE編集部)

村田さん 「株式会社いま・ここ」ではA型事業所の他にグループホームや企業主導型保育園などを運営していますが、障害のある利用者だけでなく、働いてくれているスタッフもキャリアアップや違う分野の仕事にチャレンジでき、みんなが活躍できる場所をどんどん増やしていきたいと考えています。

具体的には障害がある人、子育て中の人、生活がままらない人、人生経験豊富でまだ働きたいという意欲がある高齢者など、いろんな立ち場の人たちが生き生きと働けるようにするには何ができるか、自分ならどういう形で応援できるかという模索をこれからも続けていきたいですね。

「利用者が自分の置かれた場所でベストを尽くして輝き、周りを照らしてほしい」という願いが込められた企業理念「一隅を照らす」(写真=いま・ここ)

こういう福祉の仕事って明確な思いを持って積み重ねていくことが大事だと思うので、会社として長く続かないと意味がないと思うんです。ですから、スタッフ全員にも伝えていますが、この会社は自分の代で終わらせず、最低でも100年は続けられるようにしていきたいと思っています。

インタビュー取材を終えて

インタビューをしている間、村田さんの言葉には終始一貫して「さまざまな立場の人の『働く』を応援したい」という思いが溢れていました。

そうした強い思いがあったからこそ、これまで多くの利用者の方が一般就労にステップアップできたのでしょうし、個人的にもさまざまな気づきを得ることができたインタビューとなりました。

中でも、村田さんがおっしゃっていた「自己満足と優しさを混同してはいけない」という話は、インタビューの後、ふとしたときに思い出してしまうくらいとても印象的な話でした。

今後、私自身も仕事の現場で誰かに教える立場になった時、この話を思い出し、相手の立場に立って適切な対応ができればと思います。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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