就労継続支援を知る

あなたの事業所は大丈夫? かならずやってくる実地指導

数年に一度の頻度で実施される実地指導。事業所は何を準備し、どう対処すればいいのでしょうか。今回は、実地指導とは何かという基本的な事柄から監査との違い、起こりやすいミスや実地指導官が見るポイント、今後予想される変化までわかりやすく解説します。

実地指導の基本

実地指導とは

実地指導とは、事業所を管轄している自治体が事業所に直接出向き適切な経営がなされているかを確認する作業です。

障害福祉事業は税金を使って運営し収益を上げる、俗にいう「制度ビジネス」です。実地指導とは率直にいうと税金が正しく使われているのかの確認です。法律で定められている内容通りに事業所運営ができているかが見定められます。

障害福祉事業所は、指定申請基準を遵守するという約束のもと指定を受けているため、コンプライアンスを遵守した事業所運営をする必要があります。

常日頃から法令等遵守の取り組みができていると、実地指導のためにいちから準備をしなくともあまり身構えずに実地指導に臨めます。

実地指導に必要な資料

実地指導に必要な資料は、事業所を管轄している自治体のHPから確認できます。

内容は大きくわけて2種類あります。ひとつは実地指導に必要な資料の一覧表。一覧表には「勤務表」や「運営規程」など実地指導で必要となる基本資料が網羅してあります。

一覧表とは別に、自主点検表(指導調書)があります。事業所が実際に正しく運営されているかどうかは自主点検表に記載されている手順に沿って確認されます。

また、実地指導自体は数年に1回ですが、事業所は毎年1回は必ず自主点検表を使って事業所運営に不備がないかの自主点検を実施する義務があります。

自主点検表の内容について詳しく知りたいかたはこちらをご覧ください。
自主点検表で事業所の健全性をはかろう

実地指導の種類と監査との違い

実地指導には集団指導と一般指導(実地指導)の2種類の方法があります。

集団指導 一つの会場で事業者全体に実施される指導
一般指導(実地指導) 指導官が事業所に赴き個別に実施される指導

また、実地指導のさいに重大な違反が認められたり実地指導の期間でなくても内外から告発があったりした場合は緊急監査(監査)が実施されます。

実地指導と監査では目的が異なります。実地指導は事業所に対する助言やアドバイスの側面が強いのですが、監査は事業所を存続させても問題がないかを厳しく審査されます。

監査は、文書で通知が来る実地指導とは異なり電話で「〇〇日に行く」という連絡がなされるため抜き打ちに近く、結果によっては最悪の場合、指定取り消しとなります。

とはいえコンプライアンスに則った運営をしていると監査はまず来ないでしょう。監査を受けるのはかなりイレギュラーな事態かもしれません。

実地指導の頻度

実地指導は基本的に1ヶ月前〜2ヶ月前に「○月○日に指導をする」という文書での通知が来ます。何月ごろに実施されやすいという傾向はありません。

実地指導の頻度は提供しているサービス形態によって異なり、就労継続支援などの通所系サービスは概ね5年に1回、グループホームなどの入所系サービスは約3年に1回のペースです。

ですが実地指導の頻度はあくまで「概ね」であり、必ず3年に1回もしくは5年に1回あるわけではありません。理由は主に3つあります。

1.対象となる事業所の数の増加と幅が拡大しているため

実地指導の対象となる事業所は毎年増加傾向にあり、また、実施指導の対象となる事業も介護保険事業から障害福祉事業まで広がっているため、実地指導を担当している部署の業務量増加が想定されます。

2.開所直後の事業所と成熟した事業所では実地指導のペースが異なるため

立ち上げて間もない事業所には立ち上げ後1〜2年という早い段階で実地指導のスケジュールが組まれる傾向があります。

3.集団指導への参加の有無で頻度が異なるため

集団指導に参加している事業所は自治体からきちんと指導を受けていると判断されますが、欠席した場合は実地指導の基本のペースを待たずに指導が実施される場合があります。

実地指導の流れ

実地指導では指導官が複数名で来所します。指導管にはそれぞれ得意分野がある場合が多く、福祉的な分野に精通しているかたや運営に長けているかたが個別に確認していきます。

事業所は、自治体のHPに掲載されている自主点検表や事業所の契約書、重要事項説明書、個別支援計画書一式などの指示のあった書類を事前に提出します。それらを踏まえ、専門性を持った指導官が順番に必要な箇所のチェックをします。

HPの実地指導に関する文言には「後日提出してもらう書類があるかもしれない」と記載されています。

確認のためにまた連絡する場合があると言われたときは特に結果が通知されるまで気を緩めず、指示があった場合は速やかに対応しましょう。

実地指導で気をつけるポイント

実地指導で起こりやすいミス

実地指導でよく聞かれるのが印鑑漏れや日付けの間違いです。印鑑漏れや日付ミスなどは単純な間違いのように思われがちですが、調書では「周知しているか?」「適切な手順で実施しているか?」が問われています。軽微なミスと認識せずつねに事業所内での意識づけが必要です。

また、同じく起こりやすいミスでも看過されない間違いもあります。加算の要件を満たしていないミスです。

加算を得るためには必ず条件があります。たとえば通所系事業所での欠席時対応加算では、相談対応の記録が適切に出来ていなければ返戻になりえます。

利用者から電話で「体調が悪くて」と言われ、事業所側が「そうなんですね、お大事になさってください」と口頭で伝えたとします。一見、丁寧な対応のように思われますが、この内容では「加算の要件を満たしていません」とはっきり言われてしまうでしょう。

あるいは食事提供加算では、食事に関するアンケートや検食の実施・保存食が必要です。

もし加算の要件を満たしていないと返戻の可能性もあります。繰り返しになりますが、障害福祉サービスは税金を活用して運営している事業です。「知らなかった」は通用しないのです。

実際には事業所が「加算を取得するために必要な体制を整えました」と自治体に申請していることから、適切に対応できる状態にもかかわらず要件を満たさなかったのは「やるべきことをしなかった」といえるでしょう。

実地指導では、体制に問題はなく実施すべき項目をしていても、加算を得るための正しい記録等があるかチェックされます。

たとえば加算のなかには、ガイドブックや実地指導の自主点検表のなかに「個別支援計画等に記載しているか」というような項目があります。

最初に必要な体制や要件について自治体は許可を出したものの、加算の必要性が個別支援計画やアセスメントのなかにきちんと書いてあるかどうかが確認されます。

そのため、日頃から加算の対象となる利用者支援の記録が正しく作成されている必要があります。記録に漏れがあると指導を受けるでしょう。

事業形態に共通したミスの防ぎかた

障害福祉サービスには就労継続支援や就労移行支援、共同生活援助など色々な事業形態があります。

すべての事業形態に共通している、実地指導で特に確認される項目はやはり加算に関わる部分でしょう。

また、自治体のHPには事業所ごとの自主点検表が記載されています。自主点検表は毎年更新されます。変更があった部分は去年と同じ対応ではいけないので、最新の自主点検表でのチェックが必要です。

実地指導をしている自治体のHPを確認し、気をつけるところを踏まえておけば大きなミスは起こりにくいでしょう。

先に述べたとおり、法令等の遵守を日頃から徹底できれば実地指導の直前になって慌てることなく、抜けや漏れがないかの確認程度で臨めると思います。

実地指導はより良い事業所にするため自治体と協力し改善する作業

実地指導における解釈問題

行政が作成しているガイドラインは、断定表現を避け「〇〇等」のように曖昧にしている場合があります。

実地指導の指導官に指摘されることもあるため、「〇〇等」のように細かい部分の解釈をどのように提示できるかが大切です。解釈についてどう対処するかは事業所次第でしょう。

一例としては、実地指導では指導調書に沿って「はい/いいえ」などを各事業所がチェックし提出する決まりがあります。

「はい」と答えたときに何を根拠にしたのか、関係書類は何かの把握が必要です。指導調書のなかに書かれているチェックポイントに必要な書類が記載されているので、内容に沿った記録物を整えてください。

わからないときはすぐに自治体に聞くことが大切

ですが、実地指導や解釈についてはじめから詳しい人はいません。

ガイドラインや中央法規が発行している、指導・監査などについて詳しく書いてある『障害者総合支援法 事業者ハンドブック 指導監査編』のなかで疑問に思った箇所は「これはどういう解釈ですか」と管轄している自治体に聞きに行ったほうがいいと思います。

適切な対応をするため自治体に聞きに行く選択ができるかどうか、ここは非常に大きなポイントです。

記録の書きかたも、サービス管理責任者などが記録が正しいかどうかをチェックすると思うのですが、サービス管理責任者になって間もないと細かな箇所まで行き届かずに漏れが出ることはありえそうです。

わからないときは実地指導を待たずにその都度、自治体に確認したほうがいいでしょう。あるいは情報共有できる同業者との関わりが多いと参考にできると思います。

色々な研修などはほかの事業所との関係構築に適した場所です。関係性を広げられることは事業所の財産になります。

また、集団指導では行政の担当者が事業所に気をつけてほしいことや、前年度の実地指導で多かった間違いなどを具体的に話してくれる場合があります。

たとえば「就労継続支援B型は〇〇という部分での指摘が多く、具体的には△△の漏れがありました」などを教えてくれます。

加えて間違えて算定しやすい加算については毎年のように説明してくれるため、集団指導での情報は大事にしたほうがいいと思います。

実地指導でより良いサービスを

障害福祉サービスは年々事業所数が増え、多くの税金が使われていることから、より正しい運営が求められるようになってきています。

事前に自治体に相談や確認をしつつ、実地指導を通してさらに精度を高めていく必要があると感じます。

怖いイメージを抱きやすい実地指導は、自分たちの事業所を正しく運営するために必要であり、法的根拠をより正しく理解できるチャンスです。

実際、法律など毎年のように変化する事業所運営の注意点や変更点を現場に落とし込めているのかを実地指導を通して自治体と一緒に確認し、改善していくような感覚です。

実地指導では今後新しく求められる対応や変更などについて助言やアドバイスを貰えることもあります。実地指導はとても前向きで、事業所を一緒に成長させてくれる指導なのです。

実地指導の変化と今後の流れ

ペーパーレス化に伴うシステム導入の流れ

実地指導に向けてサービス管理責任者が漏れのない準備をすることと並行して、業務を簡素化するための工夫もしたほうがいいと思います。

障害福祉サービスには、放課後等デイサービスや就労継続支援A型・B型などそれぞれフォーマットに則った記録が作れるようなシステムが普及しつつあります。

本当は統一されたシステムがあると理想ですが、今はサービス形態ごとに異なっているのが実情です。

システムごとに使いやすさは異なるので、内容を十分に確認し事業所の運営に適しているか確認をしましょう。

場合によっては足りない様式があり別途で作成しないといけないケースもあり得ます。反対に、汎用性があり書式作成などの工夫がしやすいシステムもあったりします。

実地指導の根拠となる記録の一部は、求められた書類をデータで提示することも可能となりました。そのぶん、データを迅速に提示することも求められそうです。

ペーパーレス化は今後も進むことが予想されます。今のシステムもさらに改善されていくでしょう。

おわりに

事業所が日々の記録の書きかたに意識を向け、疑問点を早めに確認するのは当然です。実地指導が来るから準備するという認識は間違っているので気をつけましょう。

また、ペーパーレス化の影響で実地指導も紙媒体ではなく電子データでチェックできる部分も増えてきました。システムを使うと業務も効率化でき良い支援のために注げる時間も増えるため、検討してみてもいいかもしれません。

実地指導はいわば助言をもらう段階です。集団指導への参加や、ミスが起こりやすい加算について実地指導を通して理解を深め、コンプライアンス等を遵守し正しい運営をしていきましょう。

今回の記事では実地指導の全体像について解説しました。
自主点検表の重要性や詳しい内容について知りたいかたはこちらをご覧ください。
自主点検表で事業所の健全性をはかろう

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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