就労継続支援を知る

指定申請って何?手続きの流れをおさらいしよう

福祉事業所開設に必須の手続き「指定申請」。資料に基づき申請すれば審査は下りやすいものの、消防法や障害福祉計画、最も大切な人材確保など、実はあまり知られていない重要なポイントがあります。この記事で指定申請の要諦を押さえて不安を解消しましょう。

指定申請の流れのおさらいと補足

指定申請とは

就労継続支援事業所を開設するには、障害福祉サービス事業所として決められた指定基準を満たし、国から指定を受ける必要があります。そのための申請を「指定申請」といい、都道府県または市町村に「事業所指定申請」を提出しなければいけません。

そのさい、申請に不可欠な「法人基準」「人員基準」「設備基準」「運営基準」の4つの基準を満たす必要があったり、申請の手順が決まっていたりといくつもの要件があります。

指定申請の基本的な手続きの流れや概要については以前に解説した記事『「指定申請」って何?介護サービスを始める前に必要な基礎知識』をご覧ください。

指定申請に必要な書類の一覧は、事業所を管轄する県もしくは市町村の障害福祉サービス事業関連のHPで確認できます。必要書類は自治体ごとに厳密に明言されているため、内容に則って作成していくとある程度スムーズに申請が下ります。

指定申請は開所予定日から逆算して申請する

指定申請は「事前協議→申請→審査→現地確認→指定」の流れで進みます。

3ヶ月前〜2ヶ月前 事前協議
2ヶ月前〜 指定申請手続き
手続き終了後 翌月末まで審査ののち、合格すれば翌1日から6年間有効

開所予定日の2ヶ月前には申請書類を提出する必要があり、準備が遅れてしまうと当然、開所はできません。

そのため、法人として中長期計画を設定して開所予定日を定め、開所に合わせ逆算して書類を提出するのが一番のポイントです。

また、開所の2ヶ月前に申請を出した段階では開設に必要な備品などがすべて揃っているわけではないでしょう。指定申請で提出する書類には図面や事業所に何を置くかまで記載するので、物品が揃ったら写真を撮り後日付け足す書類も少なくありません。

指定には最終的に「現地確認」という、文字通り現地での確認(審査)も必ずあります。現地確認で必要なものを揃える手はずが整っているかなども含めた事前準備が必要なのです。

自治体への事前相談で関係を築き申請後に内容調整を

新規の指定申請に必要な書類は山のようにあり、申請前に各自治体の担当者に一つずつ確認すると互いに相当な労力がかかります。しかしスムーズな申請や、担当者との関係の構築の意味でも特に気になる部分は事前に相談したほうがいいと感じます。

申請書を提出し、細かな訂正が必要と判断された部分などの内容を調整していくことで、ピンポイントかつ効率的な修正ができるでしょう。

建築基準法と消防法に関わる「事前協議」

事前協議とは、建築基準法と消防法についての協議です。開所予定の建物がサービスを提供していい場所であるのか、消防法で定められている適切な建物として使用可能であるかなどが問われます。

指定を受けようと予定している建物の建設前に、建物が建築基準法・消防法上問題ないかなど自治体と建設の計画内容について協議が必要なのです(詳しくは『就労継続支援事業所の開設には建物選びがポイント!』)。

もし建築基準法や消防法に適していないと判断されると手を加えないといけません。基準に関しても管轄している自治体のHPに明記されているため、案内に沿って作成すると間違いは起こりにくいでしょう。

所有物件より賃貸(テナント)がベター

事業によって違いはあるものの、一から建物を建設する事業所よりも、賃貸(テナント)での運営を選択している事業所のほうが多いように感じます。賃貸であれば初期投資などのコスト面はかなり抑えられるからです。

また、建物選びのさいはあまり改修せずに借りられる場所を選ぶため、事業所の移転や撤退時の建物の原状復帰も比較的簡単でしょう。もし、土地だけでなく建物が自分たちのものであればただ撤退するわけにはいかず、何らかの形で活用しないといけません。

ただ、テナント形式ではたとえば避難はしごが必要だった場合に、事業所に直接設置ができないと別のテナントのかたと交渉して設置させてもらうケースもあります。箱物の種類や形状によっては一筋縄ではいかないこともありえるかもしれません。

都市部でも地方でもネックとなる「消防法」

初めて開業を検討しているかたは特に、人口の多い都市部と地方によって開業に違いが出るのかが気になるかもしれません。

先ほど述べた賃貸での開業の場合、地方であれば空き家を活用できるかもしれないものの、都市部と地方での開業には場所による違いはあまりありません。既存の建物を使うときにネックとなるのは、都市部であれ地方であれ消方法です。

サービス形態によって消防法上で気をつけるポイントが変わる

グループホームを例にご説明します。賃貸でグループホームを運営するには、一般的なアパートに付いている熱感知器を煙感知器に変えないといけない決まりがあります。

また、建物利用者が1〜6まである「障害支援区分※」のうち区分の4以上の方が概ね8割を超えた場合、消防法の「6項ロ」という建物の種類に変わってしまい、スプリンクラーの設置義務が発生します。

※障害支援区分・・・障害の特性や状態に応じて必要な支援を総合的に判断した区分です。区分は1〜6まであり、数字が増えるにつれ支援の度合いも高くなります。

業者からレンタルもできるので購入の必要はないとはいえ、AEDも設置しないといけないと考える事業所もあるかもしれません。

グループホームの場合は利用者の障害支援区分によって消防法上の施設の基準が変わります。したがって、入居してもらう利用者を把握できていなければ、改修にかかるコストが変動します。

工事をしたものの使わなかったパターンもあるでしょうし、反対に工事をしていなかった場所に突然、障害支援区分の高いかたが入ってきて慌てて設置しないといけない場合もあるでしょう。

こうした突発的な改修を避けるため、開設する事業所の種類によって指定申請を作る段階でどのようなタイプの事業所にするのかを決めておきます。

たとえばグループホームを申請する場合は、障害の重いかたが利用する傾向のある「介護サービス包括型」、日中も利用可能な「日中サービス支援型」、そして外部から派遣された職員も交えた「外部サービス利用型」の主に3種類にわかれます。

このうち、障害支援区分によって基本報酬が設定されているのは介護サービス包括型と日中サービス支援型の2つです。外部サービス利用型は受託介護を利用する場合に区分が必要ですが、利用した場合は、受託介護の委託先から請求を受け支払う為収益は変わりません。

介護サービス包括型か日中サービス支援型であれば、区分1のかたよりも区分5や6のかたに利用していただいたほうが収益は明らかに増加します。

もし介護サービス包括型か日中サービス支援型のどちらかで運営していくつもりであれば初めからスプリンクラーを設置するでしょう。

例に挙げたグループホーム以外にも、就労継続支援事業所や放課後等デイサービスなど、福祉サービスには形態ごとの申請の仕方や施設基準、ガイドラインがあります。収益性や、既存の建物を使う場合は改修費用と改修費の回収方法まで視野に入れ申請に臨みます。

新しく立ち上げるのであれば、最初の段階で福祉の事情にかなり精通していなければ、失敗するかもしれません。

指定申請の命運を左右する障害福祉計画

指定申請の手続き自体は極端にいえば各自治体のHPに書いてある通りに注意深く進めると基本的に大きな問題はありません。手続きそのものよりも大事なのは「障害福祉計画」の把握と「人材の確保」です。この章では障害福祉計画についてご説明します。

開設予定場所を管轄する自治体が求めるサービスを知る

実は、事業所を管轄している都道府県や市町村はそれぞれ「障害福祉計画」を作成しています。

障害福祉計画とは、都道府県や市町村でどの程度の福祉サービスが必要なのかをまとめた計画書です。計画書は自治体のHPから誰でも閲覧できるため、福祉の実情を熟知している人はこの計画を念頭に置いて申請を組み立てます。

たとえば放課後等デイサービス開設を考えているかたの地域の障害福祉計画に、放課後等デイサービスが足りていないと明記されているのであれば認可は下りやすいでしょう。自治体は計画に則って認可を出すため、実際にある市では現在、放課後等デイサービスが急増しています。

反対にサービスが飽和していて不必要と判断されているのであれば、どれほど優れた内容であっても申請が認可されないことがあるかもしれません。障害福祉計画がすべての基本なのです。

したがって「△△市」では放課後等デイサービスが足りていて、となりの「〇〇市」で不足しているのであれば、戦略としては「〇〇市」に申請を出せばいいでしょう。もちろん就労継続支援事業であってもグループホームであっても同じです。

障害福祉計画は全国統一ではなく、ほかの都道府県や市町村では放課後等デイサービスは不足していても別の事業は充足しているなど、各自治体で計画内容は異なります。飽和している地域での立ち上げは難しく、不足している自治体のほうがはるかに認可は下りやすいでしょう。

開設を検討している地域は県と市町村のどちらが管轄しているのかを確認し、障害福祉計画に則りエリアを絞ることが大切です。この計画に沿って進めると、都道府県や市町村などの自治体にどの福祉サービスが足りていないかがわかり指定申請に大いに役立ちます。

福祉の人材不足問題の解決策

障害福祉計画に則り指定申請を出し開設場所も確保できていたとしても、人員が揃っていなければ新規事業所の立ち上げはできません。書類自体は申請の流れに沿って作成できるのですが、従業員ばかりはそうもいきません。

事業を開始できる状態になっても職員がいないのは、経営者が一番頭を悩ます問題でしょう。職員は「配置基準」という、事業所を運営するうえで配置しないといけない最低人数が決まっているため配置は必須です。

事業所の利用者がたとえ1人しかいなくても事業所運営のために必要な人数を配置しないといけないので、人員の確保は簡単にはいかないでしょう。結局のところ、最終的には人員の確保の問題に尽きるのかもしれません。

場所も資金もやる気もあっても人がいなければ事業所は運営できません。おそらく事業を立ち上げようとしているかたは場所もお金も確保できていると思います。ただ働き手の確保はスムーズにはいきません。

福祉業界は今、慢性的な人材不足で働き手は引く手あまたです。しかも開所は数ヶ月先で何が起こるかわかりませんし、入社予定の人の辞退も十分起こりえます。人材確保問題をどうクリアしていくかが問われるでしょう。

異業種からの積極的な採用

オーソドックスな人材確保の方法としては福祉関連の学校を卒業したかたの採用があります。しかし最近は福祉にとらわれない異業種からの採用が多くなっています。たとえば飲食事業を展開している事業所では調理師が活躍できます。

また、教員免許や保育士の資格を持っていると放課後等デイサービスでも資格を活かせます。教員免許があっても公立学校の採用はまだまだ狭き門で、臨時職員として長年働いているかたもいると思います。

教員や保育士として働き続けるだけでなく、資格を活かし福祉業界で働き、児童発達管理責任者やサービス管理責任者など福祉サービスの資格を取る選択肢もあります。

福祉業界は年々、異業種からの転職後に福祉の知識を身に着けるかたが増えているので、業種にこだわる必要はなくなってきた印象を受けます。

放課後等デイサービスではさらに、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)など医療業界のかたも活躍できます。とはいえ医療学校を卒業したての理学療法士や作業療法士を新卒で採用するのはリスクがあるかもしれません。

専門的にも社会的にもまだ経験のないかたが事業所に入ってきてゼロから専門業務をはじめようとしても厳しいかもしれません。一度医療業界で専門的な経験を積み、初めてその能力が現場で役立つと思います。

ただいずれにしても、開設を考えている人は異業種のかたに、病院しかないと思っていた就職先が福祉業界にもある、学校にしか就職できないと感じていた資格が福祉で活かせると知ってもらうアプローチが必要でしょう。

専門的な経験を積み、転職や第二の人生を考えている異業種の人たちと繋がりを作っておくと、もしかしたら次に選んでもらえる事業所は自分たちの所かもしれません。

異業種から福祉業界への転職事例については『就労継続支援の”キャリア論”』にてご紹介していますのでご覧ください。

おわりに

この記事では、以前に解説した指定申請の方法のおさらいと、更に掘り進めた申請の内容をお伝えしました。指定申請には消防法や障害福祉計画など気をつけるポイントは多々あるものの、実際のところ手順に則り書類を作成していけばそれほど難しい作業ではありません。

大切なのは開設に必要なメンバー集めです。人材が集まらないと申請どころではないため人材の確保と、業種にとらわれないコネクションや人脈づくりができている前提があって初めて開所のための基礎ができるのです。

事業所開設のための指定申請を始める前に、ネットワークづくりまで視野に入れた準備ができているかどうかが、ひいては開所後の持続的な運営につながるでしょう。

※はたらくBASEでは、記事公開した時点での法律や制度に則って記事を執筆しております。新しく事業所を開業する場合や、加算などを検討する場合は、最新の法律や、地域の障害福祉サービスを所管する窓口に制度や条件等をご確認ください。

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