若い世代に発症が多い指定難病の一つ「クローン病」
大腸や小腸を中心とする消化器官に炎症が起こり、下痢や腹痛、発熱、血便などの症状が現れる「クローン病」。潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれる国の指定難病の一つで、10代から20代の若い世代に多く発症が見られ、2020年現在、約7万人と推定されています。
クローン病患者は、脂質や繊維質が多い食べ物、刺激物の入った食品を避けるなど、日々の食生活に気をつけなければなりません。私は10代の頃に発症して入退院を繰り返してきました。現在も毎月1回の通院治療を続けながら一般就労を目指して、B型就労継続支援事業所を利用しています。
年々増加傾向にあるこの病気ですが、私の周りに同じ症状で悩んでる人がほとんどいなかったこともあり、このことについて人に話したり、共有したりする機会がほとんどありませんでした。
そんな中、2019年8月、お笑い芸人のお侍ちゃんが日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」に出演し、クローン病を発症したことを告白。激しい腹痛で舞台を降板しなければならなかったこと、入院して苦しんだ体験談などが再現VTRで紹介されました。この放送を見て、私自身も同じようにつらい経験をしてきたので共感し、お笑い芸人として活躍する姿にとても勇気づけられました。
現在40歳のお侍ちゃんはトレードマークのちょんまげと侍の衣装をまとった姿が印象的。クイズ番組にも多数出演し、インテリ芸人としても有名です。現在、仕事にも復帰し、自身のSNSで日々の食事の写真を公開したり、YouTubeで、クローン病と潰瘍性大腸炎の患者に向けた配信を行うなどの活動を展開しています。
今回は、クローン病を抱えながらお笑い芸人として働くお侍ちゃんに、難病発症後の心情の変化、そしてこの病気に関する情報を積極的に発信し続ける理由などについて、話を伺いました。
自分の腹痛はただの腹痛じゃなかった!
――37歳でクローン病と診断された時、どんなお気持ちでしたか?
お侍ちゃん 腹痛が1か月近く続いてどんどん悪化し、病名も分からず不安だったので、初めて病名を告げられた時は「難病で大変だ」という思いより、「病名が分かってよかった」と安堵の気持ちの方が強かったですね。「これでやっと治療できる」とほっとしました。
――クローン病であることをテレビで公表しようと思ったのはどうしてなのでしょうか?
お侍ちゃん クローン病を発症した頃、舞台の仕事が入っていて稽古期間中でした。最初は体調不良という理由で稽古を休んでいたんですが、結局舞台を降板することになってしまったんです。体調不良で舞台を降板することは普通ないことですから、降板理由をきちんと説明しないといけないと思い、病名を公表することにしました。
――病名を公表後、周囲の反応はどうでしたか?
お侍ちゃん 反響は大きかったですね。一般の方はもちろん、同じクローン病を抱えている方たちも注目してくれて、「病気のことを伝えてくれてありがとう」という言葉を随分いただきました。
病名告知後、ある人の一言で体調面の変化を知るきっかけに
――お侍ちゃんはクローン病の患者の方々と積極的に交流していますが、どうしてでしょうか?
お侍ちゃん 自分自身、クローン病について分からないことばかりだったので、クローン病のことをもっと知りたいという思いからです。実際、クローン病の方にお会いすると学ぶことが多いんです。
初期に会った方で今でも心に残っているのは「まず一年、生きてみたら?」という言葉でした。一年間四季があって、寒暖の差もあって、時期に応じて良い時と悪い時がある。一年を通して生活してみると「自分がどういうふうな身体か分かるから」と教えてもらいました。
実際、一年間生きてみると、確かに天候によって自分の体調が変化することが分かるようになり、自分の中でリズムを作れるようになりました。
【クローン病・潰瘍性大腸炎向け】なりたての人が気を付ける3つのポイント
退院後働くことへの意識が大きく変化
――入院治療を終えて復帰されましたが、現在、仕事はどんな状況でしょうか?
お侍ちゃん コロナの影響もありますが、仕事はかなり減りました。病気を公表したことで「まぁ、しょうがないだろうな」という気持ちの方が強いですね。
自分が使う側だったら、なんだかよく分からない病気を持っていて本人は大丈夫だと言っているけれど、「やめとこうか」という風になるのは普通だと思うんです。だから今はいただいたお仕事を一つひとつ丁寧にやって、できることを伝えていくしかないと思っています。
――難病を発症したことで、働くことへの思いに変化はありましたか?
お侍ちゃん 働くことに対する意識はすごく変わりました。
普通の健康状態でいる時は、働くということは当たり前でスタート地点に立った状態。でも難病を発症してみると、日常生活を普通に送れるようになるまでがまずしんどいので、「働く」ということは一つのゴールだと思うんです。
そういう意味では働けることがどれほど特別なことなのか、身にしみて感じるようになったので、「何のために働くのか」「働くことによって自分はどうなりたいのか」とか、そういったことを考えることが多くなった気がしますね。
――ある意味、病気になって気づいたことがいっぱいあったということですね。
お侍ちゃん まぁ、気づきはありました。でも病気になって良かったとは全く思わないです。だって病気になってよかったことは一つもないし、健康でいられるならその方がいいですから。
でも、僕が37歳で発症したように、難病を発症する人は年々増えています。今、SNSでクローン病のことを発信していると、同じ病気を発症して不安になっている人やご家族から連絡をいただくことも増えているんですが、今まで同じ病気の方と交流して情報交換させてもらった分、自分もアドバイスができるようになってきたかなと思います。
また、情報発信することで、そうした情報を欲している人がたくさんいることも分かったので、自分なりに発信していくことに意義があると感じています。
この病気の「リアル」を発信していきたい
――これからも前向きな発信を通して、少しでも難病の方たちにエールを送っていきたいと思いますか?
お侍ちゃん もちろん、あります。でも全部の発信が前向きである必要はないと思っています。
というのも「これが食べられなくてつらい」かと「今日はちょっとしんどかった」みたいなリアルな情報の方が、同じ病気の人にとっては「きついことはみんなあるし、つらい時は愚痴を言ったっていいんだ」と思ってもらえるんじゃないかと思うんです。
――きれいごとではなく、自分のリアルな思いを発信していくっていいですね。
お侍ちゃん 自分の場合、たまたま今は症状が安定していますが、病気の症状は人それぞれ。だから自分が実践していること、思っていることを発信していくことで、見てくれた人の病気に関する引き出しの中身が増え、一つの選択肢として持っておいてくれたら、何かあった時の解決方法の一つになるんじゃないかなと考えています。
クローン病は特に10代、20代で発症する人が多くて、若くして発症すると、人生に絶望しがちなんですよね。病気と付き合い始めて何年かたつと「大丈夫だよ」と言えるんですけど、病気になったばかりの頃って毎日つらいことの連続。
そんな人たちに「普通に生活できる可能性はあるし、希望があるよ」というメッセージをこれからも伝えていきたいと思います。
インタビュー取材を終えて
病気を発症するとつらいことが多く、将来への不安もあります。
でも、お侍ちゃんは「きついこと、つらいこと、将来に不安を感じることはみんなあるので、そんな時は愚痴ってもいいし、そのほうが日常生活がより過ごしやすくなるのではないか」と話し、私はその言葉に大変共感しました。
また、働きたくても思うように働けない現状を受け入れ、与えられた目の前の仕事を精一杯頑張るー。その姿勢にも多くの勇気をもらいました。
「普通に生活できる可能性はあるし、希望があるよ」というお侍ちゃんのメッセージが難病を抱える多くの人たちに届くことを祈りつつ、私自身、これからも自分のできる範囲で精一杯働いていきたいと思います。