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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

このインタビュー記事を書いている私は、鹿児島にある就労継続支援B型事業所「ひふみよベース紫原」の利用者として日々、さまざまな記事を書いています。よく「変わった事業所だね」と言われることがありますが、確かにこのような仕事をする事業所は、県内であまり聞いたことがありません。

そんな私が興味を持ったのは、東京は千代田区神田でコーヒー焙煎所と併設のコーヒースタンドを運営する、とても珍しい就労継続支援B型事業所「ソーシャルグッドロースターズ」。この事業所を運営する「一般社団法人ビーンズ」の代表を務める坂野拓海さんに話を伺いました。

目次

  1. コーヒーの仕事でステップアップを目指す就労継続支援B型事業所
  2. 良い商品を作るため、価値ある仕事を
  3. ボランティアをきっかけに福祉の世界へ
  4. 利用者のステップアップの仕組み
  5. 坂野さんが考える「就労継続支援B型事業所」の在り方
  6. 取材を終えて

コーヒーの仕事でステップアップを目指す就労継続支援B型事業所

まずはソーシャルグッドロースターズがどのような事業所か教えてください。

坂野さん ソーシャルグッドロースターズは就労B型ではあるんですが、障害の有る無しにかかわらず、コーヒーのバリスタや焙煎士になりたいという方がバリスタや焙煎士の仕事を覚えながらコーヒーの仕事でステップアップしていただく場所になっています。

ということは、バリスタや焙煎士に興味があって利用する方が多いんですか?

坂野さん 多いのは確かですが、たまたまココで出会って興味を持った方もいます。元々ちゃんとバリスタや焙煎士をプロの仕事としてやっていくためのスタート地点になるための場所があまりなかったんです。そういう珍しさもあって海外からも「ココを利用したい」という方がいました。もし引っ越してきたら是非、とお断りしたんですけどね(笑)

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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

写真からも開放的な感じが伝わってきますが、気軽に入れそうな雰囲気ですね。

坂野さん 中にコーヒースタンドも併設しているので、福祉施設なんですけど福祉施設っぽくない。お客さんが普通に出入りできるオープンな感じになっているのが特徴です。

「今週末、よかったら俺と福祉施設に行かない?」という誘い文句って普通はないですけど、ココは普通にそういう感じで「ソーシャルグッドロースターズに行かない?」とか。福祉施設ってどうしても閉じちゃうものなので、開かないといけないんですよ。

良い商品を作るため、価値ある仕事を

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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

利用者の作業のひとつに「欠点豆」を取り除く「ハンドソーティング」という作業があるそうですが、コーヒーの品質を保つための大切な作業だそうですね。

坂野さん ハンドソーティングは「障がい者でもできる仕事」と言われることもあるのですが、「おいしくて安全なモノ」ができるからやってるだけ。ソーシャルグッドロースターズのコーヒーの味わいをつくる重要な仕事のひとつでもあります。

価値がある仕事っていうのは、誰がやっても価値がある仕事。だから、美味しいコーヒーを作る場所で、美味しいコーヒーを提供できることに対してみんなで力を合わせて努力をしているだけなんです。

つまり障害があってもなくてもやることは一緒。そんな風にフラットに考えていますね。

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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

ボランティアをきっかけに福祉の世界へ

そもそも、なぜ福祉の世界で法人を立ち上げようと思ったのでしょうか?

坂野さん 元々ボランティアで障がい者の外出支援などに関わっていたんです。その時、障害を持っている当事者の方やご家族の方、ハンディキャップを持っている方から「やりたい仕事が見つからないんだよねぇ」という話を随分聞きました。実際、自分も一緒に探したら、確かに心惹かれる仕事がない。

「じゃあ、やりたい仕事って何?みんな何やりたい?」と当時支援していた200人の方に聞いていったら、やりたい仕事がいろいろでてきたんです。それで、グチグチ言ってるよりやった方が早いし、「作ってから考えればいいや」とコーヒーの焙煎の事業所を始めました。

坂野さん自身、コーヒーが好きだったんでしょうか?

坂野さん コーヒーが好きだったわけではないんです。外出支援の利用者からの「カフェとかコーヒーとかの仕事って楽しそう」というざっくりとした言葉がきっかけでした。「楽しそう」という感じだったのでやるなら本気でやった方がいい。ゴリゴリに本格的にして、誰もが「働きたい!」とか「かっこいい!」って言われるレベルまでやった方が面白いな、と思って。

元々、焙煎の知識はなかったんですが、3か月猛勉強してオープンしました。今ではかなり詳しくなりましたよ。人間、やる気があれば何でもできるんです。

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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

3か月でオープンとは驚きですが、トラブルなどありませんでしたか?

坂野さん 実は設計士の人が「3か月では無理」って途中で放り出しちゃったんですよ。それでしょうがないから、自分で家具の場所や配置を決めたり、僕が当時住んでいたマンションの1階の不動産屋が80歳のおじいちゃんなんですけど、昔大工の棟梁でその方に泣きついて作ってもらいました。職人はすごいですよね、ホントかっこよく作ってもらいました。

利用者のステップアップの仕組み

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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

ソーシャルグッドロースターズでは、利用者は将来の就労に向けてどんなステップアップを踏んでいるのでしょうか?

坂野さん 最初はコーヒー以外の仕事に進む道もあるのかな、と思ったんですが、今はコーヒーの仕事でその人が成長してほしいと思っています。

東京でもカフェのお店や会社ってあるじゃないですか。今そういう会社との提携を進めようとしていて、ウチで働いてある程度のレベルに達してその推薦状を持っていったら、その会社にスタッフとして就職できる。そういうステップアップの仕組みを作ろうとしているところですね。

そのための制度づくりやお店でのサービス業としてのトレーニング、教育システムづくりに力を入れています。

坂野さんが考える「就労継続支援B型事業所」の在り方

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(写真=はたらくBASE編集部)

就労継続支援事業所を作る上で、就労継続支援のあり方についてはどのように考えていますか?

坂野さん よく「事業所を展開する」という話がありますが、「展開する」って言葉が好きじゃないんです。事業所という箱を作って障害を持った人を受け入れるだけでは誰も幸せにはならないし、そういうために福祉の世界があるわけではない。

その場所があることでより成長できるようなものが作れるのならば、やった方がいいし、そうじゃなかったらやらない方がいい。人の成長には時間がかかるので、一人ひとりの成長に合わせてその方のスピードでフィールドが広がっていくというのが好きなんです。

障害や難病を持っている方がその中でやりたいこと、その実現をお手伝いするのが就労継続支援事業所であって、「器を作ったから来てね」じゃないってことですね。

坂野さん コーヒー屋とかラーメン屋とか良いものを提供してお客さんがお金を運んでくれる、お客さんが来るからお金になる。コレはいいんですよ、ビジネスなので。でも福祉はビジネスではなくて、人間に対してどんな価値を提供できるかというところが大事。福祉は「人ありき」なんです。

だから「事業所を作りたいけど、何をすればいいですか」という質問は的外れで、今困っている人や何かを求めている人のために何ができるかを考えた結果、やり方の一つとして事業所があるという順番なんだと思います。

もちろん、やる以上は利用者の方たちへの責任があるんで「こういうふうに皆さんが利用できるように私たちは頑張ります」と約束できるくらい、腹くくってやらなきゃいけないし、その気持ちがあれば逆に何でもできますよ。

最後に今後の夢や目標を教えていただけますか。

坂野さん 現場が好きなんです。しかも障害があってもなくても気持ちよく生きていきたいっていう思いはみんな一緒だと思うんで、そこをやっていくのが好きなんです。だから福祉をやっててよかったなあ、それに専念できるいい仕事だなと思っているんで、これからもちゃんと続けていきたいですね。

よく「障害という言葉をなくしたい」とか、「ユニバーサル」とか耳にするんですけど、それは考え方であって、体験としてそれを感じられる場所がまだあんまりないんですよね。

やっぱり自分で経験しないとわからないので、そういう体験ができる場所を増やしていきたいし、そのためにはコーヒーがツールとしてすごくいいんです。コーヒーを飲んだ人が「障がい者が活躍するってこういうことなんだ」「障害の有る無しは関係ないよね」というようなことを体験できる場所を増やしていきたいと思っています。

もちろん、他にもいろんな仕事に挑戦してみたいって方も多くいらっしゃるので、そういう方が活躍できる場所も増やしていきたいですね。

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(写真=ソーシャルグッドロースターズ)

取材を終えて

今回の取材では、ソーシャルグッドロースターズができるまでの経緯だけでなく、坂野さん自身が就労継続支援の在り方をどう考えていらっしゃるのか、具体的に聞くことができました。

「閉鎖しがちな福祉の世界はもっとオープンでなくてはいけない」という話を聞き、今自分が利用している事業所にたどり着く前のことを思い出しました。

働きたいけれど体調が優れず、一般就労も難しく、にっちもさっちも行かない状態になっていていた当初、私は「就労継続支援事業所を利用する」という選択肢を知りませんでした。その後、知人の紹介でそういう事業所があることを知り、今に至ります。

インタビューの中で「まず困っている人の声に耳を傾けた上で、どのような器を作るか考えることが大切」と強調していた坂野さん。この考えを貫いているからこそ、ソーシャルグッドロースターズが単なる「物珍しさ」ではなく、しっかりと人が育つ環境として成り立っているんだと実感しました。

ソーシャルグッドロースターズのように、利用者の思いに本気で向き合ってくれる就労継続支援事業所が日本各地で増えていくことを願っています。