最近、「発達障害」という⾔葉をよく⽿にします。
「発達障害」は⽣まれつきみられる脳の働き⽅の違いにより、⾏動や情緒⾯で障害が出ることから、⼦どもの頃に診断される⼈が多いもの。でも、⼦どもの頃は気づかず、周りからも⾒過ごされ、⾃分が抱えている⽣きづらさの原因が分からないまま⼤⼈になり、ようやく発達障害と診断される⼈も多くいます。
また発達障害と同様、「境界知能」という知的障害のグレーゾーンも社会から⾒過ごされることが多く、⽇々⽣きづらさを感じている⼈がたくさんいます。
実は私⾃⾝、「境界知能」という診断を受け、同じように悩んでいる⼈がいないかとYouTubeで検索したところ、⼤⼈になってから発達障害と診断された後、発達障害や境界知能であることを隠すことなく情報発信をしているなんばさんの動画に出会いました。
そこで今回、YouTubeで情報発信を⾏っているなんばさんに、発達障害や境界知能とどう向き合い、どのように働く道を模索していかれたのか、お話を伺いました。
Profile なんばさん フリーランスでwebライターの仕事をしながら、病気や障害で悩んでいる方へ向けてYouTubeで情報発信をしている。自身も発達障害、うつ病、境界知能の当事者。現在29歳。 |
社会⼈になって気づいた「⽣きづらさ」
なんばさんが病院で発達障害と診断されたのは、27歳の時でした。
5年半ほど勤めていた会社で、マネジメント的な業務を任されるようになった時のこと。上司に期待されるものの、うまく対応できず、⾃分はマネジメントとしての役割を果たせているのだろうか…と感じ始めたのが⼩さな違和感の始まりでした。
「上司から指⽰された業務の要点をつかんで⾏動することが難しく、仕事の優先順位をつけることも難しかったんです」
境界知能を持っている⼈は指⽰や説明を理解するのが難しかったり、何から始めてよいか分からず、困ってしまったりすることが多々あります。
なんばさんも、職場の⼈とコミュニケーションを取ることが苦⼿で仕事上でのトラブルも増え、マネジメントとしての役割を果たせなくなっていきました。
そして⾃分には適していない仕事なのだと思い、仕事を辞めることを決⼼します。
⾃分の⽣きづらさの原因が分かり、「ほっとした」
その後、⾃分の感じる⽣きづらさの原因を探るため、病院で検査を受けたところ、発達障害と診断されました。「診断結果に驚きました。でも、⽣きづらさの原因がようやく分かってよかった、という安⼼感の⽅が⼤きかったです」
しかし、なんばさんは⼤⼈になってから発達障害と診断され、思うことがありました。
それは「⼤⼈になってから発達障害と診断された⼈は報われない」ということ。
「書店で発達障害の本を探したところ、⼦どもの発達障害に関する書籍ばかりでした。発達 障害は世の中で認知されてはいますが、⼤⼈になってから発達障害と診断された⼈はどう やって⽣きいけばいいのか分からない。僕も今後のことや仕事のことについてすごく悩み、『これからどうしよう』と不安でいっぱいでした」
27歳で発達障害と診断されたなんばさんは、どのようにして今の仕事にたどり着いたのでしょうか。
「⾃分の個性を⽣かせる仕事をしたい」
社会で⽣きていくことが難しいと感じたなんばさんでしたが、就労継続⽀援事業所などの⾒学には⾏かなかった、と話します。
「いろいろ調べたのですが、就労継続⽀援事業所での仕事内容に⾃分が興味を持てなかったというのが⼀番の理由でした。⼿続きも少し⾯倒に感じて、⾏動を起こせなかったということもあります」
⾃分の個性を⽣かせる働き⽅を考えるうち、なんばさんが選んだのはフリーランスという働き⽅。⾃宅を拠点にwebライターとして働き始めました。
「⼀般就労で働くとなると、他⼈とコミュニケーションを取らなければなりません。⼀⽅、 webライターという仕事は、ほとんどが⽂⾯でのコミュニケーション。クライアントさんとのやりとりもメールやチャットが中⼼なので、コミュニケーション能⼒はそこまで求められなかったのも⾃分に合っていました。もちろん、フリーランスですから、クライアントさんからの指⽰や納期に間に合わせるという点ではプレッシャーはあります」
他⼈とコミュニケーションを取ることは、仕事をする上で避けられません。しかし、境界知能を持っている⼈は、コミュニケーションを取ることがとても苦⼿です。
例えば、何⼈かで雑談をしているとします。その場では相槌を打っていますが、話の内容が理解できず、頭の中では別なことを考えていたり、必死に話の内容を理解しようとして頭がパンクしてしまうことがあります。
そんな中、なんばさんが⾏っている在宅中⼼でのwebライターの仕事は、⽂⾯でのコミュニケーションが多く、その場でコミュニケーションを取るということがあまりないので、発達障害や境界知能の⼈にもwebライターという仕事は合っているのではないでしょうか。
⾃分と同じように⽣きづらさを抱えて悩んでいる⼈に向けて情報発信
なんばさんがYouTubeで情報発信を始めたのは2020年1⽉頃。⼦どもがなりたい職業ランキングの上位に⼊っている「YouTuber」ですが、なんばさんがYouTubeでの情報発信を考えたのは報酬⽬当てではなく、別な思いからでした。
「YouTubeをやって報酬を得るというより、⾃分の体験談が⾃分と同じように⽣きづらさを感じている⼈たちのヒントになれば、との思いからでした。でも情報発信を始めてみると、⽣きづらさを感じている⼈たちからの反応がダイレクトに届くので、逆に僕の⽅が『⾃分だけじゃないんだ』と思える⼤切な居場所になりました」
実際、私もなんばさんのYouTubeチャンネルを⾒て『⽣きづらさを感じているのは私だけではないんだな』と思えて⾃分⾃⾝の⼼がとても楽になりました。
現在、なんばさんのYouTubeの登録者数は705⼈(2021年4⽉現在)。主に、発達障害やうつ病、境界知能のことについて発信しています。
また、発達障害の適職や仕事観など仕事に関する動画もアップ。
【ASDならこの仕事がオススメだよ】【発達障害の仕事観】【嫌なことを辞めてみる】などの動画が投稿されており、『当事者の⼈が顔出しし、仕事に対する思いなどを動画にしているのはあまり⾒ないな』と動画の内容に興味を惹かれました。
⾃分の個性を⽣かし、理想の働き⽅を⾒つける
以前は、5年半ほど勤めていた会社で仕事の役割を果たせているのだろうかという⼩さな違和感から始まり、病院で発達障害と診断されましたが、⾃分の個性を⽣かせる仕事を⾒つけたいと思い、今はwebライターという仕事をしているなんばさん。
最後に、なんばさん⾃⾝は今後どんな社会になってほしいと思っているのでしょうか。
「発達障害という障害があっても、仕事にやりがいを持って働ける社会になってほしいです。そして、⾃分のように⼤⼈になってから発達障害と診断された⼈に、もっと関⼼を持ってもらえたらなと思います」
インタビュー取材を終えて
障がい者、健常者だからではなく、皆が平等に働きやすい社会なってほしいと多くの⼈が思っています。
今回、⽣きづらさを感じながらも⾃分に合った仕事を選び、理想の働き⽅を⾒つけるなんばさんにお話を伺いましたが、⼈にはそれぞれ得意、不得意があり、その中で⾃分の得意であることを仕事にし、障害があっても⾃分の可能性を⾒いだすことができるのだと思い、「障害があるからと挫折せず、私⾃⾝も新たなことに挑戦してみよう」と感じました。
今、障がい者への不当な差別は禁⽌されています。しかし、悲しいことに障がい者への不当な差別⾏為は今も起こっています。「合理的配慮」がもっと周りに浸透し、私達障がい者が⽣きやすく、働きやすい社会になってほしいと思います。